#2‐2
話の流れと長さ故、ちょっと短かめ…
「報告書は読ませてもらったわ。書式も問題ないし、特に大きな問題があった訳でもなさそうだからこのまま受理するわね。楓ちゃんはお大事に。」
翌日の放課後、生徒会室で俺たちは報告をしていた。
といっても、一定の書式の報告書にどんな幻魔が出現し、どう対応したのか、被害はどれだけかを記入して提出するだけだが。
「で、最後のこの一行…白コート集団による銃撃なんだけど………」
佐伯会長は言葉を躊躇うかのように切るが、一呼吸おいて
「………あれも睦斗市の対魔集団の一つなのよ。『学生連合実動処理執行部』…古くからある、魔術師や異能者以外の一般人で構成されるグループなの。」
その名前は過去の資料を見ると度々見る事があった。
その多くが喧嘩や対立なのだが、二、三は協力をしたという記述もある。
「うちら『術師連合』とは敵対こそしないし、目的は一緒なんだけど仲が悪いというか、向こうが一方的に魔術師を目の敵にしているというか…」
どういうべきか、迷っているようにも見える会長は
「…元は一時期に魔術師以外の生徒の戦力化をしようとして睦斗学院を中心に結成された組織なんだけど、結局喧嘩別れしてね」
おそらく、結成間もなく装備も戦法の確立もできていない彼らが足手纏いになってしまい、それ故に不要とされたから喧嘩が起こったんだろう。
「まあ、そういう連中もいるって事だけ記憶の片隅に留めておいて。『うちの生徒が誤射された』って苦情は叩きつけておくから」
物凄くイイ笑顔で会長はそう言い、俺たちの報告は終了。
そのすぐ後にそれぞれ先輩から仕事を言いつけられて俺たちは表の生徒会の仕事に駆けまわることとなった。
* * *
数日後…
「今月に入って三件。これはそろそろこっちも堪忍しきれないわね」
「そうね。」
「幸い、ケガ人で済んでいるからまだ良いが…」
佐伯会長の声に細面の少女とガタイのいい青年がそれぞれに応えた。
聖奏学園の生徒会応接室で佐伯会長ほか、三校の市立高校の生徒会長が会議を開いていた。
集まっているのは第六高校の吉川会長と第四高校の有沢会長、それと第三高校の藤堂会長。
『学生術師連合』を構成する高校の生徒会長たちだ。
ちなみに俺は報告者兼速記役として参加している。
「苦情の方も何処吹く風だし…ここらで一発『ガツン』とやるべきかね」
佐伯会長がさらっと物騒な事を言うが、俺としても一発殴ってやりたいとは思う。
危うく撃ち殺されかけたんだ。それぐらい構わないだろう。
それに、あの後に出動があった時も同様に幻魔ごと撃たれるなどしている。
「…だが、執行部の連中に助けられている面があるのも事実だ。……適性のある者で、戦闘向きなのは限られているからな」
「魔術師や異能者、精霊契約者は才能に左右されますからね」
「魔力量にも個人差があり適性もバラバラ。戦力化としては向こうの方が効率的よね」
だが、会長たちは利点と欠点を比べて唸り、黙り込んで考え始めた。
カチカチ、と時計の音だけが響く。
「…一度、殴り合いしに行くか」
ぽつり、と藤堂会長が呟く。
内容は物騒だが…
「そうね。書面通知も限界があるし…」
「一度、喧嘩しておくべきかもしれないわね」
それに同調する他の会長たち。
方針は『一度、面と向かって喧嘩をする』になりつつある。
「それじゃ、日時のすり合わせはお互いに手空きの日を確認後ってことでいいわね」
その一言が合図となり、会議は終了。
日時のすり合わせはメールにて、という取り決めが為され、それぞれの学校に戻って行った。
「さて、喧嘩の準備を始めるとしますかね」
生徒会室に入って開口一番の会長の言葉に俺たちは苦笑するしかなかった。
殴り込みの日時が決まったのは三日後。
決行は日時決定の日から一週間後の週末…土曜日に決まった。
* * *
殴り込みをかけることが決まってからの毎日は俺に地獄のような訓練が課されるようになった。
具体的にはこの間の出動で使った『防壁展開』を使いこなせるようにする訓練だ。
方法は…
「やぁっ」
「ほらほら、耐えないと黒焦げになるわよ」
楓の焔に炙られ続ける事だった。
これが難しくて焔弾だけでなく熱も防がなきゃならない。
手加減してくれているとはいえ、喰らえば火傷は確定。
………楓が手加減に失敗して二、三度致死ギリギリの大火傷して夏元先輩に治療してもらったのは『イイ』トラウマだ。
「でぃやぁぁぁぁ!」
そして最近は紗枝先輩が不意に剣戟を加えてくるようになった。
ぎゃん、と音と火花を散らし展開した防壁が刀を受け止める。
「ふう。」
なんとか防御成功。
タイミング良く防がないと第二撃で切り殺されかける事もある。
………首の皮って、意外と丈夫でなんとか繋がるもんなんだよね。
頸動脈をギリギリで避けてくれるからなんだけど
これでも五回くらい、夏元先輩のお世話になりました。
頸動脈も一、二度あったし………
これらのイジメにしか思えない訓練は全て対執行部戦における対策だったりする。
まあ、銃撃の雨対策の壁役の為の訓練な訳なんだが。
なんというか…人間塹壕?
「…こんなものでいいかしらね。真っ向から遣らないで済むにこしたことは無いけど。楓ちゃん、最後に一発」
…うえ
「とーや、行くよォ!」
完全に手加減なしの一撃なのがパッと見の火球の大きさで判る。
「くっ」
梨紗先輩の刀を受け止めていた障壁を消し、全部を正面に向ける。
梨紗先輩も巻き添えを避けるために離れ行く。
「そぉぉぉぉぉれぇッ!」
俺の身長より大きな…二メートルくらいありそうな巨大な焔球が迫って来る
「こんちくしょーッ!」
出し惜しみなしで全力を注ぎこむ。
「わお」
魔力障壁が銀色の壁となるほどの密度に圧縮されぶつかって来る焔球を受け止める。
焔球が消える時には俺も魔力を使い果たす直前にまで追い込まれていた。
………まあ、数時間焔を防ぎ続けていればそうなると思うぞ、普通。
「よし、合格。」
耐えきった俺に会長が軽く言う。
「それじゃあ、明日は休息、明後日が本番だから体調を万全にね。ちょうど土曜日だし、ゆっくり寝ておきなさい」
『明後日』
その日の為の拷も…特訓だ。
それでもやって来る『表』の雑用は済ませねばならず最終下校時刻を三十分ほど過ぎてようやく帰路につくことができたのだった。
………ゆっくり休めっていったのに。