#14‐1
お待たせしました。
大学が始まって、ガイダンスだの書類処理だのと慌ただしくなってしまったのですが、なんとか出来上がりました。
それでは、どうぞ。
「さて、そろそろ時間ね」
私はそう、生徒会室の時計を見上げて呟く。
机の上には封筒が一つ。
その中には一枚の便箋程度の大きさの紙が畳んでおさめられており…
今から、その内容を壇上で話す予定なのだ。
―――入学式のお約束。
生徒会長挨拶。
去年の自分たちが見つめる中でやることになるなんて思ってもみなかった。
「さーて、精々『見た目不相応に頼りになる先輩』でも演じてくるかな」
時計は入学式開始時刻の十分前。
会場入りするように指示が出たのはつい先ほど。
机の上の封筒を制服のポケットに差し込み、軽く身だしなみチェックをしてから私は生徒会室を後にした。
* * *
「あ~、う~」
入学式が終われば新入生オリエンテーション(生徒会主催)が有り、
在校生との交流会(生徒会主催)が有り、委員会の委員長会議が有り、少し間が空いて生徒総会(生徒会主導、四月末)がある。
更には五月末に予定されている『生徒会連合の首長会議』と『学校間交流会』も早めに企画を出しておかないとならない。
まあ、ぶっちゃけると企画運営しなきゃいけないイベントが盛りだくさんな訳なんですよ。
しかもその仕事のうちの半数は『会長でなければ決済できないもの』だから始末に悪い。
更に楓から直々に『お願い』された事もある。しかも一筋縄ではいかないもので三月からずっとやってるけど漸く先が見え始めてきたくらい。
てな訳で、一種のデスマーチ状態な私はようやくひと段落ついたので気の抜けた声悲鳴モドキをあげていたのである。
ああ、机が冷たくて気持ちい―――
春の温かい気候についウトウトとしてしまい、瞼が完全に落ちそうになった瞬間――
『ずどォぉぉぉおおおお―――ん』
腹の底から響くような爆発音で否応なく眠気は吹っ飛ばされた。
生徒会室の窓(注:ここ六階)にもくもくと上がってくる土煙に私は溜め息をつきながら窓を開け、大きく息を吸い―――
「そこの集団!なにやらかしてるの!!」
大声で叱咤。
逃げ出す一団。
こんな事が出来るのは化学部の連中だけだから限定は出来るけど個人の特定まではできない。
けれど所属団体に厳重注意をしに行かなきゃならない。
部室へ乗り込んだ所、紗枝先輩から代替わりして部長になったばかりの同級生がジャンピング土下座という高等技術を以って迎えてくれた。
…とりあえず、化学部も苦労しているらしかった。
* * *
それから数日後、
「失礼します」
生徒会室に見慣れぬ人物が現れた。
見慣れてはいないが、面識がないわけでもない。
「あなたたち、何の用?」
人数は三人。男子二人と女子一人。
いずれも高等部所属で、今年度に高校一年生に上がった子たち。
そして、六階に上がるには人払いを突破してくる必要がある。
突破できる条件は、魔術が使えるか、異能の血が流れているか、精霊か、前述した人物に手引きされている事。
つまり、この三人は…裏にかかわる要素を持っている。
「えっと、生徒会に入れてもらいに来ました」
そう、少女―冨坂紫音は言い、残りの二人も肯首した。
三人が言うのはこうである。
自分たちは不可思議な体験をしたがそのことは妙に伏せられている。
それを知るには生徒会が一番近いと感じた。
生徒会は役員を募集していないので会長に直談判しに来た。
「…なるほど。話はわかったわ」
とはいえ、唯奈には『ハイそうですか』と役員に加える気はさらさら無い。
「だけどね―――」
ずどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ………ん
爆音、再び。
目の前の三人が何か怯え始めた。
けど、そんな些末な事はどうでもいい。
私は窓を開けて、吼えた。
「化学部ッ!」
古人曰く『仏の顔も三度まで』。
三度以上の厳重注意でまだ辞めないその犯人に私は自制を忘れて行動していた。
すなわち、
「あ、ここ六階―――」
窓からの飛び降り
全身をばねのようにして着地、逃がしきれない衝撃はそのまま前転し地面を転がって対処。
前転の勢いで起き上がって、唖然としている下手人に襲いかかる。
「きゃー」
飛びかかられた相手諸共地面を転がり、なんとか確保。
そのまま化学部部室へと連行し化学部顧問、部長、私の三人で一人当たり三十分、合計一時間半にも及ぶ説教タイムが始まる事になる。
* * *
「一年三組の冨坂紫音です」
「えっと、秋山進です」
「藤村浩平です」
「以上の三人が仮だけど加入しました。はい拍手」
姉さんの声に一斉に拍手する皆。
どういう訳か、私が生徒会室に戻ってきたらさっきの三人が全員仮加入になっていた。
ただ、それはあくまでも『表向き』でしか無い。
私以外の全員が加入を認めている以上、私一人がゴネても無意味。
―――決して拒否した時の姉さんの行動が恐ろしい訳ではない。
「判った。今から届け作ってあげるから、ちょっと待ってて」
そう言いながら、私はパソコン前に付き、
「ようこそ、非日常へ」
それだけ言ってから説明関係は姉さんに丸投げして入部届けモドキの作成を始めたのであった。
誠と楓もそうだったけど、随分と早い事で…
そう思いながら。
* * *
四月半ば、入学式から二週間ほどが経過し、イベントの半分が終わった頃…
「はい、それじゃあここの所を反復練習ね」
姉さんが主体となって新米役員の戦力化作業―つまり教導が行われていた。
私がやってもいいけど、それは主に遥と晶と篠田の三人に禁止された。
折角、三人軍隊化させようかと思ったのに…
まあ、そのおかげで私は会長と総長の仕事に専念できるから有り難いと言えば有り難いんだけど。
「さてと…それじゃあ見極めの日程もそろそろ決めないとね」
そんな話題が出始めた時、
「西睦斗七丁目に空間の歪み発生。結界展開まで三十秒」
今まで減少傾向にあった幻魔の久々の出現。
「西睦斗なら、ウチらじゃ無くて第二高校の方ね」
以前なら大急ぎで出撃していたけど、今は執行部担当区域でも心配無く任せていられる。
…けれど
「西睦斗六丁目に空間の歪み発生。結界展開まで一分」
「西睦斗二丁目に空間の歪み発生。結界展開まで二分」
前の教訓から増やした警戒毛玉ズが次々と歪みの発生を伝えてくる。
「姉さん!」
私は椅子をけたげて飛び出し、
「判ってるわ。三人とも、見学会よ」
姉さんも指導中の三人を連れて私の後を追ってくる。
「楓と遥は生徒会室で続報に警戒して、必要なら出て。先輩たちにも連絡をお願い」
「了解」
「任せて」
背中に声を受けそれなりにスペースがとれる場所に移動した私は『ゲート』を開く。
「飛ぶよ!」
出た先は幻魔の海でもいいように術式は構成させておく。
真っ先に私が飛び込み、その後ろから三人を突き飛ばして押し込んだ姉さんがついてくる。
出口の先にはゴブリンが数体。
とりあえず、先に貯めておいた数十発の魔力弾の一部をぶちかます。
あっけなく貫通されて消えるゴブリン。
「次は―」
次の獲物を探して見まわした時、異変が起こった。
「―――――え?」
歪みが、消えていた。