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Magius!  作者: 高郷 葱惟
57/67

#13.5

完全に番外編的な代物です。



「どうして、こんな事に………」


楓は、本気で困っていた。

まだ、火照りが抜けないがそれを何とか振り払って現状把握に努めようとする。


談笑していた母親たちが酔いつぶれている。

それはまあいい。久々で限度を忘れていたんだろうから自業自得だ。


その横ではそれぞれの父親たちが楽しそうに語り合っている。

陽気そうな様子から確実に酔っている。


幼馴染の誠が、苦笑いしていた。

先ほどまでは見事な着物(女物)を着こなし艶姿を見せつけていたがどうやら解放されたらしい。


親友の遥が顔が赤くして寝転がっていて、そのそばで明らかに二十歳未満お断りな透明な液体をちびちびと楽しむ先輩の奈緒がいる。

…おそらく、奈緒に酔いつぶされたんだろう。それもまだマシだ。――明日は二日酔いで大変だろうけど。


琴音とツバキが楽しげに、マナが物欲しげにこっちを眺めている。

お願いだから、笑ってないで助けて欲しい。

琴音の膝(というか腿)を枕に誠の義妹の裕未が寝息を立てている。

小学五年生の彼女に午前二時という時間はかなり遅い。眠くなっても当然だろう。




目の前の炬燵の天板の上には『元凶』が独特の香りが混ざった湯気をあげている。


――だが、それは楓の記憶が正しければアルコールなど殆ど含まれていない甘酒だった筈だ。


確かに、僅かながらにアルコールを含む酒粕から作られている。

けれども、加熱されているから殆ど残っていない筈だ。



―――ならば、何故?


「うにゅぅ」


何故、唯奈がまるで酔ったみたいに顔を紅らめているんだろうか。

そして、楓に縋りつくようにして抱きつき、寝息を立てているんだろうか。


「本当に、どうして………」


楓は時々もぞもぞと動く時のくすぐったさと戦いながら『原因』を振り返って探してみることにした。


 * * *


年内最後の日。

十二月三十一日、通称『大晦日』。


この日、楓は唯奈と琴音と遥を誘って初詣を行う神社でカウントダウンをしよう、との約束を取り付けていた。


だが、それを聞きつけた親たちが『ならば家族総出でそれをやろうじゃないか』と乗り気になり三家族合同の初参りが行われることになった。



楓の時計(デジタルだ)が『23:59』を差した時、持ってきていたラジオからカウントダウンの準備の様子が流され


『三、二、一、』

カウントダウン。そして


『ポーン』



「あけまして、おめでとうございます」


時報が午前零時を伝え、新年のあいさつを交わす。


高校生ともなれば、この程度の夜更かしは割と平気なのだが、琴音に手をひかれる裕未だけは少し眠そうにしている。


それでもしっかりと新年のあいさつして、お参りは済ませる。


「唯奈ちゃんは眠くならないの?」


と、見た目年下に見える唯奈に対してお姉さんぶる位の事は造作もない程度には。


「…私、年上なんだけど」


そう言っても説得力皆無な唯奈(外見年齢六歳前後)は少し拗ねている様子。


それでも滞りなく初詣を終えた一行は地元の自治会が振舞う甘酒で温まりつつ帰路に就く。


帰路に就いたのはいいのだが、元は生徒会で役員をしていた親友三人組である母親陣は元より、同じ年頃の娘(息子)を持つ親として語り合いたいことが山ほどある父親陣が意気投合。

そのまま最寄であった藤谷家(誠現住地)でささやか(?)な新年会モドキが始められたのだった。



誠と唯奈を中心に夜食が作られ、それを肴に帰路の途中で仕入れた酒を楽しみ始める父親陣。


母親陣もめいめいに楽しむ中、子供組(高校生以下)は琴音が用意した甘酒で冷えた身体を温めていた。



「あれ?姉さん。なんで透明…まさかお酒飲んでるの!?」


そんな中で遥が奈緒が飲んでいるのが透明…すなわち父親陣の処からこっそり持ち出してきたのであろう日本酒だと気付く。


だが、


「ただの水よ」


「嘘だ。顔、赤くなってるし」


「なら、飲んでみなさい」


そう言われて遥は奈緒の持っていたコップを受け取り、少しためらった後、僅かに残っていたそれを飲み…


「これ、やっぱりお酒…」

ただの水ではないことを確認したのだが、


「飲んだんなら同罪よ」


同時に、奈緒の術中に嵌っていた。


「うぐぅ…」


「ほら」


気がつけば遥の手の中のコップは再び透明な液体で満たされ、同じ物を奈緒は傾けている。


しばらくコップを見つめた後、遥も舐めるように少しずつ飲み始めてしまった。


(注:お酒は二十歳を超えてから)


しばらくすれば酔った遥のしどけない様子が見れるだろうが、後が大変だろうから適当なところで止めを刺してあげようと決める楓。


「まあ、お正月だから、ね」


親同伴だし、と唯奈も誠から渡された甘酒をちびちびと飲みながら笑う。


「…ゆーな、酔ってないよね?」

ふと、こころなしか顔が赤い唯奈の変調に気付いた楓は恐る恐る、尋ねてみた。


「んー?よってにゃいよ~」


楓は軽い絶望感と共に確信した。


完全に、酔っていると。


「にゅふふー」


まるで猫のように両手をついて楓にやや熱のこもった視線を向ける唯奈。


なんとなく、甘えようとする子猫を連想してしまった楓だが


「にゃー、ふかふかー」

「ちょ!?」


甘えられる親猫役が自分となると、話は違う。


胸元に顔を埋められ、楓は本気で慌てる。


相手が酔っ払いとはいえ、そんな事をされるのは始めてだ。

異性なら突き飛ばすなりひっぱたくなリしたかもしれないが、同性相手。振り払うべきか、引き剥がすべきか、少し迷う。


少し迷ってるうちに、人肌に安心したのか元よりややうるんでいた唯奈の瞳がトロン、と重くなってくる。


そして………


「んー」


襟もとを軽く引っ張られて下を向いた時


「んちゅ」


楓は、唯奈の顔のどアップに気を取られて一瞬何が起こったのか判らなかった。

判らなかったが気付きはしていたらしく顔に血が上って来てかぁーっと熱くなってくる。


(きききききき…キスされた!?)

不意打ちでというのは二度目な楓だが流石に『慣れる』事は出来ないので相当に慌てる。


楓が我を取り戻した時、唯奈は楓の胸ですやすやと寝息を立てていた。



そして、現在に至る


 * * *


一番怪しいのはあの甘酒なのだが、そんなに弱かっただろうか。


楓の疑問の答えはその後の一言で判明した。


「なるほどな。酔うと絡むというか…幼児化するのか」


そんな事を言ってきたのは先ほど唯奈におかわりの甘酒を持ってきた誠だった。


「とーや、まさか…」


「甘酒と日本酒、比率は1:1」


してやったり、と言わんばかりの誠への怒りがふつふつと沸騰を始める。


「おっと、それくらいにしとかないと起こしちまうぞ」


誠に言われるまでも無く、縋るようにして寝ている唯奈を起こしてしまうのは避けたい楓。


だから、こう言う事にした。


「後で覚えてなさいよ」


にっこりと、会心の笑顔と共に言い渡されたその言葉に誠は顔を引きつらせ、『つまみの追加作って来る』と台所へと逃げ出した。




そこまでしてから、ようやく落ち着いてきた楓は改めて唯奈へと視線を向ける。


普段のしっかりした様子からは想像できない、幼さというか甘えっぷりを見せている唯奈の表情もまるで小さな子供の様。


それも、ある意味では当然なのかもしれない。

『御剣唯奈』という、今ここにいる少女が存在するようになってから、まだ半年と経っていないのだから。



…それならば、ちょっと予行演習だと思っておこう。


そう自分に言い聞かせてから楓は完全に寝ている唯奈の髪をほどいてから優しく撫でてみた。


最初は恐る恐るだが目を覚まさないことに安心して恐る恐るやっていた故のぎこちなさが少しづつだが消えてゆく。





そうこうしているうちに楓自身もだんだんと眠くなって来る。


時間も大分遅いし、唯奈という人間湯たんぽを抱いている状態なのだから当然だろう。


「おやすみ」


大分うとうとしてきていた楓も、誰かが毛布をかけてくれた事に安心してすんなりと意識を手放して眠る事にする。


なんとなく、いい夢が見れそうな気がした。


 * * *


「寝たみたいね」

「寝たわね」

「あれは確実に寝てるわね」


楓が寝ついたのを見計らって母親ズが動き出す。


「楓ちゃんの顔つき、まるで母親よね。」

あそこまで甘えてくれない、というのは誠の母 和葉。


「ちょっとばかり大人びてきたと思ったら、少し納得ね」

そういうのは楓の母の咲月。


「ウチの二人も楓ちゃんか琴音ちゃんみたいになってくれればね」

そう愚痴を言うのは佐伯姉妹の母 陽菜。


三人は当初は酔い潰れていたが唯奈が酔って甘え出した辺りから復活していた。

が、酔い潰れたフリをし続けていた。

その結果として一部始終を楽しむことが出来たのだが、色々と喋るとバレるので我慢する必要があった。


三人でざっと部屋を見渡すと琴音と裕未、楓と唯奈が寄り添うようにして眠っていた。

遥と奈緒は毛布をかけに来たツバキとマナをそれぞれ捕まえていた。


ただ一人、誠だけはここに居ないが恐らく自分の部屋に戻って寝ているのだろう。

同世代では男女比1:4、ツバキとマナを合わせれば1:6の空間には居辛い物がある。


それ以上に、報復実行を宣言した楓から逃げたかったんだろうけれど。



「それにしても、今年のメンツは粒ぞろいよね」

和葉がコップを傾けながら呟いた。


「そうよね。私たちの頃に比べたら、量はともかくとして質は上がってるわね」


彼女らが言う『質』というのは、生徒会役員としての質ではなく、対魔組織の構成員としての質である。



「何か、悪いことの予兆じゃなきゃいいんだけどね」


それから、三人で僅かに残った分で幸多き事を祈りながらの乾杯を交わしてから眠る事にした。



真っ暗闇になった部屋に陽光が飛び込み明るくなるまで、まだもう少し時間があった。


勢いと脳内にはびこる妄想から構成されてしまった代物です。

これを#14の冒頭にしてもいいかなと思ったんですけど繋ぐのが難しいので番外編扱いにして入れました。


もうひとつ予定されてる番外編『#6.5』は冒頭部分がちょろっと出来てるだけですが、完結までには完成させて入れたいなぁ…


書いてて、『可愛い生き物』と化してしまった唯奈は………

当初の予定だと、しっかり者の『見た目は子供、中身は大人』な筈なんだけどなぁ


やはり肉体に魂が引っ張られてしまっているのか…

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