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Magius!  作者: 高郷 葱惟
56/67

#13‐5

「あれ、ゆーなは?」


「十分前くらいに『ちょっと見回り行ってくる』って」

遥かに尋ねられて楓は少し前の事を思い出す。


「どうかしたの?」


「いや、ちょっと姿が見えないから…それに、そろそろ『あれ』の用意もしてもらいたいし…」

そう言われれば時間的に『そろそろ』だ


「わかった。それじゃあ私が探してくる」

遥は司会進行の仕事があるから動けない。

故に唯奈と同様に『着替え』なくてはならない為にシフトから外されている楓が動くことになる。


「お願い」


「任された」


楓は『唯奈ならどんなふうに見回りをするか』を考えながら駆け出した。


背後で『放せー』とか『勘弁してくれ』とかの悲鳴っぽい声が聞こえたが重要度の差から放置した。



 * * *


「く――――あ―――」


なすすべなく抑え込まれ首を締めあげられていた。


相手が単なる『協会の支部長派の残党』なら問答無用で消し飛ばしていたかもしれない。

だが、今回の相手は後輩、一般人だ。


だから直接的に応戦できないで、おそらくこの二人を操っているのであろう術者を探す事しかできないでいた。


振り解くことはできる。

出来るけど、その後で何が起こるか最悪の場合を予想出来てしまう故に、出来ない。


また、身体を置いてここを離れることもできるが、やはり出来ない。


いくら肉体が存在しなくても存在出来ると言えども、そう自由自在に肉体を捨てられる訳ではない。

『器』との接合を解くというのは想像を超えるほど精密な術式の元で行う必要がある。


その『精密な術式』は首を絞められるという脳が警告信号を出しているような状況で扱えるようなシロモノではない。


術式に頼らない唯一の例外が『肉体が死亡し(こわれ)た時』なのだが、相手方はそれを警戒しているのか、それとも長々と苦しめようという魂胆なのか、致命的な状態に至るまでやってこない。


それにそういう魂の離脱は死ぬほど痛いし、死ぬほど苦しい思いをしなきゃならないのでご免被りたい。


故に、やられるがままになっていた。




何か、きっかけさえあれば…



「ほげぅっ!?」


男の悲鳴。


同時に押さえつける手と、首を絞める手から力が抜ける


「ぃまだぁっ!」


強引に二人を跳ねのけ悲鳴をあげた男の方へと跳ぶ。


跳んで、何故か楓の胸に飛び込んでいた


「ちょ!?」

「えっ!?」


私は楓が飛び出してくるとは思ってもみなかった。

きっと楓は、さっきまで首を絞められてた私が跳んでくるなんて思いもしなかったんだろう。


私の方がやや勢いがあったせいか、受け止めることになった楓はそのまま後ろへと尻もちを突くことになる。


「なにやってんの」


マナの冷やかな声に気付けば私は転んで尻もちをついている楓の胸に顔を埋めていた。

あ、やわらかくてなんか落ち着く。


…同い年なのに一枚板と連山というこの差がなんとも恨めしい。

こんな体で生みだしてくれた生みの親を恨――じゃなくて


「わわわ…ごご、ごめん!」

私は慌てて飛び起きる


跳び起きたら、顔が紅い楓とさっきの男を踏みつけて時々躙っているマナと操られていた二人を介抱するツバキが居た。


「あ、え、えっと、大丈夫なの?」

そう言いながら立ち上がる楓。

ちょっと罪悪感。


「う、うん!相手も致命的なところまでやってこなかったから、それにこれ位なら慣れてるし」


「首、痣になってる」


楓の手が首筋に触れて…あ、冷たくて気持ちいい


「楓さん、この子たちの処置とそれの後始末は私たちでやっておきますから」


「ハルカが待ってるんじゃないの?」


「あ、そうだった。首の痣とか、消せる?」


「まあ、それくらいなら」


流石に、規模が大きくなれば大きくなるほど治癒にかかる時間は延びる。

けど、痣くらいなら数秒もあれば…


「じゃ、すぐにやって。着替えないと時間おしちゃってるし」


「え?え?え?」


言われるがままに全身に魔力を流してやり痣を消したらすぐさま楓に手をひかれ、訳の分からないまま走り始めることになった。


 * * *


私と楓がサンタクロースの衣装を着て舞台袖に入ったら


「遅かったじゃないの」

「………」


遥と、何故かミニスカサンタが居た。


長身で美人なその人物。今は無表情だが笑ったりでもすれば道行く人のかなりの割合が振り向きそうだ。


言うまでも無く、例によって例の如くな感じもするが誠である。


その顔は羞恥と寒さが限界突破して表情すら消えているけど


ちなみに、最近は母さんの写真のモデルは姉さんが『二代目』としてやってたりする。


それはともかくとして

「何というか、惨い」


血の気が引いて青白くなった誠は、確かに常人離れした白さを見せつけている。


「さて、それじゃあ始めるから合図を出したらこれをバラまいて」


私たち三人に渡される袋。


典型的なサンタクロースの格好になった私たちが配る、プレゼント。



「それじゃあ…準備して」


カウントダウンが始まり、ゼロカウントと同時に照明の殆どが一斉に落された。



『何!?』

『停電!?』


あわただしい、悲鳴混じりの声。


「ゴー」


遥のゴーサインと同時に私たちは舞台の上へと飛び出した。


 * * *


まったくの蛇足かもしれないがこの聖奏のクリスマスイベントは誰でも参加する事が出来る


故に、第六高校に籍を置く白澄里桜がここにいることも何ら不思議では無かった。



里桜は会場で出会った聖奏の晶や雅人(二人は会場警備を兼ねてここにいる)や襲撃の際に一緒に突入した第四の結城愛衣や第三の七瀬純と一緒になってなにやらあわただしく動く舞台の方を眺めていた。



ばちん


『何!?』

『停電!?』


突然の消灯にあわただしくなる周囲。


晶や雅人は全く聞いていないのか一緒になって慌てている。


周囲が慌てると逆に冷静になるという状況を実感しながら里桜は舞台の方へ眼を向ける。


トラブルじゃなければこれは何かの演出の為のもの。

ならば…?


そういう里桜の読みは見事的中し、スポットライトに照らしだされるのは


「わあーー」


男子を中心とした歓声。


舞台の上に現れたのは三人のサンタ娘だった。


ちっちゃいサンタは会長である唯奈、中くらいのサンタは楓。


大きいサンタは誠なのだがそのことに気付いている者は殆どいない様子だ。


周囲からは『かいちょー』という歓声や『おい、あの美人だれだ?』という男子のリサーチの声が溢れかえる


「みんなー、メリークリスマース!」


唯奈が袋から何かを取りだして投げると、ちょうどそのタイミングで『ひゅるるるる…』という特徴的な音がして皆して空を見上げる。


ばーん


破裂音と共に広がる花火の光。


花火の光に見惚れていると、ふと手に何かが触れる。



「いつの間に…」


里桜は自分の手を見て苦笑する。


いつの間にか、小さい箱が手に握らされていたのだから。



きっと、気付かれないように花火を打ち上げておいて、魔術を使ったのだろうと里桜は予想する。


基本的に里桜たちが使う魔術は『守るための攻撃』が殆どだ。

こんな風に、夢のある使い方は初めての事。


最後の、三人が同時に投げ上げて連射が終わると照明が復活して花火の終わりを告げる。


そして、一足先に気付いた里桜と同じように、その手に渡されたプレゼントに気付く。



「すごーい、なんだか魔法みたい」


そんな声。


それをやっていたのが『正真正銘の魔法使い』だと知る一部は笑いを堪え切れずに笑いだした。



それがいつの間にか伝染して笑い声が広がってゆく。



クリスマス・イヴの夜はこうして更けてゆく。



学校のイベントだから終了は九時前と定められているが、それが終わるまでの間…


僅かな間とはいえ、『笑い声』と『笑顔』という『誰もが使える幸せの魔法』が会場を包み込んでいた。


 * * *


「楽しそうだね」


「そうねぇ。」


マナとツバキは侵入者をOB会に引き渡し、操られていた二人に対する処置(主に記憶の改竄)を終えて一息ついたところだった。


校舎を挟んで反対側では笑い声が溢れかえっている。


「………」


「マナちゃんは不機嫌そうだけど、もしかして参加できないから拗ねてるのかな?」


「拗ねてない」


そのやり取りでツバキはマナが拗ねているのを確信した。


「だったらその不機嫌と悲しみを足したような表情は?」


「………」


黙ってしまったマナ。


「まったく、正直じゃないんだから」


くしゃ、とマナの頭をなでるツバキ。

マナも自分が拗ねていると自覚しているからやらせるがままにしている。


「おーい、マナー、ツバキー」


「にゃっ!?」

「あら」


声がして、二人がその方向に視線を向けるとサンタクロースの格好の唯奈が何やら包みを持って二人の元に向かって来ている。


その背後には楓の姿も見て取れた。




「どうしたの、ゆーな」


「二人にクリスマスプレゼント渡しとこうと思って」


『メリークリスマス』と言いながら二人に包みが渡される。


好奇心と嬉しさから受け取ってすぐに封を切る


「…まふらー?」


中身はマフラーだった。

それもマナの分は白地に黒で『Mana』、ツバキの分は若草色に赤で『Tsubaki』と片端に名前も編まれている


「わぁ!ありがとうございます」

礼を言うツバキと目を丸くしてマフラーを見つめるマナ。


目の細かさや正確さは既製品に近いレベルだが二人の名前が入っている時点で手作りなのだろう。


じっと見つめていたら二、三ヶ所ほど目が跳んでいるところを見つけてしまった。


「巻いてあげようか?」


「じ、自分でやるから!」


不意に声をかけられてマナは慌ててマフラーを首にまく。

ただそれは本当に『首に巻いただけ』であって、まるで包帯のように巻かれたマフラーはマナの首の動きを完全に阻害していた。


「違うよ、マフラーの巻き方はこう」


唯奈が一度解いて巻き直し。



「あ、ありがと…」


「さて、ゆーな。そろそろ」


楓に呼ばれ唯奈はマナの手を取ったまま移動しようとする。


「え?」


「もうすぐ終わりだけど、参加自由だからね。ツバキも来て」


「はい♪」


二人を加えた一行は表に戻り残り僅かになったパーティーを楽しむことにする。



後日、三人のサンタ姿を見たいと和葉がゴネてもう一度女装する羽目になったりもしたのだがそれは本当に余談である。



袋から取り出して投げているのは唯奈がこっそりと転送していたりします


それにしても花火好きだね、聖奏学園は。


全く話が変わりますが…

復活した誠を楓が『誠じゃない』と思う部分は『再現できても本物には成りえない』という筆者の考えが反映されています。


まあ、再現にも『本物に無い味』が有ることは否定しませんけど…

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