#13‐4
「空間接続?」
楓と遥と姉さん、三人の声が重なった。
「そう。二点間の距離をゼロにするほぼ魔法に入る魔術だよ」
「それって、ゆーなが使ってるのと同じヤツだよね?」
楓がそう聞いてきた。
「まあ、大体はな。俺にこいつほどの事は出来ないが」
と誠が親指で指さしてきた。
誠の限界は直径三十センチほどの穴で十メートル先に一分間継続だそうだ。
ちなみに私は直径二メートルほどの穴を距離の制限ほぼ無し、かつ並列起動可。
出口はイメージできれば問題なし。失敗したら『かべのなかにいる』とまではいかないまでもうまく空間が繋がらない。
「人間辞めてる私相手じゃ、前提条件から違うでしょ」
『魔法使い(じんがい)とレベルこそ違えども同じことが出来る』と言う意味では『魔術師としては最高クラス』の証明ともいえる。
「そりゃそうだ」
とはいえ、真っ向からの人外認定は割と凹む。
ぺし
「こら」
「あだっ」
そしたら楓のわりと鋭いツッコミが誠の後頭部を一撃
「何すんだよ!楓」
「ったく、肯定されても嬉しくない部分があるって察しなさいよ」
べしっ
「痛てぇ!」
「人の気持ちを察せない人って…」
「ひどいよね」
楓の直接殴打、姉さんと遥の非難を一身に浴びることになった誠はその数分後、部屋の片隅で正座させられていた。
「と、誠の弾劾はそれくらいにしておいて…楓、企画の方は?」
「粗方完了。今は叫びたい人の募集期限待ち」
「それじゃ、段取りとかの相談――」
『空間の歪みを感知。隔離班出動』
はぁ、と息をいれてからその後の文章を切りかえる。
「――の前に幻魔退治だね。姉さんと誠は初陣だけど、見学だけにしとく?」
当然、私も本気で言ってる訳じゃなく八割半が冗談。
残りの一割半はさっきの模擬戦で魔力切れギリギリになってる可能性もちょっと考えて。
「冗談」
「実力を見せつけてあげるとしましょうかね」
当然のように帰って来た二人の参戦表明に私は自然と笑みを浮かべる。
このメンバーでなら、きっと無敵だ。
そう、確信できるから。
「それじゃ、出動!」
私たち五人だけでも幻魔相手に十分オーバーキルなのに第六高との共同作戦になった物だから…
「なんというか、完全に殲滅戦だねぇ」
私はのんきにそんな事を言ってられる位、戦況は優勢だった。
ゴブリンみたいな数の多いのは遥や姉さんのガトリングガンのような魔力弾の豪雨が片っ端から吹き飛ばしてゆく。
逆に一発で倒せない中型以上は誠の斬撃が一体ずつ始末してゆく。
それなりに手強いのが数集まっている時は楓の豪炎と白澄さんの雷撃で一掃。
時々、私の所までやって来ることがあるけどもうボロボロの死に体なので軽くど突いてあげれば簡単に消えてゆく。
結果として、以前なら出現に間に合わず幻魔(本体)の出現を許してしまっていたところを今回は余裕を持って中心部へ到達。
相手が出てくる前に歪みを解消させて出現を封じることが出来ていた。
…今回に限って言えば、封印が間に合わなかったら『楽に逝く』じゃ済まない威力の集中砲火を浴びてた訳だから幻魔にとってラッキーだったんじゃないのかなと、つい思ってしまった。
「まあ、こんな調子でクリスマスまでに始末がつけばいいけど…」
十二月二十四日は、もう目前まで迫っていた。
* * *
「それではみなさん、羽目を外しすぎない程度に楽しんでください」
あっという間にやってきた十二月二十四日。
『野暮だから』と言う理由で学園長挨拶が省かれ、私が生徒会長挨拶を終えると煌々と照らされた校庭で吹奏楽部有志の演奏をBGMにパーティーが始まる。
クッキング部やPTA、教職員が用意した飲み物や軽食が振舞われ、生徒会で用意したツリーの電飾に光がともる。
『走れそりよ 風のように 雪の中を 軽く早く――』
誰かが吹奏楽の演奏に合わせて歌いだす。
『笑い声を 雪にまけば 明るい光の 花になるよ』
思えば、クリスマスなんて今まで祝った覚えが無かった。
ただ、世の中がそう騒いでるなぁ、程度。
あとはその後でケーキが安売りしている事が多くなる、位の認識。
だけど…折角だから
「ジングルベル、ジングルベル、鈴が鳴る」
街を歩けば必ず耳にする歌詞を、私も口ずさむ。
「鈴の、リズムに 光の輪が舞う」
ふと、背後から声がして振り返ったら楓が一緒になって歌いながら、両手に持った紙コップの片方を差し出してくる。
『ジングルベル ジングルベル 鈴が鳴る』
私はそれを受け取り
『森に 林に 響きながら』
「メリークリスマス」
乾杯をしてから、二人で空を見上げる。
空には、丸い月が輝いていた。
* * *
しばらく楓と色々食べ歩いた後、私は一人裏庭に来ていた。
裏庭といっても校庭の外れにある用具庫とかの影にあるちょっとした林でしかないその場所に私は念の為の結界陣を張っておいた。
それの確認の為に来た訳。
「うん、術式も正常稼働中だし隠蔽もばっちし」
念には念を、ただそれだけの為。
『それではこれより、生徒会企画『大暴露大会』を始めたいを思います。―――みんなぁ!準備はいいかぁ!』
『おー!』
『なお、発言の危険度によっては問答無用で舞台上から消すんでそこんところよろしくお願いします』
『うおぉ!』
どうやら、遥たちが始めたみたい。
安直なネーミングは言いかえれば内容が判り易いと言える。
だからこその参加人数だったみたいだけど…
『それでは、エントリーナンバー一番はこの人だー!』
楽しそうで何より。
「さてと。そろそろ戻ると――ッ!」
よりによって、こんな時に…ッ!
私は自分の見通しの甘さを怨んだ。
敵は何も幻魔だけじゃない。
魔術師だっている。
いくら敵対組織である魔術協会の支部を叩いたとはいえ、活動できる魔術師がいる限りは警戒をしておかなきゃならなかったのに…
用意した備えは敵意を持つ人間に対する認識阻害の他は全て対幻魔用の空間の歪みを封じ込めるためのモノでしかない。
私は臨戦態勢を取りつつ人払いと認識阻害の結界を張る準備をする
本来ならそれじゃ不十分だけど今すぐできるのはこの程度でしかない。
「ったく、折角のクリスマスだっていうのに!」
悪態をつきながら、私は侵入者の元へと急ぐことにした。
向かった先は、正門。
そこで結界に引っ掛かった存在が二つ。
そこに居たのは…
「君たちは………?」
中等部の生徒らしき二人組
いや、どう見ても聖奏の中等部の男子生徒。
どうしたものやら…
不審さ満々な状況に警戒しつつ私はその二人に近づく事にした。
「ッ!」
唯奈の身に何が!?
正解は次の話で