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Magius!  作者: 高郷 葱惟
54/67

#13‐3


「あのさ…」


「何?」


唯奈が『ちょっと息抜きに散歩してくる』と生徒会室を出て行って少しした時、遥がようやっと声を出した。


「誠の事、知ってたの?」


遥が問うのは『誠が復活したことを知っていたのか』と言う事。

それに気付けたのは生徒会室に誠が現れた時に楓が驚かなかったからだった。


「…まあね」

それに対し、楓は嘘は言わなかった。


「丁度、琴音さんと三人で居た時の事だったからね。あのホラー映画のリレーの時」

方便とはいえ、表向きはそういう事になっているのだから、嘘をつく必要がない。


そう言われて、遥はごくりと息を飲んだ。



楓が遥も誠に好意を抱いている事を知っているのと同様に遥も楓の意中の相手を知っている。

互いに、ライバルとして認めあった上で争い、親友をやっている。



故に、遥には『先を越された』という焦りがあった。


「…負けないから」


最悪、友人関係すら壊れてしまうかもしれない。

だが、相手として対等に見るからこそ遥はそう言った。



だが、


「…欲しかったらあげるよ」


楓が言ったのは事実上の敗北宣言だった。


「え?」


遥は耳を疑った。

あれだけ幼馴染に熱をあげていた楓がこうもあっさりと?

あれだけ、周到に外堀埋めをしていたというのに?


疑問は山ほど浮かんでくる。


「どうして?」


「んー、なんか違うんだよねぇ」


楓は言いながら、窓の外の夕焼けから夜空へと変わりつつある空を見上げた。


「違う?何が」


「んー、なんとなく」


楓の答えは漠然とし過ぎていて遥にはよく分からない。


だが、楓にとってその『なんとなく感じる違い』は大きい。


『初恋が何故甘酸っぱいと表されるのか』を知ってしまった身としては、いくら想い人に似ていても別人としか扱えない位に。


もちろん、『高槻楓は藤谷誠の幼馴染である』という点は変えようがないから今まで通りに接する。

だが、あくまで幼馴染であって恋心を寄せる相手では、最早ない。


楓にとって、『藤谷誠』という少年は既に手の届かない場所へ逝ってしまった『過去の人間』なのだから。


「だから、私はもういいかな」


楓の顔は、どこか懐かしむような―――


ちょうど、その時だった。


「何が『もういい』のかな?」


「ひゃぁッ!?」


楓は背後から近付いてきた誰かに冷たい物を頬に押しつけられて悲鳴をあげた。


「あ、おかえり」

遥は予想外の悪戯に目を丸くしながらも戻って来た唯奈に声をかけた。


「ただいま。ふっふっふー、はい」


楓と遥のデスクに一本ずつペットボトルのミルクティーが置かれた。

先ほど、楓を強襲した『冷たい物』の正体がコレだ。


「頑張る次期副会長と次期会計に会長からの御褒美だよ」


そう言ってから唯奈は会長デスクに戻って残っていた書類の処理を再開する。


唯奈の乱入で会話も仕事も中断となった二人は互いに見合わせてから苦笑いを浮かべ


「それじゃ、ちょっと一休みといこうか」

「そうだね」


唯奈が買ってきてくれたボトルのお茶でしばしの休憩



「そういえばさ、」


「ん?」


「誠の何処に惚れたの?」


「ぶっ!?」


楓に振られた話に、危うく吹きそうになった遥は思いっきりむせた。


「けほっ、けほっ………このタイミングでその話題振る?」


「まあ、思い付きだし」


しらっ、と言われると納得以外の何もできない遥は口をつむぐ。

黙る口実に紅茶をゆっくりと飲み続ける。


そんな様子に楓は溜め息をひとつ。


「その様子じゃ、気付いたら惚れてたってとこかしらね。」


まあ、大体正解である。


「そういう楓はどうなんよ」

紆余曲折、かくかくしかじかがあるのだがほぼ図星を突かれた遥は反撃と言わんばかりに質問を返す

「私?私は…幼馴染だったからね。ずっと一緒、それが当然って感じだったかな」


が、楓はほぼ即答。


「ふ、ふーん」

そのあっさり具合に答えに窮した遥はなんとか流す事しかできなかった。




「………」

「………」

「………」


再び、部屋を捺印と紙の上をペンが走る音だけが支配する。


「まるで、暴露大会」



唯奈がぼそり、と言ったとき、楓と遥は椅子をけたげて立ち上がり


「それだっ!」


同時に叫ぶ。


それには呟いた張本人が驚いた。


「クリスマスなんだから、ちょっとくらいぶっちゃけても大丈夫でしょ。」


「先に叫びたい人を募集して…」


二人が何やらメモを一気に書き上げて唯奈の前へ


「企画書提出します!」


二人で唯奈に差し出すと、唯奈は残り数ミリまで薄くなった未処理書類の決裁を中断して、企画書に目を通す。


「まあ、手間がかからないと言えばかからないけど…手抜きと思われない程度に詰めないとダメだよ」


唯奈はそう言いながら白紙の企画書を数枚、会長デスクから出して二人に渡す。


それは事実上の『Goサイン』であった。


「よっし、それじゃあ盛り上げる方法考えよ!」

「そうね…ぶっちゃけ告白の一つでもあればお祭り騒ぎな訳だけど…」


盛り上がる二人を前に書類決裁に戻った唯奈はふと思う。


『聖奏所属の男子相手に告白した場合、その男子が袋叩きに遭うんじゃないのかな』


それは、唯奈の中に残る『誠』の記憶で経験した事だった。


ま、何とかするだろうと放置を決め最後の一枚に印鑑を押し終わったところで


「はい、今日はここまで」


手をパンパンと叩いて盛り上がる二人を冷却する。


「もう大分暗くなってるし、帰ろ」


ほらほら、と唯奈に言われて二人は議論を中断、帰宅準備を始める。


おそらく、放っておけばいつまでも議論を続けてくれるだろうから、丁度誰かが終えたところで中断させるしかないのだ。


「あ、そうだ。近いうちに誠と姉さんの戦力測定するから、心の準備だけしといてね」


「了解、ゆーな」

その返事は二人分ぴったりと合っていた。


* * *



「んー、これって何というか…」

「ある意味じゃ相性抜群って言えるけど…」

「まあ、見事なまでの天敵な訳か」

私たちは目の前で繰り広げられる一方的な戦闘(ワンサイドゲーム)にそんな感想をこぼした。


無論、そんな余裕が実戦であるわけが無くこれは姉さんと誠がどんなタイプなのかを見極めるための模擬戦だったりする。


とりあえず、二人ともやや戦闘向けっぽかったから手っ取り早く二人で手合わせしてもらったんだけど…


姉さん:中長距離殲滅型・指揮官適性有

誠:近距離格闘型


見事なまでの相性で誠が一方的にやられまくってる。


「どわぁっ!?」


「ちょこまかと…次っ!」


姉さんの一方的な弾幕が接近しないと攻撃手段の無い誠をかすめ続ける。

それでも誠は意地か弾幕を避け続ける。


避け続けて、避け続けて、避け続けて…


「あ」


スタミナ切れか、息をついたかしたところで一瞬だが足が止まった。


そんな好機を逃すはずもなく全弾斉射を叩きこむ姉さん。


「うわ…誠大丈夫かな」

遥と楓はやや心配そうに。


けど、それは無用だと私は判っていた。



「まったく、とんでもない切り(カード)を持ってるなら最初から出せば楽に終わってるのに」


今の誠は『私たちの持つ誠の要素』で補修した魂を持っているとはいえ、元は別の世界で成長し魔術師となった藤谷誠の物。

当然、魔術の適性なんかは向こうの方に準拠する。


それは、私や姉さんが知らない『手』を持っている可能性を意味していて…



ぴたり

姉さんの首筋に冷たい鋼が触れる。


それは訓練用に刃を潰してある、誠の獲物の先端から三十センチのところだった。


「これは、勝負ありってところかな」


砂埃が落ち着くと、誠の持っている刀の半分ほどから先が何かに隠されたかのように見えなくなっていた。


「そこまで。二人ともお疲れ様」


私はスポーツドリンクを二人に渡しに行った。



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