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Magius!  作者: 高郷 葱惟
53/67

#13‐2

翌日-


聖奏学園男子部の高等部一年三組ではいつも通りのHRが進められていた。


点呼による出席確認。

担任の今松教諭はクラスの中一点だけ空いている席を内心痛ましげに眺めつつ出席を取ってゆく。


「手塚」「はい」


その次は…


「藤-」「今松先生」


『藤谷は休学中』そう、呟きながら出席簿に書きいれようとした直前に教室の前扉がノックされ、出席確認は一時中断となった。


現れたのは男子部教員の中では数少ない女性である養護教諭だった。


「なんでしょうか―――!」


呼ばれるがままに廊下をうかがい、言葉を失った。


そんな様子を怪訝そうに教室の中から眺める一団の前に戻って来た今松先生は


「あー、嬉しい知らせだ。」


そう、切り出した。



『何が嬉しんだ?』『転入生か?』『男の娘希望!』


そんな声がちらほらと出る中…



「よし、入れ」


今松先生の声に合わせて、前扉が開かれて現れたのは―――



「今日付けで、藤谷が復学する事になった。」



夏休み以来姿を見せず、いつの間にか休学になっていたクラスメイトの一人。


「色々と聞き出したいこともあるだろうがそれが原因でまた休学でもされたらたまらんからな。ほどほどにしておけよ。」


そう言って誠に自分の席に着くように促す今松先生。



「それでは、出席確認を続けるぞ。―――藤谷」


「はい」


夏休み前の交換留学から合わせれば五カ月ぶりのクラス全員出席に今松先生は感動と歓喜で胸が一杯だった



そして『いつも通り』に出欠確認が終われば連絡事項の申しつけが有りその後は…


「今日も一日勉学に励むように」


いつも通りの定型文が終われば授業開始までのわずかながらの雑談の時間がやって来る。


普段ならば気の合う仲間同士で軽く行われるソレだが、今回は事情が違う。



「藤谷、テメなに五カ月も学校休んでんだよ」

「少しは連絡くらいしろっての!」

「突然休学って驚いたんだぞ」


当然の如く、ここ最近の日常にとっては異物であり、本来の日常にとっては有るべき存在であった藤谷誠その人に集中した。


「悪い悪い。突然の事でこっちも手が回らなかったんだよ。せめてで出来たのが休学届だ」


突然の集結に驚きつつ、軽くどつかれながらも答える誠が浮かべるのは苦笑。


「で、休学中何やってたんだ?事と次第によってはこの場がそのまま処刑場だ。」


全員が聞きたい一番の内容を、景山が尋ねた。


「OK、とりあえずみんな殺気をまきちらすのは勘弁してくれ。運悪くイギリス(むこう)の研究者に目をつけられて実験台になってただけだ。―――あのマッドは、人を掴まえて実験台にしてそのまま何ヶ月も拘束してくれやがった」

そういう誠にクラスメイト達は問う。


「その研究者(マッド)っての、どんな人だ?」


もし、その答えが女性(特に美女)だったらこの場は流血沙汰の殺人事件現場と化していた。

だが、


「愛想の悪い五十くらいのおっさんとその助手の二十そこそこの野郎(ヤロー)だよ」


うらやむどころか逆に同情すらしたくなるメンツだった為、事なきを得た。


「で、どんな実験の実験台だったんだ?」


理系の誰かが興味本位で言った、そんな問い


だが、その問をぶつけられた直後に数瞬ながらも硬直した誠はどこか明後日をみるような達観した顔で言う。


「留学前の自分がどんだけ人生を楽しまないでいたかが判ったよ。…走馬灯があんなに単調だったとは」


少なくとも、それでクラスのほぼ全員は理解をした。


『あの真人間にして真面目の権化とも言うべき藤谷誠を俗世に戻らせるほど、苛烈だった。ついでに走馬灯を見るほどにも』



「…今度、遊びに出る時には誘うよ」


同情ムードが一気に広がり、そうこうしているうちに一限の担当教員がやってきた。



復学の知らせをまだ受けていなかったらしくひとしきり驚いた後、チャイムが鳴り学生の日常である授業が始まった。


 * * *


「えっと、今日付けで藤谷くんが復学、生徒会にも復帰しました。ちょっとばかり休学中のトラウマのせいで人格変調が起こってるかもしれないけどまあ、生温かく見守ってあげてください」


呆然とする生徒会の皆(姉さんと楓以外)の前で私は誠を立たせてそう宣言した。


「おいおい、人格変調ってなんだよ。あと、『生』は余分だろ」


そう律義にツッコミを入れてくる誠はガン無視。

ついでに遮音の結界の中に閉じ込めて本人には全く聞こえない状態にしてから私は言葉をつなぐ。


「前に、支部を襲撃して回収した『本来の体』が宿した人格なの。だから、正真正銘の藤谷誠だけど-以前の誠とはちょっと違う。――要素である私と姉さんが抜けてるからでもあるんだけど」


そう言ったら氷室先輩が困惑気味に聞いてきた。


「つまるところ、ちょっと人が変わったが藤谷だって訳か?」


「そうですね。」


「なら、俺は何も言わんよ。梨紗は?」


「私も同じかな。凛は?」


「問題なし」


先輩方の中では『問題なし』の判断が下されてゆくなか、複雑そうな表情をしているのは楓と遥だ。


「それでは、顔合わせは後に回して…クリスマスイベントの関連は…氷室先輩」


私が振ると


「ああっと、会計関係については今、佐伯を仕込んでる。中々に使えるが経験不足は俺が補う予定だ。」


つまり、会計は今のところ問題なしっと。


「次に梨紗先輩」


「こっちも楓ちゃんを指導中。ま、文化祭からやってるから大分飲み込めてるとは思うから相談役程度で済んでるわ」


二人とも、中々に頑張ってるみたいだなぁ


「それじゃあ、楓、遥。企画の方は?」


そう、二人を呼んでみる。


敢えて両方を指名したのは、どちらがこの件についての主導権を握っているのか、それとも同格でやっているのかを見るためというのも少しある。



案の定、二人は数瞬の目配せの後楓が立ち上がった。


つまり、限りなく同格で表向き楓がリーダーと言う訳ね。


「企画に関しては過去資料から大体の方向性は決定済み。現在は『可能な範囲内で出来る限り』を模索中」




「判りました。施設利用に関しては十二月二十四日、丸々一日学校全体を使えるように申請してあるからいくらでも都合出来るので必要なら私に連絡してください。今のところ仕事が無くても後で出来た時は問答無用で呼びだすからそのつもりで。」


そう言ったら必要な三役…会長、副会長、会計以外の役職を振られている面々が不満げな顔になる。

そっかー。そんなに嫌なのかー。じゃあ―


「それじゃあ、今から割り振「勘弁してください」それじゃあ解散です。」


用のない面々(晶とか篠田とか)はさっさと帰宅準備を始め、先輩たちものんびりと。


仕事が今あるのは企画発案を一任された楓と遥、色々な決済がある私のみ。

まあ、誠と姉さんは生徒会室内の席の配置があると言えばあるわけだけどツバキが勝手に使っていた席を開けるだけだからすぐに終わる。


結果として、夕日の差し込む生徒会室に残るのは私と楓と遥の三人のみ。



「…」


無言が支配する生徒会室に、筆記音だけがやけに大きく聞こえた。


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