#13‐1
更新です。
また一週間内に出来なかった………
ただ、戦闘のネタが尽きつつあるんですよね。
『幻魔アイディア』の募集でもしてみようかな
楓は、気が気でなかった。
「楓ちゃん、もう少し落ち付いたら?」
「これでも落ち付…こうとしてます」
楓は自分が『落ち付いている』と言える状態ではないと自覚しているので『落ち着こうとしている』と言い換えた。
それにそう尋ねてきている琴音も、落ち付いているようには見えずそわそわとしているからおあいこだ。
帰宅から数刻。
夜が深まる中二人はただ部屋の前で落ち着きなく時間が過ぎるのを時たま、意味のない会話を繰り返しながら待っていた。
* * *
「楓、物凄く眠そうだけど大丈夫?」
大あくびをする楓を気遣い半分、訝しみ半分で遥は眺めていた。
授業中も居眠りとはいかないまでも半覚半眠、休み時間は全部爆睡という状態だったのだからそれもある程度は致し方ない。
「琴音さんも眠そうだけど…二人で何かしてたの?」
そこには『何故誘わなかった』という憤りも含まれている。
「んー、ゆーなの寝顔観賞会―――」
「うわ、ズルイ。私も-」
「――を兼ねたホラー映画リレー」
「パス」
楓は遥がホラー系が大の苦手と知って敢えてそう言った。
以前、ちょっとした手違いでホラー系映画の一番怖いシーンを目撃してしまった遥が、唯奈に抱きついて翌朝まで涙目&べったりだった様子は楓の脳裏にしっかりと保存されている。
ちなみに、楓はそのことをこの友人が結婚式を迎えた時に大々的に暴露する予定だ。
当然、『本当のこと』は黙っているように念を押されているから言うつもりは全くない。
「…ってか、よくもまあそんな事を平日にやろうと思うね」
翌日のこと考えなよと言外に行ってくる遥
「まあ、和葉さんの思い付きだし」
「あ、なんか納得」
「それで納得するんだ」
楓にも『なんだかなぁ』と思いつつも『あの人ならやりかねん』と思う部分がある。
確かに、理屈じゃなく勢いとかそういうので納得させられてしまうのだ。
「さてと、企画書読みはこの辺にしといて、アイディア練りに移行しようか」
「そだね」
楓が言うと、遥もそれにならいそれまで読んでいた事務ファイルを置いて机に向かいメモになんだかんだと書きこみ始める。
もうすぐ十二月。
基督教系学校ではないが、日本人のお祭り好きな気風をしっかりと継いでいる聖奏のクリスマスパーティー(生徒会主催)の企画立案が今の二人に課せられた仕事だった。
* * *
「遅いわよ、楓ちゃん」
「すみません」
「まあまあ、まだ予定の集合時間の五分前よ?」
琴音と楓、そして和葉の三人が藤谷家に集合したのはその日の夜だった。
集合した、というか唯奈によって呼び集められたのだが、その理由はまだ伝えられていない。
『居合わせた』琴音と楓は、若干予想は出来るが相手はあの唯奈だ。
きっと斜め上に行ってくれるだろう。
「あ、みんな揃った?」
そこに、唯奈が現れた。
明らかに疲労の色が見て取れる唯奈を、『珍しい』と眺める三人。
「ええ。でも、何のために私たちを?」
代表して最年長者-というか親の和葉が尋ねる
「ついて来て」
そう言って案内された先は夏休み以降『開かずの間』として扱われてきた場所―――『誠の部屋』だった。
部屋の前に立ち、琴音と楓は大体の事は予想がついた。
「ここ、誠の部屋よね」
「私になってからは『開かずの間』扱いにしてあったけど…」
その封を昨夜、破った。
「この中に、何が有るの?」
唯一、全く知らないで呼ばれた和葉は問う。
「………この中でなにがあっても、落ち付いていてね」
そう念をおしてから唯奈がドアを開く。
そこには、___がいた。
「あ………」
和葉から声にならない声が漏れ、琴音と楓は予想が八割方有っていた事を確信した。
「『彼』が現れたのは昨日の夜。私たちの前に突然、『幻魔と同じ方法』で現れたの。刀傷らしき致命傷一歩手前の傷を負った状態で。」
そんな唯奈の説明だが、今の和葉にはまったく届いていない。
和葉にとっては、そんな些末な事よりもベッドに寝かされている少年の事の方が大事だ。
「それで、私が治療を兼ねて調べてみたんだけど…彼は」
「まこと…」
「そう。こことは違う世界の、藤谷誠。正しくは、その抜け殻だけど」
「抜け殻?」
「それって、どういう事?」
ベッドのそばで物言わぬ息子を前に立ちつくす和葉をひとまず置いておいて、琴音と楓はそれぞれ疑問を口にした。
「魂が、破損しちゃってるんだ」
唯奈の説明はこうだ。
人間を含む『生き物』は三つの要素で出来ている。
一つ目が存在その物である『魂』。
二つ目がこの現世においては不安定な魂の入れ物である『肉体』。
そして三つ目が魂と肉体を繋ぐ『精神』。
今目前にいる誠は『魂』が一部欠けてしまっている為に『人間』として存在していられないのだという事。
例外としては『魂と精神だけ』で存在する『精神エネルギー生命体』である精霊と『魂だけ』で存在出来てしまう唯奈が挙げられる。
が、精霊は『物理干渉』をするために『擬似的な肉体』を構築する必要があるから三つの要素全てを備えていると言える。
唯奈は―――問答無用な例外中の例外、チートでもバグでも好きに呼べ状態なので考慮外。
そもそもで『最低限魂がないと存在しえない』という点は変わらない。
それでも理解の範疇外にある二人は知恵熱がだんだんと危険域へと向かっていく。
「パソコンに例えるなら魂がOS、肉体がハード、精神がドライバってところかな」
そう言われても使えるけど詳しくない二人にとっては全く理解できる内容では無かった。
「…で、結局のところ何のために楓ちゃんと母さんを呼んだの?」
知恵熱で痛む頭を抱えながら琴音が問う。
「…この『誠』をこの世界の誠として修復しようと思うんだ」
「出来るの!?」
それまで無反応だった和葉が飛びついてきた。
「えっと、『元々は誠だった魂』を持ってる人間がここに二人いるでしょ。」
当然ながら、それは『元は誠の持つ女性的人格』であった唯奈と『元は誠だった身体に宿った新たな人格』である琴音の事である。
「それだったら私と和葉さんはなんで?」
楓の疑問は『魂同士で何とかなるなら自分たちは不要なのでは?』と言う物だ。
それに対しての答えは、至極単純だった。
「だって、人間て一人じゃダメでしょ。魂に記録されている『誠』、別人格からみた『誠』、他人からみた『誠』…みんな『藤谷誠』の要素だよ」
「だったら、遥でもいいんじゃないの?」
そこで、楓はあえて親友であり恋敵である少女の名を出す。
だが、
「誠との付き合いが一番長い他人が母さんで、その次が楓だからね。それに、遥の中の誠は大部分が女装中だし」
つまるところ、『少年 藤谷誠』として修復するには無駄というか邪魔になるだけ。
唯奈の『楓の恋は成就して欲しい』という個人的感情もある程度含まれているがそこまで手を出すつもりは無い。
あくまで、本人に任せるつもりであはる。
それはともかく。
こほん、と似合わない咳払いをして唯奈が三人と誠の間に立つ。
「まったく同じとは言えない、『限りなく近い存在』でしかないとしても――やる?」
その問はその場にいる全員に向けられたものではあるが、実質的には楓と和葉に向けられたものだった。
そして、その答えは―――