#12‐5
魔術協会日本支部の仮支部長室では二人の男が乾杯をしていた。
『先ほど、睦斗の管理組織の長を始末出来た』
という知らせを手ごまである柿沼から受けた為の乾杯である。
一人は特殊災害対応隊―唯奈たちは『特務隊』と呼ぶあの一団の『特別顧問』でもある支部長、もう一人は支部長の腹心の長である支部長の息子。
「これでようやっとあの目障りな連中が消え、あの特別な霊地を抑えることが出来るな」
「それに、連中に奪われた『鍵』もようやく奪還できる」
二人はコレから広がるバラ色を超えた輝かしい未来を夢想し、それを肴に酒を飲んでいた。
だが、それもつかの間。
「ん、なんだ?」
「無粋なヤツだな…」
一人の男が部屋へ無断で立ち入り、二人を見て顔をしかめた。
「昼間から酒とは、良い身分だな」
「なにぃ?」
その男の言い様が気に食わなくて支部長は喰ってかかる。
「まあ、最後の酒だ。十分に楽しんでおけ―――魔術協会は貴様らの処断を決定したのだからな。」
「なッ!?」
「佐伯の霊地に手を出したのが、間違いだったな」
それだけ告げた男はそのまま退出してゆく。
その数分後、仮設支部長室には物言わぬ人形が二つ置かれるだけの空間に変わっていた。
* * *
「つまり、これって予定されていた作戦だった訳…」
あの襲撃から三日後、週明けのその日に希望者には聖奏の生徒会室に集まってもらってネタばらしをしたら落胆の声が帰って来た。
「まあ、唯奈が殺されるのは予定外だったけど」
姉さんが言う通り、元々は何らかのもめごとが起こったところで魔術協会本部からの『支部長及びその周辺の処断』と村井一佐による『特務隊上層部の入れ替え』を起こす予定だった。
その『もめごと』が組織トップの射殺という極上のモノになった訳だけど。
「で、ゆーなはなんで楓の膝の上に座ってんの?」
そう、遥が言ってきた。
………実は、そうなのである。
「だって」
何故、私は楓の膝に座っているのか
それは…
「準精霊状態って『なんにも肌で感じられない』から、かな」
撃たれて機能停止した肉体を修復して違和感がなくなるまでの間は感覚が希薄で視覚と聴覚くらいしか正常に働かない。
まあ、ぶっちゃけると
「―要は人肌が恋しいだけ、でしょ」
やれやれ、と言わんばかりの姉さんにそう言われた通りなのである。
「甘えんぼだなぁ~」
「えへへぇ」
楓の手が私の頭をわしゃわしゃとかき混ぜ、私はその感触が嬉しくて笑う。
<きーんこーんかーんこーん>
「おっと予鈴だ。それじゃあ今はここで解散。各校の生徒会室にゲート開くよ」
私がパチン、と指を鳴らすと七つのゲートがそれぞれの学校へとつながる道を開く。
楓の膝から降りない理由は…まあ、察して欲しい。
説明会参加者が全員それぞれの学校に行った事を確認してゲートを閉じ、私たちも教室に向かうべく移動を始める。
流石にその時は膝から降りた。
「さて、今日も一日頑張るぞー」
その日、私の機嫌は中々に良かった。
その日の晩までは。
夜、聖奏の校庭‐それも帰宅間際で昇降口にいた私たちの目前に『極小の歪み』は現れた。
慌てて鞄を手放し、戦闘態勢を取る私たち。
当然のように結界を張って対峙しようと思ったが、現れたのは予想外の存在だった。
「え?」
皆があげたその声こそが、全てを代弁してくれていた。
次回は戦闘無しの回になるかもしれません。
大学が地震で今月一杯は立ち入り禁止(許可を取り教職員付き添いなら可)になったのでヒマが出来てしまいました。
故に明日からの三連休中に(まあ春休み中なんで連休も何も無いけど)、筆が進めばもう一話行けてしまうかも…
ちなみに、作中では#12-5終了時で11月の四週に入ったところ位です。
次はクリスマス(終了式)あたりかな?