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Magius!  作者: 高郷 葱惟
50/67

#12‐4


私が姉さんを見つけた時、姉さんは何やら大事の準備をしていた。


その証拠に並の術式なら一息で、なんのためらいも無く成功させて見せる姉さんが深呼吸をして精神の集中を図っている。



「さて、やるわよ…」


『何を?』


決意のこもった呟きをこぼすものだから、つい尋ね返してしまった。


残念ながら今の私は霊体みたいなものなので『物理現象としての声』では無く『思念通話』という形でだけど。



盛大にズッコケかけて、収束しつつあった魔力も拡散してゆく。


ばッ、と振り返って来た姉さんと目が合った。



『やっほー』


「唯奈!?」


手を振る私の姿は姉さんにしっかり見えているようで‐というか見えるようにしてるので私の所に駆け寄って来る。


で、抱きしめようとして手はすり抜けた。


『あ、今は幽霊みたいな状態だからちょっとお触りは無しだからね』


「幽霊って…どうしてそんな事に…」


『まあ、ちょっとばかり(話したらここが更地になるような)理由があるんだけどね。今は幻魔退治』


「…はぁ。それもそうね」


やれやれと言わんばかりの姉さんは再び集中を始めようとする。


『あ、広域殲滅系の術式をひとつ展開してあるから、制御渡すよ』


と、私は前もって展開しておいた術式の一つの制御を姉さんにパスする。


膨大な魔力が必要なのでそれなりの量は蓄えてある。

あとは『起爆』に必要な量を流し込めば術式は起動する。


「まったく…準備がいいんだから」

そんな事を知ってか知らずか…にやり、と笑みを浮かべる姉さんから魔力が流れ込む。



その瞬間に姉さんの足元に六芒星が現れる。


術式の制御部がそこに現れたのだ。


ついでに言えば空から見下ろせば今頃、巨大な六芒星がこの駐屯地のフェンスギリギリまで広がって見える筈。


『ツバキ、この駐屯地を見張ってる使い魔からの位置情報全部回して』


『ゆ、唯奈さん!?無事だったんですか!?』


『ほら、やることやる!』


『はい!幻魔の位置情報、全部送ります!』


念話による連絡でこれで『手札』は全部揃えた。




ひとつ、ふたつ、みっつ…と光が生まれ始める。



渦を描くように動いていたいくつかの光が巨大な光の塊に姿を変えてゆく。


『照準よーし』


私の声が届いて、姉さんは手を上に上げ―――





「行けっ」

手を振り下ろすと同時、巨大な光の塊は幾つもの光芒を魔方陣の各所にへと降り注がせた。


ツバキの使い魔が捉えた幻魔を一体ずつ消し飛ばしてゆく、究極の誘導射撃とでも言えばいいんだろうか。


まあ、欠点は必要な魔力と誘導に必要な思考力が普通の人間じゃ不可能なレベルだってこと位か。


ツバキの使い魔を通して次々と幻魔が斃されていく様子を私はリアルタイムで見届ける。



最後の一匹を打ち抜くと同時に避難場所の近くで『本命』が出てきたのだけど、執行部数百と魔術師十数の前にノコノコ出てきてしまった哀れな異形は一斉射を一身に浴びて何のために出現したのかも判らないまま消し飛んだのだった。


うーん、哀れ。

 * * *


「負傷者なし。自衛隊の方も、何人か軽傷だけどまあ、無事みたい。今、執行部が武装解除をしてるみたい」


「そっか。それじゃあ、私たちがちょっと離れても問題ないかな?」


遥と楓は指令部らしき建物から出てきた一団を『避難場所』まで護送した後周辺警戒に当たっていた。


今回は『本命』たる幻魔も討滅済み、修復も完了しているが最近は極小の歪みが発生する事が多々あった故の『念の為』。


「ゆーな、探しに行かないとね」

近場に居る執行部の一団に一声かけてから、自衛隊の誰かから聞きだそうかと動こうとした時…



「動くなッ!」


そんな怒声と銃声が鳴り響いた。


「何事?」

「なんというか、癇癪?」


一時期は実銃を使用していた執行部はもちろん、至近でその音を聞いていた魔術師組も平然としていた。

ごく一部、つい最近加入したメンバーがびくっとして一瞬動きを止めた位だ


「貴様ら全員を公務執行妨害と銃刀法違反で拘束する!」


そんな声に失笑がこぼれる。


「エアガンで銃刀法違反だってよ」

「笑っちゃうな」


「公務執行妨害?」

「どちらかって言うと、ウチら民間人が協力してるって光景じゃないの?」

「完全に足引っ張られたけどね」


あはは、ふふふ、わはは、ははは…


そんな笑いすら混じる状況に怒声をあげた張本人―柿沼は怒りの熱をさらにあげてゆく。


パン!


と再び鳴らされる銃声。


なんだなんだ?

注目の合図か?


そんな感じに一度雑談を中断させるが、一部(主に女子)は喋るのを止めようとしない。



「貴様らも昼間の小娘のようになりたいのか!?」


その瞬間、ぴたりと雑談が止んだ。


「質問!具体的にはどんなふうになるんてすかー?」


小馬鹿にしたような声を、工藤は精一杯相手をバカにして出した。

「それに、昼間の小娘って誰ですか~?」


それに次ぐ誰かの声も、笑い声も柿沼の自尊心をガリガリと削り取ろうとする。


元来、我慢強い性格では無い柿沼にとってそれは耐えがたい屈辱として怒りに変換される。


そして、度の過ぎた怒りは正常な判断力と我を忘れさせる。


「き、貴様ら…全員――」


『ブチ殺すぞ』

そう柿沼は続けたかったが一瞬で変わった雰囲気に呑まれて言う事は出来なかった。


幻魔という化け物を相手にする魔術師でも一瞬ばかり怯えるほどの殺気に近い雰囲気に誰ともなく道を譲る。




現れたのは銀色のパック―自衛隊の遺体袋を大事そうに抱えた琴音だった。


沈黙が支配する空間に、琴音の、皮靴特有の足音だけが響く。



こつーん


琴音は楓の前に立ち止まってその袋を渡してくる。



楓が受け取った袋は、予想していたよりも軽かった。

そしてその中身の形は、まるで―――


「と、止まれ!」


柿沼の制止を琴音は当然のように無視する。


銃を向けられようが、全く構う事は無い。

むしろ、逆に日本刀を魔力から作り出し、無造作に構える。


「こ、琴音さ―――」


遥が前に出て止めようとする


が、


「ダメだよ。」

「ダメです」


マナとツバキに止められる


「ちょ…2人とも?」


「それの中身、判らない?」


楓が仲裁に入るがマナに言われて『あえて想わないでおいた事』を思う事にする。


この袋は見た目ほど重くない。

また、持った感じは力の抜け切った人間に近い。

大きさはやや小さく子供くらいだろうか。


そして、先ほどの柿沼の『昼間の小娘のようになりたいのか』というセリフ。



行方知れずの唯奈

中の見えない、子供くらいの大きさと重さの中身の入った袋。

琴音の、我を忘れるどころか冷静になるくらいの怒り様。



それらから導き出された答えは―――


「よくも、妹を…ッ」


この件で唯一の死者が、唯奈である。


「ひっ!――わ、我々に手を出したらく、国が黙っては居ないぞ!」


往生際が悪くそんな事を言うが、怯えて尻もちをつき、銃を取り落とす柿沼。


その周囲からは部下たちが逃げるように遠ざかってゆく。


「ご愁傷様。あんたらの頼みの綱の『特別顧問』とやらも、しかるべき組織に告発済みよ」


刀が、ギラリときらめいた。


「あとは、落し前をつけさせるだけ」


「琴音さん」


柿沼の前に立った琴音に、楓が話しかけた。


「何?」


邪魔するなら容赦はしない。

そう目が物語る。


「私にも、やらせてください」


「ダメ。これは姉の私がやるべきことなの…黙って見ていて」


楓を下がらせて琴音は構えた刀を振り被り…




「ひぃぃぃぃ!!」


ぱりん


悲鳴をあげる柿沼の頭に刀の刃が触れたと当時、刀の方が砕け散った。



「え?」


当然、斬殺されたと思っている柿沼は放心状態。

一方で、確実に斬り殺したかと思ったら刀が割れて無傷という状況に困惑の声をあげる周囲。


「ま、こんなもんで勘弁してあげるとしましょうか。唯奈、お願い」


「はいはーい。村井さん、どうぞ」



「―――はぁ!?」


何故か、唯奈が二人の自衛隊員を連れて現れた。


「『特別顧問』と共謀し隊を私物化し、現地組織の妨害行為を行った柿沼二佐は降格の上更迭されることが決まった。」


村井の傍らに立つ男がよく通る声で宣言する。


「今後は復帰した村井一佐が指揮を取られる事になった。」


「―最初の命令だ。柿沼を拘束せよ。また、その後は武装解除し待機とする」



「了解!」


村井の命令に、相模が一番最初に大声で返礼をし、放心したままの柿沼の腕を掴む。



腕を掴まれた事で我を取り戻した柿沼は

「上官に対して…無礼だぞ!」


「村井一佐の命令です。」


それだけ答えると続いて動き出した相模の部下と共に柿沼は拘束され独房へと案内されることになる。



「さて、あとはウチとの折衝ですけど」


琴音が村井にそう呼びかける


「はい。上層部にもこのことは説明済みです」


「死者一。これはどうする気?」

「それに関しては…どんな事をしてでも償いきれないでしょうね」


その琴音の言葉に、皆してキョトン、とした。



「あれ?琴音さん。唯奈、そこに居るんですけど」


遥が思わず尋ねた。


「遺体袋、開けてみて」


言われるがままに楓がマナに預けた袋を開けると


「キャッ!?」


中の惨状に遥は思わず飛び退いた。


中身が知人の銃殺死体なら、誰でも驚く。



「ま、殺された本人が無介入を決め込むならそれでいいって言ってるからここで手打ちとしましょうか」


「…感謝します」


「ただ、あの大馬鹿者の処分は」


「かなり厳しいものになるでしょうね。」


では、と敬礼をしてからその場を去る村井。



「あの、話の流れがまったく判らないんですけど」


今まで黙っていたが誰かが聞かないと話が進まなそうだったため白澄が恐る恐る声をかけた。


「あはは、私はちょっと特殊でねぇ。『肉体(うつわ)』が無くても『(エネルギー)』だけで存在出来ちゃうんだよね」


そういう唯奈を良く見ると普段よりなんか小さい。


「まあ、精霊みたいな感じの存在ってことかな」


そう、朗らかに笑いながら説明する唯奈だが、一体何割が理解できたのだろうか…


「とりあえず、これで一件落着って事?」


楓は首をかしげながら、おそらくそれが一番近いであろう答えを呟いた。


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