#2‐1
第二話です。
第一話を読んで判ってると思いますけど、戦闘描写苦手です…
生徒会裏の初仕事から一週間後―――
「とーや、そっちに行ったよ!」
「了解だ」
俺と楓は睦斗市立第六高校の生徒と共に人気のない市街を駆けまわっていた。
「だリゃァァっ!」
魔力を収束させグローブ状にして殴り掛かり、魔力で覆われた拳に当たった場所を消し飛ばす。
前の時は剣状に収束できたけど、アレ以来うまく行ったことはなくホントに火事場の馬鹿力的なものでしかなかった。
今、俺たちが相手をしているのは幻魔と呼ばれる異形の化け物(の大量生産版)だった。
…世界をゆがませる原因となる異世界起源のモノを全て『幻魔』と総称してしまうから、色々語弊は出る。
とりあえず、前回相手をしたような手強さはないが数の多さが中々に厄介なヤツらだ。
そのため第六高校の魔術師の張った結界の中には何十もの小型(体長1m位)の中途半端な人型の一つ目小鬼―通称『ゴブリン』が点在していてそれと各所で戦闘を繰り広げられていた。
聖奏学園に寄せられた増援要請に応え、俺と楓が戦闘経験を積むべく派遣されてこうして戦っているのだ。
…といっても、攻撃範囲の関係で楓がまとめて焼き払い俺が残ったのを始末する。という構図が出来て居る訳だが。
「にゃーっはっはっは。くらえぃ!」
マナもマナで猫娘よろしく人型のままツメを伸ばしてばっさばっさと切り刻む。
この前から普段はネコの姿になってもらっているので大分ネコ化してきているようだ。
マナが受けたダメージは俺の魔力を消費することで瞬時に回復しノーダメージになっているが正直ムダにダメージを受けるのは止めて欲しい。
ああ、俺の魔力が(無駄に)消費されてゆく。
とりあえず、マナによる無駄遣いが戦闘に響かないことを祈りつつ、最後の一匹を殴り倒す。
無言で消えてゆくゴブリンを見届けつつ周囲を警戒。足音や気配が味方のもの以外がないことを確認する。
「…これでこのあたりは終わりか?」
ピロロロ……
「はい、高槻です。あ、吉川会長。」
不意に楓の携帯電話が鳴る。
相手は睦斗六高の生徒会長のようだ。
「はい。了解しました。とーや、隣の区画が苦戦してるみたい。」
「救援だな。行くぞ、マナ」
「りょーかい」
猫に戻ったマナを肩に乗せ、俺と楓は指定のあった隣の区画へと向かって走り出した。
* * *
救援要請を送って来た区画は住宅地の真ん中にある路地の多い商店街だった。
比較的開けていたがその分数が多く、他地区からの合流が出来ずに苦戦させられていた。
そんな地区に三人で斬り込んでも効果は無さそうだが…
「楓、一気に行くぞ」
「了解」
盾にもなれる前衛のマナ、広域殲滅が可能な楓、一撃必殺が可能な俺という編成はザコ・大物関係なく叩きのめすことが可能になる。
今回は楓の広域殲滅が威力を発揮したというわけだ。
なによりも、『群れの一部が崩れた』という事実だけでも十分に味方を勢いづかせることができる。
「せーの!」
楓の合図で雨あられと撃ちこんだ魔力球と焔弾は次々とゴブリンを焼き払い、消しとばし市街中央部への突入。
途中で出くわした小規模な群れにも同様の掃射を浴びせかけ吹き飛ばしてゆく。
このままなら俺たちだけで中央区画の制圧もできるんじゃないか…?
『きゃあああっ!』
そんなことを考えていたら悲鳴が聞こえてきた。
「悲鳴!」
俺たちと同じことを考えたのか、それとも雑魚掃討中に誤って敵陣奥深くまで踏み込んでしまったのか、味方が敵の中央部にいた。
先輩方から『幻魔関係の起こったことはその幻魔が消えればなかったことになる』と言われているが、精霊の消滅や魔術師の死亡はなかったことにできないし、原因消滅による修正は『世界』に影響を与えるらしいので被害は最小限に抑えるにこしたことはない。
三人(正確には二人+α)で悲鳴の元に駆けつける。
現場は戦闘区域中心部を通るアーケード状になった商店街だった。
そこでは一人の女子と一柱の精霊が背後におそらく同じ部隊であろう仲間が倒れており逃げるわけにもいかないが正面切って戦うには辛いじゃ済まない…という状況に置かれていた。
精霊のほうが主人であろう少女の前に立ちはだかり盾になっていたが、かなりの消耗具合だ。
「そこの二人!伏せろ!」
俺が叫ぶとその二人(正しくは一人と一柱)は伏せて防御態勢を取る。
「マナちゃん!」
「はーい。いっくよー、かえちゃん」
マナが楓を上に投げ上げ、空中から焔弾の雨。
不意を突くうえに意表を突く攻撃方法にもとよりそれほど知性のある幻魔ではないゴブリンは慌てふためくだけで次々と灼かれてゆく。
「あ、とーや。キャッチよろしく」
討ち洩らしを始末しに飛び出すマナがすれ違い際にそう言ってきた。
上を見上げれば楓は着地する気皆無な様子で背中から落下してくる。
「ったく」
俺は落下するであろう場所で両腕で受け止める準備をする。
受け止め損ねれるか、下手な受け止め方をすれば大怪我だが………
「―っと!」
全身を使って落下の衝撃を和らげ楓を受け止める。
「ナイスキャッチ」
楓はそう言いつつ俺の腕の上で所謂『お姫様だっこ』状態のまま焔弾を撃つ
それもゴルフボール以下の小ささの焔弾をマシンガンよろしく連射だ。
火力は言うまでもなく。
マナによってある程度密集させられていたゴブリンは次々と撃ち抜かれ消滅していった。
「ふう」
最後の一匹の消滅を確認したところで俺は(残念そうな表情をする)楓を降ろし探査の術式を起動させる。
会長に貰った『術式の書いてある短冊』に魔力を流すだけだが、これによって狩り残しや新たに出現しないかが確認できる。
「っ!」
ちょうど結界の中心である俺たちのいる場所から『巨大な何か』が出現してくるのを探知した。
「楓!マナ!デカいのが来る!」
『デカいの』というのは何もサイズの事ではない。
大抵の幻魔は保有魔力量が強さに比例している。つまり、魔力量の多い幻魔ほど強いという事だ。
地面にできた暗い影のような穴から湧いて出てきたのは身長こそ一般的な大柄な男程度だったが、翼と鍵爪を持つワシ頭だった。
「来るぞ!」
翼を広げ空に飛び上がったワシ男は鋭いかぎづめを武器に俺たちに向かって急降下してきた。
高度的には俺ではなく楓とマナ、あとは生き残りの少女が狙われているのだろう。
「くそっ!」
俺は過剰なまでの魔力を放出して少しでも広く厚く魔力を展開する。
イメージは壁だ。
びきっ!
硝子が割れるような音を立てて俺の障壁とワシ男が衝突した。
俺の防壁は貫通直前まで抜かれたが、相手も貫通までは至らずに鈎爪を壁にめり込ませている。
初めて成功させたわりにはいい出来だと個人的には思う。
「っしゃぁ!」
飛べない鳥はただの獲物だ。
防御の為に展開していた壁の制御を手放すと半分めりこんだワシ男と対消滅を始める。
おそらく、この一体を倒せば今回はネタ切れになるだろうし、最悪の場合でも他の地区に展開している第六高校の面々が集結して対応してくれる筈だ。
ぶちっ
嫌な音を立ててワシ男は俺の魔力に呑まれかけていた腕と片翼を引き千切って強引に脱出を果たす。
「逃がさないよ!」
「援護、ヨロシクね」
楓をマナが前に出て追撃をかける。
さらに近づいてくる沢山の足音。
おそらく、他地区から集結しつつある第六高校の面々だろう。
両腕と片翼を失って機動力と攻撃力を大幅に殺がれているワシ男はマナと楓相手に苦戦している。
すぐそこまで足音が来ているから、すぐに…
そう思ったら、路地で何かが光った様に見えて
「楓!マナ!」
丁度、その光った位置がワシ男をはさんで真正面だったので俺は二人の前、ワシ男の目前に飛び込んで最大出力で防壁を張った。
さっきの防壁展開で大分魔力を使ってしまっているが、なんとか絞り出す。
流石、二度目。さっきよりは安定している。
楓とマナの前に出た俺の目前に銀色に輝く壁が出来上がるのと、同時
「撃て」
無感情な声と同時に路地から一斉射撃が始まった。
けたたましい銃声をまきちらしながら、次々とワシ男に穴を穿つ。
ついでに俺の防壁をがりがりと削りながら。
「くそっ!こっちの事はお構いなしかよ!」
その、第六高校の魔術師たちにしては奇妙な攻撃はワシ男が塵と消えるまで続けられた。
銃撃が止むと同時に俺の魔力も限界を迎えたのか防壁が光の粒子となって消えてゆく。
「ぜぇ…ぜぇ…なんなんだよ、一体!」
かなりの魔力を防壁維持に消費して疲労困憊した俺はその場に座り込む。
幸い、幻魔の出現はもう終了したようで、今は第六高校の事後処理部隊が修復作業と負傷者の救護を行っている筈だ。
「楓とマナは無事だな?後ろの連中は?」
「私らは大丈夫。向こうも…ッ!」
楓が行き成り前に飛び出したかと思うと炎の柱が立った。
着地が上手くいかず盛大に転びながらも楓は焔を放つ。
じゅっ…
そんな何かが溶けたり、蒸発したりするときの音がした。
一体何が溶けたのか。
それは楓が作り出した火柱の明りに照らされた路地を見てよく分かった。
鉛弾だ。
そしてそれを撃ちだすのに使われたのはどう見ても銃刀法違反なアサルトライフル。
そしてソレを持っているのは白いコートを着た、まるで宗教団体のような集団だった。
そいつらはその後何かしてくることもなく、俺たちを一瞥してその場を立ち去っていく。
「…何だったんだ」
俺の呟きには誰も応えてくれない。
それどころか
「痛っ…」
楓が起き上がろうとしてその場に崩れる
「どうした?」
俺が楓の痛がる場所を確認すると少々腫れていた。
どうやら、俺を庇った時に足首をひねったようだ。
「歩けそうか?」
「ちょっと…無理っぽいかな」
大分腫れているから確かに、無理に歩くのは良くないだろう。
「しゃーない。運ぶから暴れるなよ」
そう前置きしてから俺は楓を再び抱き上げた。
背負う訳にはいかないので当然のごとくお姫様だっこだ。
「だ、大丈夫ですかッ!?」
慌てた様子の声がかかって俺たちは声の主の方を向く。
声の主はさっきの立ちはだかっていた少女だった。
「大丈夫。ちょっと足をひねっただけだから。あなた達は?」
「はい。みんな怪我こそしてますけど、大丈夫です。いま連絡して救護を呼んでもらいました」
「そう。よかった、手遅れじゃなくて」
ほっとした様子で胸をなでおろす楓。
「それにしても、お強いんですね。あ、私は睦斗第六高校、一年で白澄って言います。」
「私たちは聖奏学園の高槻楓と―」
「藤谷誠だ。学年は同じ一年生。そっちのネコ娘はどういう訳か俺に取りついている自称使い魔」
「え、同級生?」
「だから変に敬語とか使われてもこっちが困るんだけど…」
「ええっとと、てっきり上級生かと…それじゃあ遠慮なく。ありがとう。助かったわ。二人とも魔術師?」
「俺は『新米の』ってつくがな」
「私は先天性。といっても、大雑把過ぎて応用が効かないんだけど。白澄さんは?」
「私は精霊と契約してるの。あんまり戦闘向きじゃないんだけど…リズ」
彼女が呼ぶと先ほど彼女の盾となっていた女性が現れる。
俺たちもマナで見慣れていなければ『幽霊』と思ったかもしれないな。
「なるほど。まあ、これから同じルーキー同士、頑張ろうね」
「ええ」
その少し後、救護班(応急手当の心得や治癒・回復系の魔術や技能を持っている技能集団)が到着し、楓を引き渡した後、他の負傷者回収を手伝うこととなった。
「そういえば藤谷くんって、高槻さんと付き合ってるの?」
班員ほぼ全員がダウンしている白澄の手伝いで怪我の様子を見ていたら白澄がそんなことを言ってきた。
「いや、特別付き合ってるとかそういう訳じゃないぞ。」
幼馴染みだからお互いに恥じらいと遠慮がなくなっているだけだ、と思うのだが…
「ふーん」
なんだか生温かい視線を送られる。
「………なんだよ」
「いや、お似合いだなって」
「なんだそりゃ」
それから怪我の度合いが酷い人から順番に救護所となった場所へ運ぶのだが、その間ずっと白澄にこの手の話題で弄られ続ける羽目になった。
ちなみに、帰りは楓をおぶって送っていくことになり、色々混じった視線を第六高校の面々から向けられた。