#12‐3
「こんな時間に集合をかけてごめんなさい。ただ、それだけの大事だという事は理解をしてもらえる助かります」
琴音は集まってくれた全八校プラスOB会の戦力を前に最終的な『演説』をしていた。
「事前に事情は伝えましたが連中は完全に私たちと対立の姿勢を取っています。それどころか、トップを拉致するという強硬手段に出てきています」
その知らせを聞いて、一体何人が夢であるかと疑ったものだろうか。
「なら、徹底的に叩きつぶして…返してもらいましょう」
集まった一団から歓声が上がる。
その時だった。
「こ、琴音さん!」
ツバキがかなり焦った様子で駆け込んできた。
「どうしたの?」
「自衛隊の駐屯地が…巨大な歪みに包まれました!」
「ッ!?」
驚愕。
ただそれだけがその場を支配する。
「目標変更ね。連中を助けるつもりは無いけど、野放しにはできない。抵抗されたら容赦なく気絶させて排除するわよ。ここからは各校の会長にお任せします」
たが
「折角だから、突入の命令位は出してよ。御剣琴音生徒会長代理。」
会長不在故の代理設置。
その結果で出来た指揮権を振るえと信乃は言う。
「判りました。………状況、開始!」
隠蔽して集結していた総勢千に近い数が人払いなどで漏洩を防ぎフェンスをブチ破って突入していく。
(待っててよ、唯奈)
琴音はそれだけを頭に、先行する一団を追った。
* * *
「敵襲!敵襲ーッ!」
「くそっ…こんな時にッ!」
相模達は歪みの中で実際に現れる幻魔達に遭遇していた。
この『歪みの中に一般人が入れる』というのも唯奈が展開しておいた結界陣などが誤作動して起きている状態だが、そんな事は彼らはつゆ知らず。
「全員、一体に射撃を集中させろ。人間と違って連中は頑強だぞ!」
相模は村井から教えられた『通常兵器での対抗方法』を使い一体、また一体と一つ目の小鬼を倒してゆく。
ただ、二体倒すのに半個小隊分の小銃が弾切れになるほどの高燃費な戦闘はそう長く続けられる訳ではない。
事実、六体ほどの一つ目―ゴブリンを倒した段階で相模の小隊は手持ちの弾薬をほぼ全て使い切ってしまっていた。
それから始まるのは…異形の化け物との白兵戦である。
『こんなことなら白兵戦用の装備の用意も具申しておくんだった』
そう、今更な後悔をしながら飛びかかって来るゴブリンから目が離せなくなった相模は、その後の出来事が少しばかり信じられなかった。
「居たぞ!ゴブリン八匹に襲われてる!工藤!」
「了解ッ!」
目の前を閃光が走る。
信じがたい事にその閃光に呑まれたゴブリンはあっけなく、消滅して影も残さない。
一個小隊が苦戦してなんとか六体倒したというのに、現れた一団はたったの一撃で消し飛ばしてしまった。
「あー、大丈夫っすか?」
「あ、ああ…」
先ほどの閃光の発生源の少年――工藤に声を掛けられてなんとか現実に戻って来た相模。
「そりゃ何より。避難誘導するんでついて来てください。先導はアイツが。今旗、任せるぞ」
「了解」
示す方向にはサブマシンガンを手に警戒に当たる少年が一人。
あんな軽火器で大丈夫なのか?
そもそもで、何故学生らしい彼らがあのような銃を?
相模の脳裏に幾つもの疑問が浮かんでくる。
「工藤、八時からゴブリンがまた十。モテモテだな」
「バカ、冗談言ってる場合じゃないだろ。ゴブリンで済んでる間に逃げるんだよ」
相模たち自衛隊員と幻魔の間に素早く展開した数人の学生が銃を構える。
それらは相模達が持つ小銃と同等かそれ以下の火力しか持たないモノにしか見えず…
「そんな軽火器では連中にダメージは…」
タタタ、とまるで電動エアガンのような軽い発射音。
だが、撃ちだされた弾丸はコブリンに孔を穿っていた。
その様子に目を丸くする自衛隊員たち。
そんな彼らの緊張をほぐそうと工藤はおどけて言って見せる。
「ああ、コレの弾は八ミリのプラスチック弾なんで当たっても痛いで済みますから」
ついでに、市販の電動エアガンの改造品ですよ、と。
だが、隊員たちには自分たちの対人殺傷力の確かな小銃で苦戦する相手にそんなものが通じるとは思えなかった。
現実には通じてしまっているのだから始末に負えず何人もが思考停止してる訳だが…
「とにかく、今は移動を。俺たちが邪魔で火力が振るえない連中がいるんですよ。」
工藤ら学生たちに急かされて相模は隊の面々に彼らに従うようにと指示を出した。
「追撃、ゴブリンが二十と中型が八」
「あっちゃー、もうデーモンが出てきたのか。」
牽制射撃を加えつつ大所帯を誘導する彼らだが、相模の目からすれば無謀の極みでしかない。
先ほどまでの小型の一つ目を数倍にしたかのような容貌の中型には目立ったダメージがいっているようには見えない
「七篠、呪符で吹っ飛ばしちまえ」
「あいよ。」
再び取りだされた紙片を手に相手に向け…
「吹っ飛べッ!」
再び、閃光が追手に襲いかかる。
ゴブリンなぞ眼中に無く、事実射線上に居たから消滅させられただけで端からデーモンだけを狙った閃光は直撃したデーモンは消滅させ、かすっただけのモノにはそれなりの傷を負わせる。
更に銃撃が加えられて追手の集団はいとも簡単に壊滅する。
「これで呪符はお終いか。」
「急いで退避だな」
それから急かされて相模達の小隊は指令部となっている建物のすぐ傍らの、何十という工藤達と同じ格好の学生たちが守る建物へと押し込められるように避難することになった。
* * *
「どうなっている!第一小隊は何処へ行った!第二と第三の被害は!」
柿沼は折角のチャンスを無駄にしつつある部下に業を煮やしていた。
前任者の村井の隊で副官をしていた相模の指揮する第一小隊は思考こそ柿沼と相反する者たちだったが技量は部隊随一だった。
事実、他の隊とも連絡が取れなくなる前に『撃破』報告をあげてきたのは第一小隊だけなのだ。
「ま、まだ状況が…それに通信も不通で…」
「まったく!我々が探す手間が省けているというのに、なんともふがいない!」
柿沼は部隊の配置換えや人材の交換の具申をする事を考えながら、どうやって指揮系統を取り戻すかを考える。
少なくとも第一小隊は全員を予備に回す事は決定だ。
「連絡のつく兵と警備部隊は俺について来い!出るぞ!」
その結論が、指揮官の前線出撃であった。
指令部護衛と連絡のつく…指令部の至近に居る兵を呼び集めて出来上がったのは寄せ集めの一個小隊とオマケ程度の戦力だった。
「まず、備蓄庫の重機関銃などの装備を回収する。その後生残兵を吸収しつつ掃討に当たる」
部下に確認を取り、指令部である建物を出た直後、翼を持った異形―ガーゴイルの群れに出くわして柿沼はみっともない悲鳴をあげた。
魔力を持たない一般人にはそれほど興味を持たないガーゴイルだが、耳障りだったのか柿沼たちに鋭い眼光が向けられる。
生物の本能が身体を縛り付け直衛隊は見事に全滅の危機を迎え…
「楓ちゃん、遥ちゃん!」
幾百の光弾と火球がその危機を撃ち払った。
たった一度の攻撃でガーゴイルは有る者は焼き払われ、ある者は光弾にその体躯を貫かれて墜落し消えてゆく。
続いて現れた大きな一つ目―デーモンは何処からかの狙撃によって崩れおち、狙撃を逃れたものも容赦のない閃光に呑まれてゆく。
『助かった』と思った柿沼が次に思ったのは『化け物を倒せる戦力の吸収』だった。
「そこの―――」
だが、その言葉は発しきる事が出来なかった。
柿沼は予想外というかある意味予想出来る事だがしなかった現実を見て硬直。
部下たちも同様の状態に陥っていた。
信じたくないのだろう。
セーラー服を着た女子高生の一団によってあの化け物が一掃されたなど。
そして、まるで魔法のような、光弾や炎を手から発する少女たちを。
「菊池君、あの連中を退避場所へ。」
「了解」
呆然としたままの柿沼達は何がなんだかわからないまま白いコートを着た一団に誘導されてほぼ無傷の、連絡が取れなくなっていた隊の面々が居る場所へと連れられた。