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Magius!  作者: 高郷 葱惟
48/67

#12‐2


「これまた酷いことになってますね」


「散々注意を呼び掛けられていたから警戒をしていたのだが…」


その日、私は執行部の藤澤会長から心労が増える土産話を貰っていた。


「…それでもって追いはぎばかりを警戒し過ぎて、備蓄倉庫の予備を根こそぎ持ってかれた、と」


「………すまん。」


申し訳なさそうにする藤澤会長を前に相手が年上だとか関係なしに溜め息が出る。


「具体的な窃盗被害はどれくらいなんですか?」


「ああ、コートが一箱に十着入ってるんだがそれが八つ。うちひと箱だけが加工済みだったモノだ。他には――」


被害の総計はコート八十着(うち十着が対魔加工された防護コート)、特殊弾五千発、改造したモデルガンが十丁。

護符や未改造のモデルガンは興味が無かったようで全て無事だったという。


「…とりあえず、コートは生徒会イベント時防寒用のモノ、モデルガンと弾はサバイバルゲーム部の備品として警察に盗難届を出しておきましょうか」


特殊弾と言ってもパッと見は普通のプラスチック弾だし、殺傷能力は殆どないに等しいから大丈夫だろう。

そもそもで睦斗警察がこっち側の組織だし。


「で、今回の一件で執行部の活動にどれくらいの影響が出ました?」


「ああ、幸いにして殆どない。追いはぎにやられた連中への装備の支給は済んでいるし弾薬も予備の備蓄分がやられただけ、コートは来年の新入生用の前準備の為のものだ。」


成る程。


「では、しばらくは自衛に専念をお願いします。警察が何処まで動けるかは判りませんが多少慌てさせて相手が手を出してくればこちらが『正当防衛』の行使で殲滅戦に持ち込めますから」


藤澤会長の口元が一瞬ばかり引き攣った気がするが気にしない。


「ああ、所属各校にもそう伝えておく。」


「被害届はこちらで出しておきますから。続報があったらお互い…」


「ああ、また連絡する。」


「お願いします」


ぷつり、とモニターが消え私はそれなりに長い時間同じ姿勢でいた為軽く伸びをして身体をほぐす。


「あー、さらに厄介な事になった」


これで相手の手が増えてこっちの手が減った。


魔術と科学の混合によって作り出された通信機(防諜性抜群)の初使用がこんな報告だなんて…


「………とりあえず、少し表の仕事でもして気分を変えますかね」


通学カバンとは別の仕事鞄に数枚のプリントと封筒を枚数を確認して入れる。


表の仕事として中等部の生徒が二月後に行う職業体験のあいさつ回りがある。

中等部にも生徒会長は居るが表周り系は高等部の会長がやるのが伝統らしい。

端的に言えば『後輩がご迷惑をおかけします』とあいさつして回るわけ。


あとは…


「職業体験の挨拶周りしてきます。定時になったら各自解散してください…っと」


ホワイトボードに行動予定を書き込んでおく。

こうすれば問題は無い筈だ。


ついでに睦斗警察に寄った時に被害届も出しておかないと

「あと、警察署に寄ります」

その文を書き足してペンを置き生徒会室を出、挨拶に行く相手先と最短ルートを考えながら下校する生徒に交じって門を出る。

…今日の所はとりあえず睦斗警察方面かな。


何時までに帰れるかな…そんな事を考えながら私は警察署前のバス停を通る路線バスの最寄りバス停を目指して歩き始めた。


 * * *


「…それにしても遅いわね」


琴音は時計を見上げながら呟く。


唯奈は職業体験のあいさつ回りをしてくると書き置いて外出したみたいだけどいくらなんでも遅すぎる。

帰宅した時家で留守番していたマナとツバキによればまだ帰ってきていないとの事。

なのでもう一度学校に来てみたが姿が見当たらない。


なら、何処で?


「確か、行き先のリストが合った筈よね」


琴音は妹の性格ならコピーの一枚でも残している筈だと会長机の上を漁るとすぐさま薄く『原本』の書き込みがある行き先リストがあった。


ご丁寧に電話番号や営業時間もついている。


「えっと…先ずは…」


『警察署による』と言っていた以上警察署には行ってる筈だ。



「―――もしもし、睦斗警察所でしょうか。私は聖奏学園生徒会の御剣と申します。ウチの会長がそちらにお邪魔していませんでしょうか…」


なので琴音は警察署を一番にかけることにした。


だが…


「え―――来てない?」


思わず、受話器を取り落としそうになった。


「は、はい。お手数をおかけしました。はい、何かありましたらまたご連絡致しますので…はい。失礼します」


なんとか落ち付いた応対をして電話を切り…


「これは、緊急事態よね」


すぐさま別の番号をダイヤルする。


宛先は唯奈の持つ携帯電話。


だが、いくらコールしても出る様子は無い。


呼び出しまでは行くから電波は届いているようだが…


一度受話器を置き、もう一度取る。


次の連絡先は…


「もしもし、梨紗?緊急事態が発生したわ。副会長権限で集められるだけ人を集めてもらえる?」


書類上、唯奈に次いでの権力者である副会長の梨紗の所。


最近は一年に仕事を任せて隠棲状態になりつつあるがこう言う時、肩書は割と重要だ。


電話の先の梨紗に簡単な事情説明をしたら二つ返事で了承が帰って来る。


そしてその電話の僅か三十分後には聖奏生徒会のほぼフルメンバーが生徒会室に集合していた。



「どうしたんだ?緊急事態って」


啓作が状況が読めない故に問う。


それに対し、琴音はこう答えた。


「唯奈が、行方不明になったわ」


その言葉に、集められた全員が凍りついた。


 * * *



パン

「っぐ!」


乾いた破裂音が、陸自特殊災害対応隊駐屯地の一室に響いた。


続いて壁や床に紅い飛沫が散る。


「柿沼二佐!」


相模は、上司の凶行に唖然とする同僚たちの中で唯一声をあげることが出来た。


だが、その非難する声を気にする事無く、柿沼は引き金を引き続ける。


パン「あぐぅ」、パン「っがぁ」、パン…


その破裂音が一回響くと部屋に散る紅い飛沫は数を増やし、そのたびに呻くような声もあがる。


柿沼の引き金を引く指は将官用護身用拳銃の装弾数を全て使い切りから撃ちするまで止まらない。


「ふん……連中にこの映像を送りつけておけ。どうなるかの見本だ。」

「はっ」

そう冷たく言い放って柿沼はその部屋…尋問用の部屋を後にする。

撮影をしていた副官も付き従い、残るは相模の部隊の者だけとなる。


「…くそっ!」


相模は思わず悪態をつく。


村井一尉が更迭された後に昇進して支隊長となった柿沼の命令で『連合』なる組織の長であるという少女の拉致をさせられ、尋問をさせられ…


そのオチが時間がかかっていることに憤った支隊長自らが射殺である。


悪態の一つでも付きたくなる。


そもそもで相模らには『連合』がどんな組織なのか教えられていない。


故に何も判断が出来ないのだ。



「隊長、どうしますか?」


小隊の兵に言われて相模は撃ち殺された少女に目をやる。


態々苦しむように、腕から順番に四肢を潰した後に腹部、右胸部、左胸部…最後に額という撃たれ方をした、白い制服を血で赤く染める少女。


その顔は予想とは裏腹に苦悶の表情と言うよりは驚愕の表情を浮かべている。


「遺体袋を。このままじゃ、可哀想だろ」


「はっ」


二人ほど用具庫へと向かわせる。


「…これは、相手を激怒させるだけなんだろうな」


『あの支隊長、詰んだな』と相模は思いつつ遺体袋の到着を待つ間『有事』の際の自分の部隊の行動を予測しておくことにした。



 * * *


これが『死ぬほど痛い』って状態か。

ああもう、あの部隊長一辺三途の川をわたらせてあげようかしら


そう『撃たれた傷のあった場所』をさすりつつ、私は『御剣唯奈(わたし)』が遺体袋に詰められて運び出されていく様子を眺めていた。



普通なら頭を撃たれた時点で即死なのだけれども本体が『魔力の塊』であり『魂』である私は肉体が無くとも『精霊みたいな存在』として生きていられる。


ただ、一般人から目視が不可能なだけだ。



ったくもう、また人外レベルがあがっちゃったじゃないのさ



だからと言って今すぐ報復行為を始める必要もない。


どうせウチの姉あたりが周囲を扇動して特務隊の殲滅…むしろ駐屯地の更地化をしてくれるだろう。


どちらにしろ必要になる結界類やらを起動寸前の魔方陣という形で隠蔽展開しておきながら、私は『肉体(ぬけがら)』の詰められた遺体袋を追う事にした。



本部らしき建物を出ると隣にあるのは寮らしき建物。


その横にあるのは…装備庫か何かっぽいけっこう厳重な警戒がされてる倉庫。


『へー』とか『ほー』とか言ってるうちに肉体は寮の方に運び込まれてゆく。


生まれて初めての『壁抜け』は何の事は無く『自分は違う次元の生き物なんだ』という中々に凹みたくなる事実だけが心に圧し掛かった。




ともあれ、そんなこんなで入りこんだ寮の一階はラウンジになっていた。


「結局、村井一尉の危惧していた通りになってしまいましたね、相模隊長」


「ああ、そうだな…」


その一団は適当な席に集まると頭を抱え込まんばかりに悩み始めていた。


「おそらく、相手方からすればこの上ない挑発…いや、報復理由だ。ここが更地にされても文句は言えん」


中々にいい予想をしてる、尋問役のリーダーは相模と言うらしい。


「あの、相手は学生なんですよね。そこまでの戦力というか…自衛隊を相手にそんな事は流石に…」

取り巻きの一人が手をあげて疑問というか思ったことを口にする…が


「いや、これは村井隊長から聞いた話なんだが、このあたりには古くから『化け物と戦うための組織』があるそうだ。」


「はぁ…そんな、眉唾物じゃないですか」


「それがな、村井隊長が学生時代に所属していたそうだ。その化け物を叩く為の組織にな。」


「はぁ!?」


周囲の隊員たちが驚愕と困惑の声をあげる。



けど、私的には少し納得した。


執行部出身者が居るなら、外の魔術師が『ロクに管理もされていない』と誤認するほどのレベルで隠蔽をしてきた私たちを補足してきたのも判る。


「その化け物ってのが小隊規模の銃撃で足止めがやっとだったそうだ。後々に多少の傷は負わせられるようになったらしいが…」


その言葉に周囲が唖然としていた。


「なら、どうやってその化け物を?」


「倒せるんだよ。…オカルトの世界の連中がな」


そう言いながら、ちらりと遺体袋が運ばれていった方へ視線を送る。



「まさか…」


それで大体の予想は着いた様子だった。



「まったく、貧乏くじを引いたもんだ」



…この人たちは放置で平気っぽいな。


そう判断した私は他の場所を回ることにした。


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