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Magius!  作者: 高郷 葱惟
44/67

#11‐2

「へー。そっか」


「はい。それなんで、文化祭が終わったら先輩たちの学年に合流するそうです」


週明けの文化祭まで残り一週間と僅かとなったその日、楓は生徒会室でのんびりと梨紗と話していた。


「あれ、クラスの準備の方はいいの?確か遥ちゃんと唯奈ちゃんは準備で今日は遅くなるって…」


「あ、私の担当部署はもう終わったんです。」


と、いうのも最初は生徒会で多忙を極めていて後半戦序盤は『色々』あって疲れていたりしたのでお休み中。

そんなふうにクラスの準備の方に不参加が続いていた唯奈がただいま教室で絶賛拘束中なのだ。


そして、寝ていたりするとただのちびッ娘でしかない唯奈でも真面目に働けば超絶(ハイ)スペックなリーダー気質。

あっという間にクラスを主導し、ただでさえ『本格的』と銘打つほどの力の入れようだったのを『的』の一文字を抜かせるレベルにまで押し上げた。


その結果、自分の部署が終わってしまえば楓の様に余暇が与えられる。

ちなみに蛇足だが遥は自分の所属する担当部署が現在進行中で扱使われているところ。

唯奈自身も抜けることができない状態だ。


「へぇ…」


「それで、和葉おばさまが一緒に連れてくるって」


「それは楽しみね。何組になるのやら」


本気で『楽しみ』にしている梨紗だが、楓にはなんとなくで何処のクラスに入るのか予想はついていた。


選択肢は凛の居る二年一組か、梨紗の居る二年三組か、紗枝の居る二年四組。

そのうちでおそらく、二年三組だろう。と


理由は―縦割りチーム分け行事を行った時、唯奈の居る一年三組と同じグループを組むことになるから。

そんな我儘は普通通らないが、行っているのが生徒会長で、対象の生徒は(記録上)今まで静養していたのだから。

きっと、通ってしまうだろう。


「もし、同じクラスになったらしっかり守ってあげてくださいよ。ゴシップ(エサ)に飢えた女子(けだもの)から」


「一緒になったらね」


あはは、と笑ってからふと気付く。


「そういえば、ツバキは?」


最近はオペレータ役として認識されつつあるツバキの姿が無い。

ついでに言うと、マナも居ないのだがそれはいつもの事なので誰も気にしない。


「ツバキはリハビリのお手伝い中だそうです。代わりに、この子が居ますから」


そう言って楓は一般役員だった頃の唯奈の席(今は空席)に置いてあった毛玉を手に取る。


点目に太いまゆ毛というなんともコミカルな見た目なソレだが


「何それ」


「ツバキが作った使い魔の一体だそうです。他の使い魔からもらった情報を表示する役目の」


『へぇ』と言いながら楓から毛玉を受け取る。

観たまんまの柔らかい手触りに少し感動。


「この子のおかげでツバキもずっとここにいなくても済むようになったんですよ」


「うーん…ツバキのお茶、美味しいから素直に喜べない…」


世話焼きな性分のツバキは生徒会室に居る時は大抵茶汲み坊主だった。


「誠譲りなんですよ。きっと」


そういえば、世話焼きだったなぁ…と懐かしく想う楓は会長デスクの背後にある窓から空を見上げた。


青い空に、数えられる程度の白い雲。

そこに一筋の飛行機雲が線を描いている。


晴れ渡る空。


だが、楓はその静けさが嵐の前のそれにしか思えなかった。


 * * *


「狙撃班が柿沼の指示で動いている、だと!」


駐屯地の執務室で村井一尉は部下である相模一曹からの報告を受けて声を荒たげた。


「はい。なんでも特別顧問の助言を受けての特命だそうで…」


村井は顔をしかめた。


また、『特別顧問』か。


以前にも柿沼三尉は妨害を受けているからその原因である組織を叩きつぶすべきと論じてきた。

その際の根拠も『特別顧問』だった。


「…これは、ひと騒ぎ起こるかもしれないな。―――相模、柿沼隊の行方を…」


丁度その時、支隊長室のドアがノックされて出そうとした指示が途切れる。


ガチャリ。

返答も待たずに開けられたドア。


入って来た男は一枚の書類を村井に突き付けた。


「ッ―――」



それは、村井一尉の更迭と柿沼三尉の三佐昇進と部隊長就任の辞令だった。


「成る程。そういうことか」


それで、村井と相模は悟った。

この部隊は『特別顧問』とやらが公権力というオモチャを振り回したいが為に作られたのだと…


そして、その為には村井が部隊長では都合が悪いらしい。


「相模、後は頼む」


引き継ぎの資料をまとめに執務室から一度出る時、村井は相模に耳打ちしていった。

幸い、人事部の男には聞こえていない様子だった。



 * * *


柿沼は興奮で我を忘れそうだった。


自分の手で『特別顧問』からの特命を果たす事ができるのだ。


興奮しない方がおかしいだろう―と柿沼本人は想っている。



『結界』と呼ばれる謎の技術だがそれを突破する手段も『特別顧問』から与えられている。


柿沼本人としてはそんな訳の分からないモノを認める気は無いがそれが自分の出世に使えるのなら使ってやろうという心意気だ。




「隊長、『空間湾曲』を確認しました」


「よし、その中に全ての元凶がいる。各員、我々の責務を果たすぞ。結界破砕杭、用意!」


「結界破砕杭、用ォ意」



「―放て!」


ずがん!


轟音を立てて何も無い筈の場所を杭が打つ。


「第二射、放て!」


ずがん!


傍から見れば奇妙な集団だろう。


だが、彼らは至って真面目にパイルバンカーを連射し続ける。



六機の結界破砕杭発射装置(パイルバンカー)が装填されている六発分の炸薬を使いきった時、展開されていた『不可視の壁』が破砕された。


その中に居たのはいずれも非武装な数人の少年少女。


「全員、動くな!」

逃走を試みようとしている様子だったが柿沼の一喝(というよりは全員に向けさせた銃)にその場で立ち止まる。


その中でもひときわ小柄な少女が『特別顧問』の言っていた『標的』だ。


「狙撃班、用意」


インカムで命令を伝えるとすぐに射撃準備完了の報告が帰って来る。


「貴様を公務執行妨害並びに国家反逆罪で連行する。」


柿沼は勝利を確信してにやりと笑いを浮かべた。


「ちょっと、どういう事!」


と傍らの少女が文句を言ってくるが部下に銃を向けさせ強引に黙らせた。


「来い」


『標的』の腕を掴んで引っ張ろうとした瞬間、少女が柿沼の腕を振り解く。


抵抗した。なら、次の手を使うまでだ。


「狙撃班、撃て」


柿沼の手を逃れた少女が、急に何かに殴られたかのように吹き飛ぶ。

「ッ!?」


少年少女たちの表情が一気に強張った。


それも当然だろう。


吹き飛んだ少女の制服の袖は穿たれた孔からこぼれ出す液体で紅く染まりつつあるのだから。

孔は左二の腕に空いていた


「抵抗するからこうなるのだ。―――連れて行け」


部下に命令を下す。

が、部下が誰も動かない。


「どうした!命令を―――」


何をしているんだと部下の方を振り返ったら、S&WM37…警察用の拳銃の銃口と目が合った。

その背後には抵抗どころか警察官と一緒になって柿沼に小銃を向けている者までいる。


「銃刀法違反、並びに殺人未遂の現行犯で逮捕します。」


先頭に立って柿沼に銃を突き付ける女性警官が宣告する。

「く…狙撃班、撃てるか?」


インカムで問うが返答は無い。

「狙撃兵はこれで全部か」

「ああ。そうみたいだな。しかし…ここまで接近戦に弱いとはな」

それどころか制圧された様子が聞こえてくる。


いくら全能感に浸っていても狙撃班は既に制圧され三十以上の銃口を前にまだ浸っていられるほど柿沼の神経は太くは無かった。


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