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Magius!  作者: 高郷 葱惟
41/67

#10‐3


「う、うー」

「あ゛ー」

「ふしゅー」

「ち、知恵熱が…」


「うわぁ…死屍累々」

それが翌週の土曜日の我が家の光景だった。


一番面倒な許可許諾の類を一通り終えてしまえばあとは生徒会は途中途中で出てきた追加の許可を出すだけになるので大分楽になる。

それ故に、突入部隊となる一年生を藤谷家(わがや)で魔術師としての勉強会を顔合わせがてらに開いた。


参加者(いけにえ)は遥と第六高校の白澄さん、第四高校の結城愛衣さん、第三高校の七瀬純くん。


それぞれの学校の会長が選んだ面々なんだけど…見事に全員が頭から煙を吹いてそうなくらいな状態になっていた。


魔術師じゃないから参加者ではなくお手伝いをお願いしてある楓の感想はそんな光景故である。


「…と、まあ術式を全部覚えようとするとこうなるから」


私がそれぞれの前に何処にでも売ってる豆ノートを置いてゆく。



「…ナニコレ」


「ん?カンニング用。覚えるの大変でしょ?」


それはもう、午前中をかけて結界と攻撃――あの符で発動させられる術を暗記させようとした時に判り切ってるので誰もがうんうんと頷いた。


「だから、これでゆっくり時間をかけて―――使って覚えてね」


最後の『使って覚えて』の部分で一斉に死んだ魚みたいな目になる皆。


「あのねぇ…せめて防御くらいはカンペなしでやれないとキツイよ?攻撃と防御を同時にやる必要がある場合もあるんだから。―――こんな感じに」


咄嗟に右側に防壁を展開。


すると丁度そこに楓の焔弾が命中。同時に反撃用の魔力弾をいくつか生成、炎が消えると同時に打ち出して当たる直前に魔力に戻す。


「おおー」


上がる歓声


「まあ、身体で覚えた方が早いかな。昼休みを挟んだら聖奏の屋上で実戦訓練と行きましょうか」


丁度その時だった。



「―――空間湾曲を確認。位相変位結界で包囲―――できました!」

ツバキが突然何かに反応をした。


…どうやら、幻魔がツバキの構成した監視網に引っ掛かったらしい。

結界まで張れているのは『ツバキの手下』となるスズメやらカラスやらの姿をした使い魔が現場に急行しているから。結界は張れるけど、それ以外は監視くらいしかできないし人の姿も取らない、監視と隔離が仕事。


「場所は?」


「聖奏学園から南に一キロほど」


「わかった。ツバキはここで待機。みんな、いい練習台が湧いて来たよ。」


『手加減無用ね』


にっこりと笑いながら言って、ツバキの僕が作り出した結界へと直通路を開いた。



そして、その直通路は(相手にとっての)地獄への直通路でもあったみたいで………








遥の豪雨のような魔力弾が降り注ぎ白澄さんの極大の雷撃が飛び、…逃げようとする敵は七瀬くんの拘束(バインド)で身動きが取れず…オマケに結城さんの局所結界によって囲まれてるから逃げ場のない雷撃や魔力弾が敵を繰り返し蹂躙する。


そんな状況がモノの五分で出来上がっていた。


「あるぇ?」


午前中のダメさ具合がすっかりと影を潜めている。


「何?この凶悪なコンボは」


具体的に言えば

1.遥の豪雨魔力弾で足止め

2.七瀬くんのバインドで固定

3.結城さんの結界で正面と上以外を壁にする

4.白澄さんの雷撃が直撃



見た目が某RPGのラスボスチックな魔王っぽい感じなのにカンペ片手の四人組に凶悪なコンボ決められてほぼ一撃というのがなんとも哀愁を誘う。


「うーん、何というか…書き方間違えたかなぁ…」


国語方式、つまり右側を綴じてある状態を表紙にするノートの作り方したから、数学とかの左綴じ方式でめくると『一番後ろ』からみることになるんだよね。


「まあ、いい実戦訓練か」


それに、ある意味では最終目的の第一段階終了って事になるし。


見ている先では倒せたと喜ぶ四人。


「まあ、ツメは甘いかな」


喜んでる四人の先でぐったりと地に伏せていた魔王っぽいのがなにやら一矢報いようとしている。


どうやら、止めには足りなかった様子。

「ま、それは今後の課題かな」


そう楓と頷きあいながら止めを刺す。


音もなく魔力弾の連打を食らった魔王モドキはそのまま塵となって消え…


「マスター、結界が外側から…」


「結界破り?」

ツバキが少々慌てながら言ってきた。


数ある結界系でも単純な認識阻害や人払いに比べて位相変位は難易度が高い分効果も破るのに必要な労力も大きい。


まあ、ある程度の魔力があれば力技で結界破りは出来るんだけど…


「なら、もう一枚壁を張っといて、破られるまでの間に遁走と行きますか。おーい、みんな逃げるよー」


一個、監視用のサーチャーを置いて空間接続で逃げる。


破壊された結界に飛び込んできたのは迷彩服姿の市街地としては一番不自然かつ不審な集団だった。


先頭の一人の手には―――


 * * *


杭打ち機(パイルバンカー)?」


「どうやらコレが結界破りの為の道具みたいだね」


「それにしてもなんて趣味な…」


「浪漫装備だな」


自衛隊部隊の結界破りから撤収までの一部始終を記録した探査機(サーチャー)の映像を緊急招集した会長たちに見せたところの感想はそんな感じだった。


藤堂会長と藤澤会長はやや肯定的な目をしてるけど、吉川会長と有沢会長は『訳分からん』と言いたげ。


「とにかく、要注意ということで幻魔との戦闘の際は数枚の障壁を張っておくようにしてください。執行部の場合は複数枚の結界符を。消費の増加分は増産して追加供給します。結界破りの性能は化学部に再現を依頼してあるのでそれが完成し次第データを取って結果を知らせます。」



「…ところで、預けた白澄がなんか魔改造されてるんだけど…何やったの?」


「そっちも?ウチの結城もよ」


「ウチの七瀬もだ。」



「えっと…暗記必須の術式をいくつか叩きこんであとはカンペ見ながらで行けるようにしただけなんですけど…」


魔改造というより本人の才能が開花したと言うべきなのでは?


「暗記必須って…どんな術式?」


モノは試しと言わんばかりに有沢会長が聞いてきた


「えっと、瞬間的な防壁の展開とあとは単発の魔力弾ですかね。不意打ち用と不意打ち対策用の」


当然、それだけじゃ勝てないのでそれぞれの得意分野で色々仕込む予定だけど。


「………今度からあなたのことバグキャラメイカーって呼ばせてもらうわ」


「?」


それから何故か『新米の育成法』に話題がシフトしたのだけど、


「…白澄………普段は優しくしてあげないと」ホロリ

「だから、『先輩てすごく優しいです』なんて言い出したのか」ホロリ

「…悪いことをしてしまったなぁ…」ホロリ


私がした指導法に対して出たのが受講者に対する同情って…


そんなに厳しいことしたかなぁ…

(注:できないと直撃をもらうという状況で練習させるのはかなり厳しい実戦()型指導です)


「まあ、一人一人が一人軍団(ワンマンアーミー)なら行動の幅も広がるからいいのでは?」


ただ一人、藤澤会長だけはやや肯定的な事を言うけれども一斉に吉川会長、有沢会長、藤堂会長の攻撃にさらされ沈黙を余儀なくされた。



「ともかく!計画は順調に進行中です。実施直前にまた声をかけますからそれまでは各校で現状通りの対応をお願いします」


報告事項も終わったのでこの場では一度解散にする。



「ところで、なんで態々集合をかけるんだ?今まで通りオンラインでもいいんじゃないか?」



「相手は自衛隊ですから、そこらへんは慎重に。この中の誰かが漏らさない限り秘密が守れる手段の方がいいんです。」


「なるほど」


文化祭と、作戦決行を控えたある夕方の事だった。


 * * *


[陸上自衛隊 特殊災害対応隊睦斗支隊駐屯地 支隊長執務室]


「くそっ!」


「そういきり立つな、柿沼二尉」


「しかし村井支隊長…!」


そこでは二人の男が半ば睨みあうような状態でいた。


片や憤怒の表情を、片や呆れているような表情を浮かべている。


それもそのはずだろう。


柿沼と呼ばれた男は先日、『顧問からの提言』により出撃した部隊を率いて『結界』と呼ばれていた空間閉鎖を用意された対結界兵装で破壊して侵入する、という初出動を指揮していた。


だが、その結果は無駄に結界だけ破壊したにとどまり戦果は全く出なかった。


その後もその繰り返しであり、その結界が何故発生しているのかすら不明な状態なのだ。


「これは異常事態です!すぐに増員の要請を!」


「…我々は設立されて間もないんだ。部隊の練度も低い。今のうちに…『設立したばかりだから』という免罪符が使えるうちに失敗をして経験を積んだ方がいい」

柿沼の怒声に村井は溜め息混じりに諭すように言う。


「何を悠長な!」


だが、それは柿沼の憤怒に燃料を注ぐだけに終わる。


「やはり、何者かが妨害を…」


「柿沼二尉」


おそらく、成果が出ていないことを焦っているのであろうと思う村井は柿沼に言う


『憶測で物事を決めつけるな』と。


「そうだ!『協会』から提供された資料に『連合』なる組織がこのあたりを根拠地としているという情報がありました。おそらくその連中が…」


妨害しているのは、一体どちらなのかねぇ


そんな感想を抱きながらも柿沼の演説を聞き流す村井。


「早急に『連合』の制圧を!でないと我々は本来の任務を果たせません!」


「…仮に、妨害されているとしてだ。我々に一度も尻尾を掴ませない相手にどうするつもりだ?」


村井は『if』の話を持ちだす。

もしそうだとしても相手の方が数枚以上上手なのだから。


だが、村井は知らない。


「策はあります。確実で失敗の無い策です」


柿沼には、『協会』から村井に知らされていない情報が与えられている事を。


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