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Magius!  作者: 高郷 葱惟
40/67

#10‐2

翌日、土曜日。


本来は休みなこの日もきっと唯奈は学校にいるだろうと楓も遥と待ち合わせて学校に来ていた。


時間としてはもう昼近いけれどもまあ、休みの日にまで学校にきて事務仕事をするのだからこれくらい赦されて当然だろう。

簡単なお昼になりそうなモノも用意して来た二人だったが、生徒会室に一歩足を踏み入れて



「あれ、居ない?」


おそらく、居るであろうと思った生徒会長執務机が無人な事に拍子抜けした。


「遥、鞄はあるよ」


楓が持ち上げたソレは確かに唯奈がいつも使っている通学カバンだった。


「…あれ?」


鞄を開けてみれば昨日の授業で使った教科書が入りっぱなしになっていた。


「どうしたの?」


「もしかして…」


楓は遥を放置で生徒会室からとなりの応接室に移動。

無視された形になった遥はちょっと憮然としながらも付いてゆく。




「…あ」

「あえ?」


二人は一瞬見惚れ、次の一瞬で疑問を抱いた。



そこにはソファーと机の間で毛布にくるまって寝ている唯奈が居た。

何故にソファーの上ではなく床で寝てるのかは知らないが、とにかくそこで寝ていた。


どうやら昨日は泊まり込みだったようだ。


それはそれで問題だけど置いておく。


今、問題にすべきは…


「あの犬、何?」


唯奈がぎゅっと抱きしめるようにしている、一匹のゴールデンレトリバー。


その傍らにいる黒ネコはまあ、マナだからいいとする。


だが、犬の方は全く持って正体不明。


事情を知ってそうな唯奈も今は夢の中だ。

起こせばいいのだが、幸せそうな寝顔を眺めていたら『起こす』という行為になんとも罪悪感を感じてしまう。



「どうする?」


「どうしようか」


とりあえず、どうするべきかを悩みながら寝顔を眺めること五分。


「んん………」


もぞり、と大きく動いたと思ったら唯奈がうっすらと目を開けかけていた。


「あれぇ?かえでぇ、はるかぁ?」


まだ寝ぼけているのか間延びした感じのする口調だ。

そんなところは見た目の年齢相応に見えてしまうので二人は頬が緩むのを自覚する。


「あ、れぇ?もうじゅういちじぃ!?」


がばっ、と起き上がってごしごし、と目をこする。


「あのさ、寝起きの所悪いんだけど…」


「何、遥」


すっかり目が覚めた様子にちょっと落胆しつつも遥は問う。


「其の犬、何?」


その答えは二人からすれば予想の斜め上だった。


「新しい使い魔だよ。――ツバキ、起きて。マナも。もう昼だよ」


抱き枕にしていた大型犬をゆすって起こそうとする唯奈。


その一連のやり取りでその問題の犬が『ツバキ』と言う名前の新しい使い魔だと二人は理解できた。


 * * *


「―――つまり、文化祭の準備と昨日のあの火遊び対策を並行してやるための人手」


『私の使い魔だから、私の使える魔術の幾割かは使えるんだよ』と付け足して締めたら二人はうんうん唸りながらも頷いてくれていた。


「で、泊まり込んだと…」


なんだろう、二人がちょっと怖い。


「そ、そうだけど………」


一応、宿直の先生にお願いしてシャワールームは使わせてもらったけど…


「まったくもう。どうして私生活よりも仕事を大事にするかなぁ!」


「その辺の対策はOB会にも連絡してお願いする予定なんでしょ」


何故か仕事熱心を責められた。


「で、でも、こっちからお願いする以上は出来る限りの準備しといた方が…」


「高校生にそこまで求めないって普通。」


「でも…」


言い返そうとしたら、何故か三人に肩を掴まれた。


どの三人かというと、楓、遥、ツバキの三人。

ツバキもマナと同様にカモフラージュ用の動物の姿と人間の姿の両方が使える。

動物の時はゴールデンレトリバー、人の時は結構長身な女の人(お姉ちゃん系)。



「「「自分をもっと大事にしなさい」」」


使い魔にまで叱られた。


「…はい」


完全な包囲網から脱出も難しく私は大人しく返事をするしかなかった。


ツバキには私の無意識とか自意識とかの一部がコピーされて人格が作られてるけど…あんな強引な部分あったのかなぁ…

(注:誠の頃から思いっきり有りました。年上体質的なモノとして。)


「ちょっと早いけどお昼ご飯食べましょ。――どうせ昨日の夕飯も抜いてるんだろうから」


「う」

見透かされた!?


「まったく…」


呆れた風の三人。


ともかくその後、二人が持ってきてくれたお昼を食べた後、ツバキはマナを連れて探知網の構築に。私たちは生徒会室で山積みの書類処理にかかった。



終わったのが夜だったのは言うまでもない。


 * * *


『―――以上、市庁舎前からお伝えしました』


私はそれを聞き終えたところでテレビを切る。


「…と、まあ大掛かりな火遊びが始まった訳ですが…」

と、感想を求めたところ


「酷いわね」

「酷いな」

「税金の無駄遣いだ」

「我々の猿真似―いや、それ以下だな。」


以上の悪辣というか辛辣な酷評が帰って来た。


設立決定の報道に合わせた会長会議という場での新設部隊の評価はそんなものだった。


「そもそもで何これ。『特殊災害対応隊』って。胡散臭いにも程があるでしょう」


みんな同じような感想を抱いているらしく、うんうん、と頷く。


「この件に関して執行部は装備の強奪、接収に気をつけてください。戦闘は必ず位相変位結界を張ってからでお願いします。」


お願いしますよ、と念を押してこの件は終了。


次は…


「あとは、協会の移転先ですけど、どうやら地下施設が大半みたいです。…協会に不満も持っている各地の対魔組織は四割が協力、三割が静観を申し出てくれています。―――外堀埋めは七割半完了したと言えますね」


協会への、仕返しの件。


「外堀埋めは順調だとして…侵入手段と脱出路はどうするつもり?」


『まさか、行きっぱなしで占拠するつもり』と言外に尋ねてくる吉川会長。


「それに関しては…」


そう言って、私は指で軽く『空間を引っ掻いた』


その様子を不審げに見つめる会長たち。


その視線を浴びつつ私は引っ掻いた場所に手を『突っ込んだ』


そして、その手は十センチほど先の空間から生えてきている。


「―――空間接続(これ)で解決です」


その光景に会長たちは皆して唖然としてくれた。


一番最初に我に返ったのは有沢会長だった。


その有沢会長のコメントは


「人間、辞めたの?」


私がさっき実演して見せた空間接続は、一種の『再現不可能な神秘』。

つまり、魔法――人外の技。


「説明しませんでしたっけ?私は、『元から人間じゃない』って」


生みの親とも言える誠はまだ人間だったけど、私はその魔力から形作られた存在。

故に、人間に無茶な事も出来てしまう。


『世界の記憶(アカシックレコード)』というとんでもないモノの閲覧が一部なりと出来てしまった誠の純粋な力から出来た私なら。


「突入と脱出の手段は確保済み。場所も構造も把握した。―――あとは、外堀埋めとこちらの準備が終わり次第…」


「殴り込み、か」


私の言葉尻は藤堂会長に引き取られた。


「はい。予定している戦力としては私と聖奏から二人、あとは各校一人の六人くらいのつもりです。できればその倍用意したかったんですけども火遊び対策もあるので。」


「そんな少数でいいの?」

有沢会長が思わずと言った風で聞いてきた。


答えは

「少数でいいように仕込むんです。襲撃の時期としては向こうの警戒が緩み始めた頃を狙います。それまで、土日は私の家に拘束になるかもしれませんけど」


「なら、有望株を差し出しとくのが上策かね。第六高(うちら)は一年の白澄が立候補してるから決まりだけど」



「…そうですね、次の週末に一度招集をかけたいのでそれまでに決めてください。土曜日の十二時にここ聖奏学園で一回目の顔合わせをしたいと思います」


「了解」



「それでは今日の所は解散です。また、対自衛隊の監視網が完成したらそれ関係の連絡をします」


『お疲れ様でした』と会議を絞め転移の実体験をしてもらうために各校の生徒会室に空間を繋ぐ。


実際に学校まで戻る距離が零というのを体験してもらえば不安は無い筈。


効果のほどは十分だったらしく空間の接続を切る時に向こう側から『殴り込みに行く役を決めるぞ』という旨の声がしていた。



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