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Magius!  作者: 高郷 葱惟
4/67

#1‐4

「藤谷、資料室から去年の会計資料持ってきてくれ。」

「了解」


それから数日、俺はごく普通に生徒会の仕事をしていた。


何の事はない。

役職も振られていない俺は先輩の雑用として資料室へ行ったり来たり、図書室へ行ったり来たり、事務室に行ったり来たり…あとはお茶汲みといった仕事を割り振られている。


あとはそのうちに渉外の仕事を任される予定。


そんな感じだ。


俺は足早に生徒会資料保管室に取りに行き氷室先輩に届け、そろそろ会長が来る頃だろうからとポットの湯を補充すべく給湯室でお湯を沸かしに行く。


書類仕事とかはまだ回ってこないからそういった事くらいしか本当にやることが無い。



こぽこぽこぽ…


「とーや、役員に招集掛けて。三十分後に会議開くわよ」


丁度沸いた湯をポットに移している時に会長が現れて招集をかけるように言ってきた。


「了解。今すぐ」


ぱたん、とポットのふたを閉じ薬缶は給湯室に戻す。


で、そうしたら生徒会室に備えられているパソコンから生徒会役員宛の一斉送信で招集が掛った旨をメールで連絡する。


今居ないのは…楓と夏元先輩と霧島先輩に矢吹先輩か。


手早く連絡メールを送って俺は会議に必要になるものを会長から聞いて準備を始める事にした。



 * * *

会議が始まったのはきっかり三十分後だった。

ちゃんと全員が揃って会議が始まる。


「さて、と。新入役員の二人は大分『表』には慣れたみたいね」


「はい」

「なんとか」


俺は返事する傍らでおそらく『裏』に関することだろうと少し覚悟を決める。


「先週、藤谷君に痛手を負わされた個体の潜伏場所が判明したわ。強襲してヤツを潰すわよ。」


初めての『裏』の仕事。


「前線メンバーは藤谷君、梨紗。後衛に高槻さん。サポートとして凛、移動手段として啓作。いざという時の備えにひかりと私。…念の為のフルメンバーよ。」


ごくり、と息をのむ。

なんせ、一度俺はその相手に殺された筈なのだから。


…それでも、今回は俺にも魔術がある。

無抵抗に殺された前回とは訳が違う。


「行動開始は十七時。それまでに各自準備をしておいて」


「「「「了解」」」」


行動開始時間まで残り時間は三十分余り…俺は特に準備と言っても何が必要なのか判らないのでとりあえず座禅を組んで気持ちを落ち着かせることにした。


 * * *

三十分後、氷室先輩の契約精霊(あいぼう)である四脚獣(キツネ)型精霊のコンの背中に乗った俺達は再開発が決まった古い団地の屋上に降り立っていた。

地上八階…七階建ての建物の屋上で、突入の瞬間を待つ。


「凛」


「了解。 『(オン)』」


屋上の丁度中央に立った矢吹先輩が呟くとちょうど団地一棟を覆うように壁…封印結界が展開される。


「それでは…突入」


会長の『突入』の声に合わせて俺と霧島先輩が階段を駆け下り、その後ろを楓がついてくる。


最上階のフロアに足を踏み入れた瞬間、目前には黒い大型犬の姿


「いっけぇぇ!」


俺と霧島先輩の隙間を通って焔弾が飛び目前に現れた哀れな獣を灼き払う


「こンのぉッ!」


俺も掌に魔力を収束させ、『壁から刀を創った』霧島先輩と一緒に先手を取られて混乱する獣の群れを蹂躙する。


逃げる間も与えず、逃げる場所もない。

そんな状況で僅か一分足らずで目前に居た十数匹の大型犬モドキは黒い泥状のなにかに姿を変えた。

…といっても、俺の場合は純粋な魔力をぶつけて対消滅させてるから跡形も残らないが。


「行くわよ」


霧島先輩が全滅の確認と同時に走り出し俺達も後に続く。



「二人とも、中々頑張るじゃない」


「俺の場合は二度目ですから」

「あ、あはは。一応力の制御は覚えてから学校に入りましたから」


霧島先輩のほめ言葉に苦笑で返す俺たち。


そのまま階段を駆け降り、角を曲がろうとした瞬間


「キャゥン!?」


突如の犬の悲鳴。


「はー、危機一髪ってヤツ?」


霧島先輩の傍らで実体化したマナが俺の魔力を使って壁を展開していた。


どうやらそれで曲がろうとした瞬間を狙ってきた個体を返り討ちにしたらしい。


「むっ、この子デキるわね」


「えへへ」


ニヤリ、と笑う霧島先輩と能天気ににぱー、と笑うマナ


「何やってんですか、先輩。マナはもうチョイ緊張感とTPOを気にしてくれ」


俺と楓は先輩とマナを追い越しつつフロアの黒犬を掃討しつつ居場所を探す。


具体的には一室一室、ドアを開けて確かめてゆく。


そしてそのフロアの一番端の部屋の前に来た時、血の匂いが部屋の中からにじみ出てきていた。


「ここね。中はかなり酷い事になってると思うけど、覚悟はいい?」


黙って俺達は頷く。


これだけの『血の匂い』を前にしたら広がっているであろう惨状は見るまでもなく目に浮かぶ。


「さん、に、いち…突入!」


霧島先輩の声に合わせて俺が先頭でドアを開け、その直後に楓が焔弾を、俺も球形に整形した魔力を撃ち込む。


『キャゥッ!?』

『ギャッ』


悲鳴、断末魔、呪詛…そう言ったモノが部屋からあふれてくる。


それでも肉の焦げる匂いはしてこないのだからなんとも不思議な気持ちになる。



「これで、終わった?」


楓がちょっとオドオドしながら爆炎がまだ残る方へと足を踏み入れようとして…


「ッ!楓、まだだ!」


慌てて振り返る楓に向かって伸びる黒い腕が突如生えてきた銀色の壁にめり込んで楓に届かずに止まる。


「!」


慌てて手の伸びてきた方向に焔弾を撃ち込む楓。


けれども黒い腕だけが千切れてその場に残り本体は窓から外に逃げて上に上がってゆく。


「上に逃げた!追いましょう」


屋上には会長や氷室先輩ほかの支援組が居る。

急いで戻らないと…


けれども


「あー、まあ大丈夫だと思うよ。むしろコレで解決?」


そんなふうに言う霧島先輩。


「とりあえず、被害の確認。一応ね」


そう言われて俺と楓は部屋の周囲に転がっていた何かの欠片を調べる作業に入る事になった。


作業開始からほどなく、上の方から聞き覚えの無い声による断末魔らしき叫びが聞こえてきた。


 * * *


五分後…

大体の後始末が終わった俺達が屋上待機組と合流したとき、突入した時と『殆ど』変っていなかった。


唯一代わっているのは丁度屋上のド真ん中に黒い影みたいのが釘付けにされていることだろうか。


そう、さっき取り逃がしたハズの相手がそこに縫い付けられていたのだ。


「お疲れ様。まあ、初出撃としては上々よ」


そう言いながら何か紋を描く会長。


「ギャッ!」


その瞬間、縫い付けられていた影が発火。

みるみるうちに焼き払われて消えた。


「これで大物は出現を阻止できたから…ッ!」


会長のセリフに違和感を覚えつつも突然変わった『雰囲気』に反応してその場にいる全員が身構える。


「啓作!」


「了解!ひかり先輩、矢吹。」


「ええ」

「判ってる」


氷室先輩と夏元先輩、それに矢吹先輩の三人が素早くコンの背中に乗って距離を取る


三人の離脱と同時


「来るよ!」


マナの声と同時に屋上の地面が砕けて下の階からぶち抜きで『鬼』が出てきた。


どちらかと言えば西洋系の外見をした『ソレ』は


「大きい!?」


「ざっと三メートル…手強いわよ」


佐伯会長は紋を宙に書き、霧島先輩は先ほど活躍した刀でもって吶喊してゆく。


さっきはこれでケリがついたけれど…



今度は佐伯会長の『発火』の紋は意味を為さず、霧島先輩の刀は中程からパキンという小気味のいい音と共に折れてしまった。


おそらく、楓の炎でもダメだと思う…となると


「でかくったって、基本は変わらない筈だっ!」


左手に体中から魔力を集中させる


「とーや!?」

「特攻!?」

驚きの声をあげる霧島先輩と楓


けれども


「決めてみせなさい。期待のルーキー君」

まるで成功を確信したかのような会長の声


そんな声に背中を押されて俺は下半身が床下の鬼の胸板に左手を当て


「吹っ飛べぇッ!」


集めに集めた魔力を全部叩きつける


放出された俺の魔力は刀の切っ先を形作り鬼の胴体を貫き通す。


銀色の燐光を放ちながら、魔力で編まれた刀身が鬼の体を徐々に侵して、『消滅()して』ゆく。





―――そして…刀身という形に押し込まれていた魔力が一挙に閃光となって鬼を呑みこんでゆく…





「…ッ!だぁー」


どすん、とでも音がたちそうなくらい勢いよく俺はその場に座り込む。



鬼を消しとばす為に全力を注いだ結果、軽い魔力不足で貧血に近い症状が出ているだけだが。


「「とーやーッ!」」


猛然と襲――駆け寄って来た楓とマナ。


座り込んだ俺を危うく轢きそうになりつつもなんとか急停止に成功して俺の肩を左右からそれぞれ片方づつ掴んでくる。


「大丈夫!?」

「んー、魔力切れ以外にダメージは…なさそうだね」


心配してくれるのは有り難いけど、今、両肩が物凄く痛い。


そして、視界の端で俺が鬼を消し飛ばすのに余分につぎ込んだ魔力をかき集めて復活を遂げた精霊が飛んでいくのがふと視えた。


………あとなんにん(?)やしなえばいいんだろ



「やるじゃないの。大型の幻魔を初陣で討滅。大金星ね」


「これからは多少楽になりそうですね」


そんな俺達の様子をほほえましいと言わんばかりに暖かい視線で見守る会長他生徒会の面々。



矢吹先輩が結界を解除した時点で大穴があいている筈の屋上がなんの破損もない事を確認した後、俺達は生徒会室に戻って討滅した幻魔についての報告書作りをすることになったんだけど…



「それじゃ、折角だから最後までやってみなさい」


との会長のお言葉により俺がそれまでの資料を片手に一人でやることとなった。



………魔力を放出しまくって、かなーり疲れてるんだけどなー



とりあえず、待っててくれるけど手伝う気は全くない楓とマナに小言を言われながら初めての仕事を終えた俺はその晩家事をする気力を失っていた。


まあ、やらねば夕飯抜きになるだけなので結局やらねばならないのだが…

これにて第一話終了です。

だいたい3000文字~4000文字程度になるように分けたのですが…

『一括の方がいい』というご意見がでれば一括して一話分丸々を投稿するようにしようと思います。

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