#10‐1
お待たせしました。
10話更新です。
あと一ヶ月もすれば文化祭という時期を迎えた私たちは表の仕事で多忙を極めていた。
早い段階から始めなければならない打診や注文は佐伯先輩(会長って呼ぶと『今の会長はあなた』と怒る)がやってくれていたのだけれども、直前にやらなきゃならないこともやっぱり多い。
たとえば、各団体(用は部活動や各クラス)のやる内容の承認とか。
配当教室以外の部屋(つまり自分たちの教室以外の部屋)の使用申請の処理とか。
生徒会が呼ぶことになっている特別ゲストとの折衝だったりとか。
勝手知ったる二年生は最大限利用させてもらってるけど。
会計担当の氷室先輩には遥をつけて一任。
対外折衝には梨紗先輩に楓をつけて同じく。
まあ、必要なら私も同席してるけど、大体は二人の采配任せ。
庶務、総務系は矢吹先輩に晶と篠田の二人つけてほぼ丸投げ。
『いざ裏の仕事』となると生徒会外の協力者だったり、他校だったりが居るから戦力十分に見えるけど単体となると割と人手不足だ。
そして、そんな時に限って…
『生徒の呼び出しです。生徒会長、御剣唯奈さん。至急職員室まで来てください。繰り返します………』
何故か、呼び出しがかかる。
一斉に集まる三人分の視線。
言わずもがな、私じゃなくても処理できる作業を丸々投げられて困ってる矢吹先輩以下の三人の。
其の視線が語る。
『何仕出かした』と。
「…何も。行ってくるから追加分は私の机にお願いします」
「いってらっしゃーい」
何とも嫌な予感というか、面倒事の予感がしてならなくて職員室に向かう足取りも重い。
「どこの誰よ。面倒事を持ちこんでくるのは」
愚痴らずには居られなかった。
職員室前に来ると担任の有坂先生が困惑顔で迎えてくれた。
「えっと、警察の方が生徒会長に用があるって言ってるんだけど…思い当たる節はない?」
『さっき電話があったの』と有坂先生。
「まあ、皆無という訳じゃないですけど…聖奏の会長は生徒会連合の総長も兼ねますから何かあればウチに関係なくても連絡は来ますよ?」
「それが、出来れば早急に来て欲しいって…。」
何かあったんだろうか。
「判りました。準備してすぐ行きます」
報告は追って…と話を折って私は一度生徒会室に戻り外回りの用意。
生徒会室で書類処理に追われる三人には『適当なところで休憩しながら』と追加指示を出してから私は急ぎで睦斗警察に急いだ。
* * *
「突然呼び出したりしてごめんなさいね」
私を警察署に呼びだした張本人――所轄部の赤城警部は私を執務室へと招き入れてそう切り出した。
誠だった頃から含めれば半年ちょいの付き合いのある、警察と生徒会連合との接点となっている女性警察官。
蛇足だけど赤城晶の母。
「いえ、それだけ急用ということですよね」
「ええ。この件はなるべく早めに伝えておいた方がいいと思ってね」
赤城警部が一枚の書類を差し出してくる。
当然『部外秘』の文字。
「昨日、公安から廻って来たの。睦斗市に自衛隊が新しく部隊を置くそうよ」
紙面に書かれている内容によると『自衛隊特殊災害対応隊睦斗支隊』なるモノが睦斗市に置かれることになるらしい。
「なんというか、胡散臭い名前ですね」
この、『特殊』の所が。
「ええ。設立の際に特別顧問として上がってる名前もあまり聞かない名前よ」
指さされた場所に書かれた名前は………
「…これ、裏の人間ですよ」
私は覚えがあった。
「裏ってことは…そっち側?」
「はい。それもちょっと因縁がある相手ですね」
『私』が生み出される元凶の手先の名前を忘れる筈が無い。
復讐リストを作ったら上から数番目には必ず上がるであろう。
「警察にも協力要請が来てるけど、『態々自衛隊を用意するほどの大事には私たちでは対処不可能です』ってハネてもらったわ」
「それでいいと思います。裏は裏でないと処理は難しいですから。」
最近、ようやく裏に関わる表に近い人間の武装強化が出来たばっかりだから警察まで手を回す余力はちょっとない。
だから、関わらないでいてもらえるのが一番有り難い。
「この件は各校にも伝達しておきます。まあ、結界の中にまで侵入するのは難しいと思いますけど……」
「お願いね」
話は終わりなのか私が持ち帰る分の資料以外を仕舞い始める赤城警部。
「えっと、来月末…十月の最終土曜と日曜は聖奏学園の文化祭なんで、よかったら来てください。晶ちゃんも、主催者側で頑張ってますから」
一応、そう伝えてから私は一路学校に戻る。
―――『表の先生にはどう説明するかな?』と考えながら。
* * *
事の顛末を訊いてきた有坂先生には『喧嘩騒ぎがあったらしいんですけど誤報でした』と濁して誤魔化し納得してもらい、急いで生徒会室に戻った私は山と積まれた書類に出迎えられた。
どう考えても、留守にしている間に来た量じゃないのが明白なほどの山に。
そしてこれらの書類処理を割り振って置いた三人の姿が見えない事を鑑みると…
「逃げられたのかぁ」
とりあえず、書類の束をちょっとどかして各校の会長に警察から来た『火遊び』の話をまとめた報告書を送る為の作業を始めた。
で、ほぼ完成した頃…
「今日はお疲れ様」
「はい!残りは明後日ですね。お疲れ様でした」
「正しい数字の書類が来るまではコレを部屋で整理だな」
「はーい………」
それぞれ学校中を駆け回っていた二組が戻って来た。
折衝組の梨紗先輩と楓は順調みたい。
会計組の氷室先輩と遥はちょっと問題アリっぽい。
「ああ、報告する事があるからちょっと…」
「ん?」
集まって来る。
「なんか自衛隊が睦斗市に拠点を置くみたい。詳しくは今報告書つくってるんでそれを。あ、氷室先輩。コレ完成したらデータ渡すんで各校の会長に送信お願いします」
報告書を書く手を休めずに言う。
これが割と大変で手と口を別々に動かす必要がある。
まあ、並列思考は魔術師の必須技能といえば必須だけど…
「一つ質問いいか?」
「どうぞ」
氷室先輩は本気で困惑している様子。
なんとなく、質問内容は予測できるけど…
「何故に自衛隊なんだ?それに俺たちにどんな関わりがある」
想った通り。
「詳しくは報告書読んで欲しいんですけど、設立されるのがどうやら裏絡みのようなんです。特別顧問として名簿に魔術協会日本支部の支部長の名前乗ってました。どうやら、本格的に私たちと対立する気みたいなんですよ」
「…成る程」
頷く皆。
「まあ、隔離の為の結界の中に入れないから事後処理の終わった現場に辿り着くのがやっとだと思うんで基本無視で大丈夫かと」
幻魔出現の時は最初に空間がちょっと歪む。
それは私たちが使う位相変位結界と似たようなものだから一般人は侵入どころか気付く事も出来ない。
それを私たちが人為的に継続させて処理を終えれば本来の位相にはなんの痕跡もなく終了となる。
つまり、私たちに手出しは出来ない。
たとえ現場付近を閉鎖されても結界で覆ってしまえばなんの抵抗もなく突破できるという意味でもある。
「ただ、執行部の装備は盗まれないように気をつけてもらわないと」
あの中には位相変位結界や出現時の歪みに入り込むための刻印がされた物があるから、奪われると大分厄介な事になる。
少なくとも、現場で出くわす事になる。
「はい出来たっと。氷室先輩、各校にこのデータの送信お願いします。」
「りょーかい」
会長デスク備え付けのUSBメモリに完成した報告書のデータをコピーして氷室先輩に渡す。
「楓と遥でコレを印刷してもらえる?ウチの人数分」
もう一個の備え付けUSBメモリにもコピーして今度は楓にパス。
「それが終わったら今日はお終いです。お疲れ様でした」
時間も大分『イイ時間』となりつつあるから、今日はもう終わりにした方がよさそうだ。
―――私以外は。
皆が仕事を終えた生徒会室で一人呟く。
「…この山、どうやって切り崩そうかなぁ」
監視体制も作り上げなきゃいけないし………休日出勤確定かぁ。
ああもう!人手がもっとあれば………
「あ」
其の時ある事に気付いた私は大急ぎで『ある事』の準備を始めた。