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Magius!  作者: 高郷 葱惟
38/67

#9‐3

2011.3.15 ルビミスを修正。

思い出話で判ったことはそれと言ってある訳じゃない。

ただ、『記録』としてしか残っていない脳の中の『出来事』が『記憶』となる――実感が持てる部分が少し出てきたのは収穫だった。



「そういえば、男子部の一年三組…誠のクラスの景山くんだっけ?中学校時代、誠と仲良かった…本人は腐れ縁って言ってたけど。その彼が私んところに来て『藤谷について何か聞いてないか?』って尋ねられた事あったよ。迷惑だから代表で来たって言ってた。―――もちろん、特に知らされてないって答えたけど。」



予想外だった。

驚いた以上に嬉しかった。


あいつら『()』の事を散々裏切り者だの奇人変人だの言ってたけど、結局―――不器用なじゃれ合いだったんじゃないか。

ちょっとやり過ぎな部分もあったけど…


不意に、目じりが熱くなった。


「ど、どうしたの!?」

「傷が痛むのか?」


再び慌て始める皆。


「ううん」


手でこすって拭う


「ちょっと嬉しかった…のかな?」


なんとか、笑う。


でもそれは、きっと泣き笑い。


「嬉しかった?」


聞き返してくる遥。


きっと、この感覚は上手く言い表す事は出来ないと思う。


けど、強いて言うなら…


唯奈(わたし)は、誠から分か(うま)れた存在だから」


自分の半身(まこと)が想われている事は、嬉しい事以外の何物に当てはまろうか


「うん。はっきりと判った。私は、誠の半身。魔術師であり、女である、『唯奈』の部分。」


まあ、その『唯奈の部分』も元は誠から派生したから『誠の要素』も持っている訳だけど。



「遥、会長に連絡取れる?」


「姉さんに?」


突然話を振られて困った顔になる遥。


「うん。ちょっと悪だくみの相談」


今はまだ、皆にも内緒の企み事。

自分一人でもいいけど、折角だから皆で。


「ちょっと一暴れ、したくない?―――誠に酷いことした連中相手に。」

きっと私は今、物凄く黒い笑い方してる。


「その話、一枚噛ませてもらえる?」

その声は、予想外の所から聞こえてきた。



 * * *


『悪だくみ』を聖奏の生徒会室に戻ってからした。

其の時の反応は二通り。


「魔術協会の支部を襲撃するぅ!?」

「ははは、中々に大事件の予感ね」


素っ頓狂な声をあげな佐伯会長、面白いと言わんばかりの第六の吉川会長。


「だって、誠が拘束されてて、返してもらえない以上奪い返しに行くしかないじゃないですか」


だから『襲撃』です。


そう言ったら『むぅ…』と考え込み始める佐伯会長。


「これは、佐織と藤堂くんも巻き込んであげるべきかね」


「とりあえず、話だけは耳に入れておいていいと思います。仮に、誰かから協会に漏れても詳細が判らなければ無駄に気を張るだけですから」


「そっか。よし判った。えっと、先ずは佐織から…あ行の二文字目ら行だから…あったあった。『pi』……もしもし、佐織?ちょっとばかり悪だくみの相談なんだけど、乗る気ある?―――うん、それじゃ聖奏の生徒会室ね。藤堂くんにも連絡しないと。――ああ、執行部の藤澤会長?一応、耳に入れておいた方がいいと思うけど、とりあえず術師組で意思統一が先かなって。うん。それじゃあね。『pi』はい、おひとり様ご案内。」


あっという間に第四の有沢会長の参加が決定。


同様に第三の藤堂会長も乗ってくれて、佐伯会長が気付いた時には



「ふむ。確かにこの間の一件は完全に舐めた真似してくれたからな。」

「それに、二十年くらい前に聖奏の結城会長指揮で協会を半身不随に追い込んだって有名な話もあるし」

「その時は確か、執行部の藤谷会長が市内警護を協力してくれたんだっけ?」

「そうそう。会長以下三役の二年生が主体になった聖奏指導部は今でも伝説の代よね」

術師連合の所属校生徒会長大集合、となっていた。


私は出てきた名前に頭が痛い思いだった。

ついでに遥と楓も。


家に古い詰襟があって、『これはお父さんが高校生の時に着てた制服。このバッジは生徒会長さんのしるし』なんて説明してもらった覚えがある。

その制服、確か睦斗学院の物だった。


つまり、誠は聖奏学園と睦斗学院の生徒会長――学生対魔組織のトップ同士の息子ってこと。


そりゃ、潜在的な魔力とかも凄いことになるわけだ。

と一人納得。



それはともかく。


「と、まあ。下はやる気満々なんだけど、どうする?佐伯総長」


いつもは名前呼びなのを態々役職で呼ぶ吉川会長。



「ここまで周到に用意されたら、却下出来る訳ないでしょ。それに、いい機会か」


少々あきれた様子の佐伯会長。


「いい機会?」


幾人も首をかしげる。


「次期術師連合総長に、御剣唯奈を推薦するわ。異論のある人は?」


何故にそこで私の名前が?


「しっかりと、仕込んでくれるんでしょ?」

「それに、発起人が最高責任者というもの、中々にすさまじいわね」

「不足は俺たちで支えればいい訳でしょう?」


異論のある会長は一人も居ない様子。


「で、総長就任はイコールで生徒会長な訳だけど…」


佐伯会長の視線が聖奏生徒会の皆の方に行くけど


「むしろ歓迎です」

「うん。いいんじゃないのかな」

「副会長と会計も後任選びしとかないとな」


同じく拒否が出ない。



「それじゃあ、決定。OB会………睦斗術師協会と学長他の報告や手続きが終わるまで一週間弱かかるけど―」


ぽん、と佐伯会長の手が私の肩に。


「それまでに生徒会長と術師連合の総長に必要な技能、全部叩きこんであげるからね」


「お、お手柔らかにお願いします」


ちょっと、顔が得物を狙うネコ科の動物っぽい怖さがあったのは黙っておく。


「とりあえず、今日のこれからはどうするの?」


くすり、と笑って佐伯会長が手を離す。


「えっと、今日の所は参加表明していただいたので解散です。詳細は後日連絡するのでその際に決めましょう。できれば窓口役の生徒を一人決めておいてください。できれば身動きのとり易い一年生で。」


最後のこの『一年生で』というのは私が二年生を『使う』事に抵抗があるかなんだけど。


「最後に、手を貸してくれてありがとうございます。―私たちに喧嘩売った事を後悔させてやりましょう!」


『それでは、解散です』としめたら会長たちはポンポン、と頭を撫でながら『頑張れ』とか『期待してる』とか声をかけてくれた。


「あと巻き込むとしたら、藤澤会長の所ですね。ヒスイ経由でお願いしておきます」

ヒスイは最近は藤澤会長の所(おそらく睦斗学院)にいることが多いみたいだけど、魔力供給は私からしているので呼び出すのは割と簡単。


「男子高の連中は、割と『こう言う賄賂』でオチると思うがな」


と、氷室先輩は雑誌らしきモノを何処からか取りだす。


「何、それ」


「写真部が出してる写真誌だよ。毎年、どういう訳かサンプルが各二部届いて一部は生徒会に届けられるんだよ」


氷室先輩曰く、製本代などの大きな出費を部費でやる時は生徒会経由でないといけないという決まりがあるからだという。

これらの製本の費用も生徒会が部費を代理執行して払った訳。


―――バレないようにやってるつもりが、完全に把握されてますよ。


「まあ、コレを売ってるのは知ってるからその分写真部の部費は製本でギリギリになるように設定されてる訳だが。」


ま、必要悪ってところか。


と笑う氷室先輩。


「あ、おっきいゆーな」


と、楓が言って視線が集まる。


楓が持っているのは写真部が出した特集本?


ふと、『特集本の選定作業がある』と某写真部員が言ってたような………


「追加発注、しておくか?」


「…なんか釈然としないけどお願いします」


効果は抜群で、執行部は二の句を継げずに参加を表明してくた事を追記しておく。


 * * *

「ただいまー」


家に帰って来た私は色々やらなきゃならないことが合ったけど、一つ確実にやっておかなきゃならないことを優先して行動していた。



今日は金曜日。

週末は遠野家の面々がこの家に来る日なので、おそらく。


「お帰り、唯奈ちゃん。お疲れ様」


案の定、リビングに居た。


「ただいま、お母さん」


それまで、どう呼んでいいのか判らなくて『身元引受人(おや)』となってくれたのに『和葉さん』という他人行儀な呼び方をしてたけど、呼ぶ決心がついた。


私は『誠』でもあるのだから。

それに、書類上では遠野和葉は御剣唯奈の身元引受人。つまり、母親も同然。


だったら、そう呼ばない義理はないでしょ。


ただ、向こうはそう呼ばれるとおもってもみなかったのかぽかーんと呆けていた。


「それじゃ、夕飯の支度しちゃうね」


パタパタ、軽い足音を立てながら部屋へ引っ込んで荷物を置きに行き、台所に立つ準備をして降りたら台所には母さんが居た。


「いつも娘に任せっぱなしじゃあね。少しは手伝うわよ」


夕飯の支度と言う意味では殆ど役に立たなかったけど、母さんが手伝ってくれて、娘と呼んでくれるのは凄くうれしかった。



「…ところで、何時から私の事やら裏の事知ってたの?」


「学生時代からのコネがあるのよ」


『夜寝る時に話してあげようか?』

なんて言われたら、つい好奇心が勝ってしまい久々に、甘えてしまった。


母さんも、環境に自立を強制された誠に甘えさせられなかった分と言わんばかりだったから………


不思議な事に、朝起きた時にお母さんと私の間に義理の妹になる裕未ちゃんが潜り込んできていた。


 * * *

それから数日後…


その日は学校中がとある発表についての話題で盛り上がっていた。


それは噂話というレベルではなく、学校中各階の掲示板に堂々と貼られていた一枚のプリントが原因である。



『下記の者を次期生徒会長に任命す。


 女子部 一年三組 御剣唯奈   』



生徒会長の決定である。


その人選には生徒会が内部推薦で役員を決定すると知っていても知らなくても驚きが付きまとっていた。


名前と姿かたちが一致する女子部の生徒は驚く。

『あのちっちゃい子が!?』と。


名前は聞いたことがあった男子部の生徒も写真部がもたらした写真で知り、半数は驚き、半数はお祭り騒ぎを始めた。

お祭り騒ぎを始めた連中は一般に『小さい女の子が好き(ロリコン)』と呼ばれる人種であることを追記する。

あと、女子部にもそういうのが居た事も。



一部では『転入して一ヶ月も経っていない生徒に任せられるのか!?』という意見があったが、本人に『佐伯会長に鍛えられましたから…』と虚ろな目で語られた為にそれ以上の追及を放棄した。



朝礼の場での就任演説では、演台に隠れてしまって踏み台が必要になるという判り切ったハプニングがあったが、概ね問題なく行われた。



「生徒会長に就任することになりました、高等女子部一年三組の御剣唯奈です。転入して間もない私ですが、この学校を想う気持ちは皆さんと変わらないつもりです。精一杯、任を全うしていきたいと思うので、皆さんご協力お願いします。」


就任挨拶が終わり、マイクの余韻が切れたところで拍手とざわめきが溢れかえる。



聞いていた方は知らない事だが、演説の台本にはこんな事が書かれていた。

『この中に魔術師、異能者、精霊使いが居たら生徒会室まで来なさい。以上』



その一文は当然の如く無視され、唯奈が自身で考えた文章を言ったのだが、一つだけ。


書いたのは佐伯遥嬢である。



今回は誠から分かれて出来た人格である『唯奈』が『自分の確立』をする回でした。


記憶は二人分、人格は一人分ならこういう混乱が起こるんじゃないのかなぁ?

なんて思って。


ただ、この回の本題は

『唯奈、生徒会長になる』

『魔術協会日本支部壊滅フラグ成立』


なんですよ。


ついでに、時系列確認の為に作った設定資料からちょこちょこ、とネタを持って来てみたり、出オチにする予定だったネタをちょこっと持ってきたり。



現在教習所通い中なので執筆速度大幅低下中ですが、気長にお待ちください。

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