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Magius!  作者: 高郷 葱惟
37/67

#9‐2

二学期開始から五日目の晩、緊急招集がかかった。


聖奏と第六高の縄張りに『敵』が出てくる気配があったのだ。


その為、私たちも『出撃』となる。



…戦闘の知識が無い訳じゃないけど、主観的には『初陣(はじめて)』なのだから多少は緊張する。


「大丈夫。あたしと楓がついてるから。ね?」


遥に声を掛けられて少し緊張がほぐれた。

楓も自信満々だから、大丈夫。


「無理しないで、慣れてけばいいから」


そして、矢吹先輩の張った結界内で『幻魔』掃除が始まった。





その光景は楓の火力に物を言わせた単騎突入広域殲滅戦とでも言えばよかったのだろうか。

「破ぁッ!」

とにかく大火力・広範囲の両柱を抑えた楓によって焼き払われてゆく雑魚(ゴブリン)


「逃がさないわよ!」

そして、狩り残しは遥の狙い澄ました単発の魔力弾によって一匹残らず狩られてゆく。



『あれ?二人ってこんなに強かったっけ?』と思わず思うほど二人は強かった。


事実、私は何もしていない。



「でもま、何もしないってのも、守られっぱなしってのも性に合わないんだよね」


だから、戦闘開始からずっと準備してきた『ソレ』に仕上げの魔力を流し込んで可視化させる。


「二人とも、援護するよ!」


私の頭上にあるのは総数二〇ほどの魔力球。


一発一発の破壊力は単発に劣るが数の多さや発展性の高さが利点のモノ。

今回は威力より手数と誘導性能を重視して発生させた。


「行けっ!」


雨あられとはいかないまでも、数の暴力に対抗する事が出来る程度の質と量はある。


「やるね!」

そんな賞賛の声も届くが『大したこと』と思うほどの事じゃない。


残敵掃討の段階に入るのも目前…と言うところで不穏な気配を感じた私はつい、叫んでいた


「何か来るよ!」



「えっ?」

「遥、離脱!」


二人が飛び退くと、地面にできた穴のような影から何者かが出てこようとしていた。


「離脱援護、弾幕張るよ!」


先ほどの誘導弾から誘導性能を外して手数を増やしたモノを大量に用意する。


瞬間的に展開される四〇の魔力弾。

次々と生成され、七〇集まるのにそう時間は要らない。


そして、撃ったら補充で魔力弾を雨霰と連射する。


その隙に、接近し過ぎな二人に後退してもらうつもりだ。



「な…」

「なんて攻撃…」


遥と楓は離脱コースに入りつつも感嘆というか、驚嘆の声をあげる。


その声に含まれるのは純粋な驚愕。


まあ、それも当然か。


こんな『人間離れした(バケモノじみた)真似』は『普通の人間』には不可能なのだから。


確信を持って言える―――私はある種の化け物だ、と。



二人が十分な距離を取れた事を確認したところで攻撃方法を切り替える。


中距離からの飽和攻撃の必要はもうない。

近接戦にシフト。選ぶ武器は刀。



イメージの仕方は『今まで通り』。


魔力を設計図に流し込むと『すぅ』と、手に握られるように現れる日本刀。


小さい私が振るうには少々大きいが問題は無い。


足止め用の連打の最後の一波に混ざって、一気に斬りかかる。


「ゆーな!」

「遥、援護」


「わ、わかってる!」


退避していた二人はそのまま逃げに入ると思っていたのか接近に驚き、慌てて攻撃術式の構築に入る。



今回の敵は正に『悪魔』っぽい外見をしていた。

なんというかレッサーデーモンとかグレーターデーモンとか呼ばれてそうなヤツ。


刀を振るう、が硬質な表皮に阻まれ弾かれる。


「堅い」


これじゃあ、それほどダメージは期待できない。

けど、手は見えた。


斬れないなら、叩きつぶせばいい。



弾かれ、刃こぼれを起こした刀を魔力に戻し別の形に再構築。


作りたいのは…斬馬刀。

それもどちらかと言えばフィクション向けな、『馬諸共叩っ斬る!』と言わんばかりなヤツ。


当然、重量もそれなりにある…というか、私の数倍重いそれを振り回すのは割と大変。

ま、出来ない事じゃないけど。


「おぅりゃぁっ!」


力を込めて横薙ぎに振るう。

見た目相応に作られ、魔力で強化されているだけの身体が悲鳴を上げる。


斬馬刀は一つ目悪魔に抑えられた。


「遥、大きいのは?」


「ちょっと位置が悪い…」

背後からは手を出しかねる二人の声。


援護できない状況みたいだ。


でも、もう不要だ



「動きがとまれは、もう十分」



「あ」


背後から間の抜けた声がした直後、ズドン、という音を立てて馬どころか船…むしろ艦を斬れそうなくらいの大きさの太刀が降って来て、その重量を貫通力に変え、悪魔の脳天に直撃。


「秘技、斬艦刀流星落し――なんてね」


実際はただいつもは手元に構築している刀の創造位置を結界の限界高度ギリギリにしてそのまま自由落下させただけなんだけど。

まあ、大質量の金属に頭上から襲われればひとたまりもないだろうっていう安直な考えでも上手くいくもんだね。




「ゆーな、まだ動くよ!」


その声が無ければ、左腕を完全に吹っ飛ばされてた。


ギリギリで展開した障壁で若干浅くなった爪の斬撃は肩をえぐるだけに終わる。


「痛っ…」


邪魔でしかない斬馬刀は消し、肩に食らった一撃の勢いを利用して転がるようにして下がる。

失血死しようが、首を飛ばされようが『本体が魔力で出来た霊体みたいなもの』である私は死なない。

が、痛い物は痛いし、自分の姿をした死体を眺めるというのも中々に嫌な光景だと思うので『今の体』を殺さない努力はする。



傷に魔力を回して止血、細かい治療は後回し。


「流石は悪魔ってところ?」


脳天から大きな剣に貫かれているというのにまだ動き一矢報いてきた敵を睨む。

自分の慢心と油断の授業料が左肩の怪我か…


「ゆーな、下がって。」

「出来れば増援、呼んできてほしいな」


「でも…」


その時だった。



串刺しにされている悪魔の背後に膨大な魔力が膨れ上がったので三人そろって防御態勢を取る。

楓は持ってる防御符で、遥と私は自前の魔力で防御障壁を張る。


ドン!


数瞬、目の前が真っ白になった。


爆音の直後に微かな異臭―――これは…オゾンの匂い?


と言う事は、さっきの閃光は、落雷?

悪魔―――正しくは悪魔っぽい幻魔は串刺しにしていた斬馬刀の一部と共に消し飛んでいた。


そして、それを撃ったと思われる人物は…


「あの、大丈夫でしたか?」


現れたのは精霊を連れた少女。


「白澄さん?」


白澄 里桜。

第六高校の生徒会役員で精霊契約者。


『誠』だったころ(・・・・・)は中々に縁があった人物。


「あ、高槻さん。そっちの子は――すぐに救護を―――」


私を見て慌てる白澄さんに

「あ、大丈夫です。傷はもう塞いでありますから」


よくよく考えれば、制服のセーラーは肩が引き裂かれ紅く染まっている。

大怪我と見間違える要素たっぷりだ。


「そうですか。」


「さっきの雷撃は…白澄さんが?」


「うん。凄い威力だね、聖奏学園特製の攻撃呪符。」


そんな白澄さんに遥がツッコミに行った


「いや、それ確実に違うから」


『遥の時』と同じだろう。

呪符に書かれた術式を利用しての、砲撃とも言えるモノ。


単純魔力弾の筈が、何故雷撃になるのかは調べてみないと判らないけれど。


「おっとっと、ちょいと失礼――はい、白澄です。…幻魔出現地点に居ます。―はい。処理班に引き継ぎですね?」


最後に『了解です』と〆て電話は終了。

おそらく、第六高生徒会の吉川会長が相手なんだろう。


「それじゃ、ウチの処理班が到着したら引き上げね。他の聖奏所属の人たちはもう集まってるって」


其の処理班が到着するまでに時間はさほど要さず、私たちは合流となった訳だけど…



「うわっ!唯奈ちゃん大怪我!?」

「痛くない――って確実に痛いよね!?」

「き、救急車!?」

「それより先に止血!止血!」

「待ってろ、今すぐひかり先輩を呼ぶからな」


到着した私たちを見て一気に錯乱状態に等しい具合の混乱に陥る先輩たち+2。

ちなみに上から順番に晶、矢吹先輩、篠田、梨紗先輩、氷室先輩。


「えーと、一応傷は塞いだから大丈夫なんですけど…」


そんな私の声も当然届いておらず急遽呼ばれたひかり先輩の前に差し出され…


「傷、塞がってるけど?」


そのにこやかながらどこか刺々しい一言で皆が凍りついた。


「だから『傷は塞いだ』って言ったのに…」

「あはは…みんな慌ててたもんね」

「いや、あれは錯乱って言った方がいいでしょ」


そんな私たちの溜め息も凍りついた皆の解凍には何の貢献もせず


「まあ、折角だから傷痕は消しとくね」


やれやれ、と言わんばかりのひかり先輩。


「ちょっとくすぐったいかもしれないけど、我慢してねー」


傷のあった辺りにひかり先輩の手が添えられ、ほんわかと温かい感覚に包まれる。



「それにしても、まったく。自分の事を顧みないのは相変わらずね」



『相変わらず』


その一言をひかり先輩が言ったと同時、凍りついていた皆が急速解凍され

「夏元先輩!その話はご法度って話じゃ――」


梨紗先輩が抗議して、ひかり先輩に睨まれて黙る。


そういえば、いつもニコニコしてるイメージしかないひかり先輩のこんな顔は初めて見る。



「みんな過保護過ぎ。少しは信用してあげないと。私は言っても問題ないと思うけどな」



…『誠』や『留学生の唯奈』の話を皆がしないようにしてたんだ。

道理で話題に上がらないし、不用意に言ったから篠田がボコされたのか。



「…先輩がそう言うなら………」


そして


「さーて、みんなで治療中の雑談でもしようか。話題は今年入ってからの出来事!」


ひかり先輩主導の元、他校の人も数人巻き込んでの思い出話が始まった。


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