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Magius!  作者: 高郷 葱惟
36/67

#9‐1

ちょっと遅れました。


今回も繋ぎというかフラグの為なのでちょっと短めです。

九月。


夏休みという一ヶ月半に渡る長い休みを終えて英気を十分に養った学生たちが学校に戻って来る日。


その日、聖奏学園女子部一年三組に『転入生』がやってきた。


その知らせを担任の有坂先生が持ってきた時、クラス中がごく少数の例外を除いて沸き立った。



そんな生徒たちを一喝して黙らせた有坂先生は言う。


今日からこのクラスに加わる少女は先の交換留学生の妹である。

本当は妹の方が来る予定だったのだが姉が妹の名前を騙って代わりに来たらしい。

年齢は当然ながら同じ十六歳………高校一年相当だ。


そして、


「ちょっと事故で記憶に曖昧なところがあるらしいから、あんまり話を聞きたがらないように。」


余りのショックに、既に詳細を知っている関係者二人を除いた全員が黙り込んだ。


「それでも、日常生活にはなんの問題もないから普通に接してあげてね。――それじゃあ、呼んでくるから静かにしてるように」


釘を刺してから一度退出する有坂先生。


だが、そんな釘なぞ何処吹く風。


足音が聞こえなくなったところでゴシップに飢えている少女たちは雑談を開始する。




ほどなくして戻って来た有坂先生の一喝で再び静かになった教室に、『問題の少女』が現れる。




教室三列目以降は、首をかしげた。

『居ないじゃないか』と。


二列目以前は驚いた。

『まるで小学生だ』と。


幼い容貌は中性的な整い方をしていて、身長も一五六だと公言する有坂先生より頭二つ分くらい小さい。

歩みを進めるたびに後頭部で結われた背中の半ばまである髪―所謂ポニーテールだ―がゆらゆらと揺れる。


用意された踏み台に立って、教卓から上半身を出したその少女は見た目相応の声で言う。


「――御剣……唯奈、です…」


葛藤と困惑が込められた自己紹介に、含まれる感情を読み取れた二人は苦々しい顔になり、他の面々は『初心だ』『恥ずかしがり屋だ』と盛り上がる。


「はいはい!みんな静かに!それじゃ、御剣さんの席は――」


あらかじめ用意されていた楓と遥の間の席が宛がわれ、小声の憶測が飛び交う授業が始まった。



 * * *


『あなたは藤谷誠(わたしのむすこ)じゃない』


そう、『和葉さん』に言ってもらえたから私は『御剣唯奈』を名乗る決心が出来た。

実際、こっちの名前の方がしっくりくる。


『とりあえず、はっきり判るまでは借りておく』


別に同姓同名がいない訳じゃない。だから、一時的に借りる。

とはいえ、そうすぐに割り切れるものでもなく、転入生の通過儀礼である自己紹介は相当躊躇った。


それが原因なのか…休み時間ごとにクラスメイトや噂を聞きつけた先輩後輩にもみくちゃにされた。

先輩方からは『ちっちゃい可愛い子』として、後輩たちからは『ちっちゃくて可愛い先輩』として。


まあ、身長一二四の体重二一キロって『何処の小学校低学年生?』って思うだろうけど。


本来、私の身体は魔力の塊であり、精霊と大差なく物質化させることが出来なければ見えても触れない幽霊みたいな存在である。

それだと『怪我をする』とか『汗をかく』とかの『人間として当然の事』が起こらない。


それだと色々問題が出てくるので『人間そのものな入れ物』に入っている。

―『魂の入っていない人間』と言うべき禁術の産物(からだ)

魔力の塊である私を『魂』に見立てて肉体を作り上げた、と言う訳。


まあ、高校生相当の器を作っても良かったんだけど―というか、作ったんだけど誤差が酷くて慣らし(リハビリ)期間が足りない事もあり、本体とサイズが似た今の身体に落ち着いた。(ちなみに本来は一一五センチくらいしかない)


当然、魔術協会にバレたら即拘束、実験材料確定なのだけど使えるのは私一人なのでばれる可能性は低い。

なんせ、『そんな事出来る筈が無い』という事なのだから。



とりあえず、クラスに迎え入れられて無事放課後を迎えた私だけど………



「萎びてるな」

「溶けてるんでしょ」


生徒会室のデスクに顎を乗せてぐてーっとしていた。


生徒会室に来たのは――たぶん条件反射みたいなもの。

『放課後だ=>生徒会室いかなきゃ』みたいな


それは『誠』にも『唯奈』にも言えた事だったから『私の中の唯奈』をなぞるべく動いてる。


まあ、転入初日はみんなに構われ過ぎて心身ともに大分お疲れだけど。



「大変だったねー。三年生や中等部の子たちまで来たんだから」


と、遥(基本的に同学年は親しければ名前、そこそこなら苗字を呼び捨てにしてたと言われたからそうしてる)に言われた。


うん。本当に大変だった。

――途中で『過去の話』を聞きたがる人がいて危うく意識がシャットダウンされかかったりなんていうトラブルもあった。


…個人的にはあの時に触れた『ブラックボックス』的な何かが重要なんだと思う。

まあ、ブラックボックスを開封しようとしたら強制シャットダウン(きぜつ)だと思うけど。



「なんというか、女子高の気風を侮ってた…処で遥は何してるの?」


紙の上に両手をついてそのまま魔力を流し込んでいる?



「ああ、これ。これは呪符を作ってるの。攻撃用だったり防御用だったりのお札」

…ああ、確かに『記憶』にはある。


「一枚貸して」


「いいけど…」


遥から楓経由で渡されたA3のコピー紙を手に


「―――『同調開始(アクセス)』」



込められたモノを、紙の中身を『視』る。



見て、理解した。


「これだったらこっちの方がいいかも」


紙を身体の一部と認識して、魔力を流す。末端まで丁寧に。


「え?」


周囲から驚く声が上がる。


出来上がった紙を遥に返す


返したA3紙の裏側にはかなり精密な縄文式土器みたいな紋様がびっちりと張り巡らされていた。


それは『紙に作られた回路』の姿。



それを見た遥の反応は判り易かった。


「無理!絶対に無理!ここまで細かくだなんて無理だよー」


半分泣きの入った声で『無理』を連呼。



「そうかな…それほど難しいことしてないつもりなんだけど」

自然と、首をかしげていた。


「いや、無理だから」

「ふつーの人間に、紙を身体の一部として扱うのは難しいよ」

したら総突っ込みをもらった。


奥の方で矢吹先輩が鼻を押さえてるように見えるのは気のせいと言う事にしておこう。うん。


「でも、これを作った人って頭良かったんだね。回路の精度はイマイチだけど」


これさえあれば一般人でも魔術が使えるのだから。


「何言ってるんだよ。お前が作ったんだぞ?ついでに佐伯妹がやるようになってから劣化してるし」


「―――えっ?」


思わず記録を振り返る。


振り返ろうとして


「何?出来る人の自慢?ねえ、それ自慢?」

「ひはいひはいひはいひはい(痛い痛い痛い痛い)」


遥に頬を思いっきり左右に引っ張られた。

親指が口の中に入って来て、其のまま左右にむにょーんと。

我ながら、よく伸びるなぁ…


ついでに、遥の背後では篠田くんが晶ちゃんにボコボコにされていた。


「はへ、はいほうふはほ(アレ大丈夫なの)?」


「はー、やーらかーい…」



…ダメだ。放してくれそうに無い。


「アレはいつもの事だから。ほっといても平気だよ」

と楓。

いや、どう見てもオーバーキルな気が…音も『ごガッ』とか言ってるし

と、心配そうな顔をしたら


「大丈夫。一〇分もほっとけば復活してくるから」


とか、言ってくる。

何か間違ってる気がした。


「ほうはほははぁ(そうなのかなぁ)?」


「そういうものなの」


とりあえず、なんか悦に浸ってる遥は指を


「あぐ」

と、軽く噛んで手を引っ込めさせることにした。

「痛いっ!?」


おお、いい反応。


「なにするだー」

噛まれた手を庇いつつこっちにむかってやや棒読みに言う遥


「いや、何時までも人の口の中に指突っ込んでるからでしょうが」

そこに楓の事務処理用ファイルが振り下ろされる


すぱーん

「痛いっ!楓、それは凶器!凶器だから!」

今度は頭を押さえながら楓から距離を取る遥。


「あはは」

遥がボケて楓がツッコミ、という漫才じみた状況を『珍しいな』なんて思った。



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