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Magius!  作者: 高郷 葱惟
35/67

#8‐4

2011.3.15 ルビミスを修正

恆松美咲という情報源を得た奈緒たちだったが、結局のところ『唯奈がどんな事をされていたか』と『保護した少女が鍵』という二つしか判らなかった。

美咲も『支部長直属』という立場を持っていたが新入りの下っ端には中間管理職の職員程度にしか情報は流れてこないのだ。



「…これが、私が知り得ている範囲での全てよ」


美咲はそう言い終えた途端、強烈な殺気をぶつけられて喉を詰まらせたような感覚に陥った。

その『されていたこと』は彼女たちにとって到底許せるものではなかった故に。


―――それは当然かもしれない。

『大切な人』を凌辱した相手を、誰が赦せようか。




「抑えて、楓ちゃん、マナちゃん。」


怒り心頭な面々の中で、殺気まで放っていた二人を和葉が抑える。


「それをぶつけるべきは彼女じゃないでしょ」


そう諭されて二人は漸く落ち付き、美咲は一息つく事が出来、冷や汗を拭う。


「…全ての鍵はあの子、か」


和葉は居間から客間に寝かされた少女の様子をうかがう。

少女は今もうなされ続けている様子。


「美咲の身柄は術師協会の方に預けるわ。あの子は…私に任せてもらえるかしら」


和葉の申し出に一同の視線はマナと楓に集まる。

『関係者だった』と言うだけで殺気を叩きつけた二人の意見が一番の強硬派になるのは目に見ていた故に。


『あなたの意見を取り入れる』と奈緒が視線で送る。

どんな答えが出るのか、戦々恐々としながら。


だが、


「お願いします。マナちゃんはウチに来る?」


「…お願い」


その周囲の予想に反して二人は申し出に乗った。

おまけに同じく強硬派になり得たマナを自分の家に、というのだ。


「ええ、任されたわ。――奈緒ちゃん、ひっ捕えた協会の魔術師は?」


「ええ。OBの方たちと一緒に『お話し』を聞くつもりです」


「あら怖い」


それから、引き上げてゆく聖奏の生徒会の面々を見送った和葉は受話器を取った。


「さてと。純一くんに連絡、連絡。」


 * * *


『目、覚まさないね。どうしたの?』


『うーん、疲れてるのかな?』



覚醒しかけの意識に、感覚器官から情報が届けられる。

この声は、■■■さんと■■ちゃんの声だ[error]


『そろそろ夕飯にしましょ。』


そんな、聞きなれた■■■■の声[error]




どうもおかしい。

何故、ノイズが入る?


データ(きおく)』はちゃんと存在しているのに、何故?


何故、『自分の記憶』である筈なのに自信が持てない?



「ッぁ―――」


喉から漏れ出る苦悶の息。


自分の記憶か、他人の記憶か、判断できない。


『データとして閲覧』することはできるのに『思い出』せない。


そしてそれは、究極的な問いを自分に突き付ける事になる。


「『私』は誰?」


記録にある『自分の名前』は『藤谷誠(おれ)』と『御剣唯奈(わたし)

偽名とはっきりしてるのは『橘高統夜』と『宮野真心』。


判らない。

(おれ)唯奈(わたし)、どちらが本当の自分なのか。


判らない、判らない、判らない、わからない、わからない、わからない、ワカラナイ、ワカラナイ、ワカラナイ、


まるで、他人の記憶を見ているよう。



それ故に…


「目が覚めたのね」


視界に現れたその女性を――『藤谷誠』の記憶によれば母親である筈のその人物を…


「えっと――――和葉、さん?」


『母さん』と呼べなかった。




当然、相手は疑問を抱くだろう。


『何故、名前を知っているのか』と。



「ええ。――あなたは?」


やんわりと尋ねてきているが実際は黙秘を許さない命令でしかない。


「私は――――」



 * * *


「記憶が混同している?」


生徒会室にふらりと現れた和葉によって告げられた『少女から得られた情報』を聞き終えた楓たちは口をそろえてそう言った。


「『混同』と言うよりは『自分の記憶として認識できていない』と言うべきかしらね。――記憶の内容からすればほぼ確定で誠か、そのコピーであるって断言できるんだけど」


「…でも、誠じゃないんですよね?」


和葉の『ほぼ誠で確定』という知らせは確かに明るい物ではあるが、同時に悲痛なものでもあった。


「ええ。あの子の人格は『誠』をベースに作られた『唯奈』、そう考える方が自然かもしれないわね」


皆が手を顎に寄せて考え込む。



「そういえば、今はどうしてるんですか?」


遥が思い出したように言った。


その答えは


「いま、裕未――うちの娘の面倒を見てくれてるわ。」


小学五年生のね、と付け足す和葉だが、周囲は見事に凍りついていた。



「…素性も判らない相手に子供を預けても平気なんですか?」


思わず尋ねてしまった雅人。


「人格がどうであれ、あの子はウチの子だもの。信用できない訳ないでしょ」


それに対して帰って来た答えは子供を信頼する親の物だった。



「結論として、あの子は問題なしよ。むしろあなた達と一緒に居た方が記憶の整理も付きやすいかもしれないわね。」



「それじゃあ、手続きしておきますね。」



「お願い」

何の手続きなのか和葉は問わなかった。

そんな事、聞くまでもないのだから。



その数日後、夏休みも終了へのカウントダウンを始めた頃。

イギリスから転校生が来る事が決まったのだった。


あるぇ?


おっかしいなぁ…元々のだと感動の再会のシーンを書いた筈なのにこんなダークになっちゃったよ?



…まあ、最後がハッピーエンドでなくグッドエンドだってのは変わらないと思いますが…

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