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Magius!  作者: 高郷 葱惟
31/67

#7‐4

軍用となんら変わりが無いアサルトライフルが向けられるというのは、並大抵の恐怖ではない。


だが、


「ふん――」


『男』は腕が経つという自負のある魔術師だ。

軍用アサルトライフル程度ならば防げる防御障壁を作り上げる事も可能だし、銃を持った一般人程度なら無力化は容易だった。

だが、これから始める『儀式』の為にも無駄な浪費は避けねばならない。

その為、結界による防御のみにとどめたが銃を持った集団は無力化されたも同然だった。



だが、相手の方が数枚上手だ。


「藤澤会長!」


「任せろ。…ヒスイ!」

「はい。」


密閉されている筈の結界の中に、風が吹きこんできた。


パキン…と小気味のいい音がして、慌てた『男』が振り返ったら、片刃の剣―刀を握った惣一が結界を『切り裂いていた』。

唖然とする『男』


「そこまでよ。睦斗術師連合の名のもとに捕縛させてもらうわ」


さらに行く手を阻むように現れる奈緒率いる術師たち。

既に辺り一帯を覆う結界が張られ逃げる事も難しい。


前門の術師、後門の銃。


まさに絶体絶命を絵にしたような状況で追い詰められた『男』がとった行動は、



「くっ…」


懐に隠していたナイフを取り出し、気絶させたまま運んでいた『魔力炉』の破壊を試みた。


蓄えられていた魔力を肉体(うつわ)の破壊で放出させるつもりだった。


だが、


「はい、そこまで」


気絶している筈の『少女』に指二本で白刃取りされた。


当然、男が掛けた術はレジストされ、掛かったふりをしていただけだからだ。


態々そんな事をしたのも、こうしておびき出す為。

身の危険が有れば最悪手を下す事も考えられていたのだが、ある意味では奈緒たちのシナリオ通りに事は進んでいた。



進んでいたのだが…



「ッあぁ――――」


突然、男の胸から生えてくる鋭利な突端。


それはまるで鎌のような形をしていた。


その鎌によって男の体がひき千切られる。

血と臓腑をまきちらしながら、地面に落ちる。



「ッ――――!」

唯奈はその光景を至近から目撃してしまった。





遠巻きに見ていた者ですら、顔をそむけたくなるような光景を極近くから、まじまじと見つめてしまったら、普通の人は気絶してもおかしくない。


事実、唯奈は呆然としている様子で固まっている。


「回収、急いで!」


「行くよ、遥、マナちゃん」

「わ、わかった」

「先に行くよ!」


一早く我に返った奈緒が指示を出し、その声で正気を取り戻した楓が遥とマナに呼びかけ、動きだす。



「総員、撃ち方用意!」


呪符と対魔用特殊弾の込められた銃が火を吹く瞬間を今か今かと待ち受ける。



三人が唯奈の元に辿り着き腕を掴んだ時


「遥っ!」


遥の背後に、なにやら波紋のようなものが現れそこから凶悪な刃が生えてきた。


「ッ!」


突き刺さる直前に防御符が反応し防壁を展開してはじいたが、危うく刺し殺されるところだった。


刺し損ねた鎌はそのまままた空間の波紋の中に消えてゆく。

直後に楓の放った炎が何も無い空間を焼く。



「何、このもぐら叩き」


「しかも叩く側が隠れたり出てきたりするって、反則だよ」


なんとか唯奈を回収し、味方の所まで戻ろうとする三人。


だが、


「楓、危ない!」


「あっ!」


ちょうど真正面に現れた波紋。


そこにはすでに銀色に輝く切っ先があって――


「あ、だめだ」


よけきれない。


漠然ながら『終わり』を予感した楓だったが


ぶわっ、と風のような、衝撃波のようなものがすぐ近くから発生してその後の光景に楓は、いや、その場にいた全員が目を疑った。



それまで市街地に居た筈なのに、何故か荒野に居る。

そして、先ほどから襲いかかって来る鎌が、カマキリのような本体と共に、楓たちの前に居た。



「「きゃっ」」

「わわっ」


突然、手を引っ張られて地面に伏せることになる楓と遥。

マナはそんな二人に引っ張られて地面に伏せることになる。



強引に伏せられた直後、四人を銀色に輝く壁のような物が覆い、


「撃て!」

「攻撃開始!」


その場にいる他の全員が一斉に攻撃を始める。



それは今までにないオーバーキルだった。


そんな光景を余波をまったく感じさせない空間で見る事となった二人は

「すごい…」

そんな感想をこぼす遥、対して


「ゆーな、大丈夫?」

と楓は自分たちを強引に伏せさせた唯奈の方にかかる。


気絶しているかと思ったが…意識はあったのだろうか


そう思って目をみて、目に光が無い事に気付いた。


それはまるで『繭から出てきたとき』のような目だった。



「ゆーな?」


「―――ッ」


目に輝きが戻ると同時、異界とも思えるような空間が消え、彼女らを守っていた障壁も消える。


「あッ」

「ゆーなっ!」


そして操り糸が切れた人形のように、力尽きるかのように崩れる唯奈。


あわてて三人で支えるがその顔色は『死人の方が健康に見えるかもしれない』とその場の二人に想わせるほど青かった。


 * * *


気がついたら、佐伯先輩の家の部屋だった。


外の明るさからして、どうやら倒れたっきり一晩を明かしてしまったらしい。


「気がついた?」

「顔色は…死人よりはマシか」


そして、楓と遥は既に普段着になっていることから相当の寝坊をしたようだ。


「ようやくお目覚めみたいね。」


「あ、姉さん」

「会長、どうしたんですか?」


「…ちょっとばかり、厄介な事になったのよ」


顰めつらというか、苦虫を噛みつぶしたかのような渋い表情をする佐伯会長。


「厄介な事?」



「今日付けでこんな郵便が来たわ」


会長が差し出す封筒を受け取り、楓と遥が覗きこんでくる。


「…聖奏の生徒会宛ですか」

差出人は『関東学生交流支援機構』となっているが聞いた覚えが無い。


「それはカモフラージュ。私たち『術師連合』が学生で構成されている故の。とにかく中身を見て」


言われるがままに中に入っている物を出す。


それは一枚の書状だった。



「「「………」」」


黙って目を通す。



内容はこうだ。


『以下の者の即時出頭を命ず


御剣唯奈

以上』


きっと、逮捕令状の方が温かみのある文章だろう。

送り主である魔術協会日本支部の支部長は相当お偉い方のつもりらしい。


「居留守を極め込んでもいいわよ。東京支部と真っ向からの喧嘩になったら負けるのは向こうだし」


睦斗術師連合はそもそもで戦闘力が高いのに執行部との合併の結果、日本では最大規模に近い対魔組織になった。

当然、それは相手も理解している筈だ。





「でも、なんで俺なんだか…」


俺としては不思議でならない。


探査系としては格段の能力を持つ紗枝先輩、医術系としては最高峰のひかり先輩、暗示系では連合内で肩を並べる物が居ないほどの技量を誇る佐伯会長…


そんな人たちを差し置いて俺と言うところが判らない。


「何言ってるの。並の術師の数倍の魔力に『魔術符』の開発に半陰陽。おまけに昨日の夜は『世界の上書き』までやったのよ?連中が興味を持たないハズが無いわ。」


そう断言する佐伯先輩


どうやら、俺と言う存在は中々にすさまじい事になっているようだ。


「でも、それらの情報は『符』について以外は会長クラスにしか開示されていないし、世界の上書きは『位相変異の荒技』っていう説明で誤魔化したのに…」


『どこから漏れた?』と首をかしげる。


「要調査、ですかね」


「ええ」



そこに


「奈緒ちゃん、関東学生交流支援機構の田汲さんて人がいらっしゃってるんだけど、追い返す?」


と、陽菜さんが現れた。

最初から『追い返す』という選択肢を提案してくるところがなんとも『大先輩』らしい。


「…問答無用って訳か。とりあえず、私が対応するから」


「それじゃあ、お願いね。」


陽菜さんはそう言って部屋を出てゆく。



「さて、お役人と直接対決と行きますか」


「会長、俺も行きます」


「その場で強制連行もあり得るわよ?」


「その時は、相手もそれなりの覚悟をしてもらいますよ」


「判った。身だしなみを整えてから来なさい」


「了解」



結果として、俺の身柄拘束は回避できなかった。

今日中の出発が決定され、今日の夕方には東京駅に到着しているという予定が立てられた。


せめてもの仕返しとして、交通費は向こう持ちにさせたが。




「それじゃ、ちょっと行ってくる」


見送ってくれる楓と遥…急遽集まってくれた聖奏生徒会の面々、そして同行が許されなかったマナに俺はそう言って睦斗市を離れる事になった。


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