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Magius!  作者: 高郷 葱惟
3/67

#1‐3

かくかくしかじか…で済まさせてもらうが15分ほどの事情聴取が終わり、


「…つまり、『アレ』に深手を負わせたのは君ってことね。」


「…そうなるみたいです」


はぁ…と湿気た溜め息をついた会長は


「啓作、喜びなさい。後輩、一人確保よ」


なんて事をおっしゃった


「珍しいこともあるもんですね。会長がスカウトだなんて。」


「幻魔の分体を一匹、完全消滅させ(ふきとばし)かけた新入生を逃がす訳にはいかないでしょ。どちらにしろ『こちら側』に関わらざるを得ないんだから」


「それもそうっすね」


俺の意思は関係なく、俺の生徒会入りは決定されている。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!何の説明もなしに生徒会に入れだなんて…」


「『生徒会役員』以外に教える訳にはいかないからね。説明イコール拘束なのよ」


そう言われて俺は黙る。

むしろ、俺を襲った一連の出来事についての説明を受けるためにはこの『裏のある生徒会』に入る必要がある。


「それとも、今回の事は一切忘れた事にして、なんにも知らずに巻き込まれ続ける?」


そこまで言われて、俺には首を縦に振る以外の選択肢が残されていないことを悟り役員になることを承諾した(実際は強制だが)


「それじゃ、放課後にもう一度来てもらうわよ。色々やらなきゃならないことが有るからね」


「了解しました、会長」


昼休みの要件が済んだので教室に戻ろうと廊下に出た瞬間、一気に奪力されその場に倒れる俺。


「「「あ」」」


会長と先輩とマナの声が被る。


「そーいや、すっかり忘れてたな。」


と、能天気な声が聞こえる。


「マスター、生きてるー?」


「ホント、常識外れね」



とか言いながら誰も助けてくれないので、魔力を殆ど搾り取られ、何柱もの精霊が復活を遂げ、絞り粕となった俺は起き上がることができず、保健室に放り込まれた。


* * *


魔力が多少回復し、起き上がれるようになった丁度その時、終業のチャイムが学校に鳴り響いた。


午後は完全にサボってしまった形になる。


………実際、動けなかったんだから仕方ないんだが


がらっ


「とーや、大丈夫?」


やや慌て気味なちょっとたれ目のショートカット少女―幼馴染の楓が現れた。


どうやら、俺が午後の授業に参加していない事を知って保健室に様子を見に来たらしい。


とりあえず、大丈夫であることを伝えたら、二度ほど確認の為に詰め寄ったのち、盛大に安堵のため息をついていた。


「それじゃあ、帰ろ」


「あ、悪い。生徒会長に呼びだされてんだ。そっちに行かなきゃならんから先に―」


がらっ

「おーい、藤谷。鞄持ってきてやったぞ」


そこにタイミング悪くクラスメイトが現れた



度々ではあるが聖奏学園は男子部と女子部が分かれており、男子と女子が接点を持つことはあまりない。

それ故に―


「畜生!リア充め、爆発しろ!」


と、クラスメイトは俺の鞄を投げ捨て泣きながら戻って行った



「…なんなの?」


「まあ、僻みと誤解のコラボレーションによる精神ダメージってところか…」


とりあえず失速して床に落ちていた鞄を拾い上げ俺は生徒会室に向かう



 ・

 ・

 ・

 ・

 ・



「…なんで楓もついてくるんだ?」


「いいじゃないの。一遍倒れてるんだから、誰か一緒の方がいいでしょ」


あーじゃない、こーじゃない、と言い合っているうちに六階フロアまであと一歩というところに来てしまっていた。


昼休みの悪夢再びか


そんな思いがあって最後の一歩を拒む俺の脚


「何やってんの?」


そう言いながら楓が六階フロアに足を踏み入れた時


「えっ!?」

「!?」


楓の左目の瞳が紅くなっていた。


その眼は… と問いかけようかと思った瞬間


「類は友を呼ぶと言うけれど、今年はなかなか幸先のいいスタートね」


背後に生徒会長がいた。


当然、楓の紅い瞳も見られている


「二人とも、生徒会室にいらっしゃい。ああ、精霊の強制実体化は一時的に停止(フリーズ)させているから大丈夫よ」


そう言われて恐る恐る六階フロアに足を踏み入れる。

けれどもマナは実体化しないし、背後騒霊共の実体化も始まらない。


俺と楓は黙って会長について生徒会室に入った。


その時点で昼休みにいた男の先輩の他に、昨日の抜刀少女や比較的似通った顔つきの少女、あと元気溌剌そうなお団子娘にちっちゃい女の子という中々にバラエティーに富んだ面子がいた。



「みんな、揃ってるようね。簡単に自己紹介して、そのあと状況確認をするわよ」


「会長はトリでいいですよね」


「順番は任せるわ。」


「それじゃ啓作から時計回りで。」

と昨日の抜刀少女がその場を仕切る


「俺から?」


「文句ある?」


「いんや。 了解了解、副会長殿。 二年の氷室啓作だ。生徒会では会計を担当している」


少々投げやりに承諾した昼休みの男先輩はそういった。

会計の氷室先輩か…


「で、あたしは副会長の霧島梨紗。同じく二年。」

「私は、生徒会役員じゃなくて化学部なんだけど、部長の霧島紗枝。やっぱり二年生よ。」

と抜刀少女とその隣の瓜二つ。

どうやら双子みたいだ。


「渉外兼書記、二年の矢吹凛よ」

その次がお団子娘で最後は…


「元渉外で今は渉内の夏元ひかり。私と奈緒ちゃんは三年生。」

一番小さくて幼い顔つきの人が最高学年だった


…『奈緒ちゃん』?

それって…もしかして…会長の名前?


「それじゃあ、私が最後ね。生徒会長、三年の佐伯奈緒。」


それにしてもギャップの激しい二人組がトップ層とは…


「さ、次はお前らの番だぞ」


そう言われて俺は少々ごもりながら


「一年の藤谷誠です」

「高槻楓です。とーや…じゃなかった。藤谷君とは幼馴染です」


楓は割とはきはきと自己紹介(と言っても名乗るだけ)を済ます。


「以上二人が今日付けで生徒会役員に成ることになったわ。」


会長はそう言いながら俺と楓に微章ケースを渡してきた。


「それを持っていれば六階の強制陣をスルーできるわ。携帯しときなさい。」


そう言われて俺と楓はいそいそと生徒手帳の表紙にその生徒会役員章を取りつける。


「それじゃあ、生徒会の裏側を教えてあげるわ。当然、もう逃がさないわよ」



そう言って会長は俺と楓を連れて生徒会室の二つ隣にある生徒会資料室に足を踏み入れ、そこで『生徒会の裏の姿』についての説明を聞くことになった。


* * *

唐突だが、我らが学校、聖奏学園の生徒会は睦斗市内のいくつかの学校と互助交流振興会…『他校とも交流を深めよう』という趣旨の『生徒会連合』という集まりに参加している。


この生徒会連合が主催になって学校対抗の体育祭が行われたり、他校の文化祭の情報が来たりと学校間の交流が行われてきた。


そして学校同士で互いに助け合う事もあったので『互助会』と思っていたのだが、裏のある生徒会が加盟しているだけあってそっちの大本にも裏があった。


『睦斗学生術師連合』。

その発生は中々に歴史があり、一ページめが刻まれたのは今からおよろ60年前…

ちょうど大東亜戦争によって流れた血がきっかけとなり地脈の変動が起こった結果それまでは何のことはない一地方都市だった睦斗市に地脈の集約点ができてしまった。


地脈というのは大地のエネルギーの流れみたいなもので、霊的・魔術的な力に変換し易い。


それを求めて魔術師や精霊が集まり今の睦斗市が出来上がったのだが、問題も発生した。


集約のしすぎで『異界からの侵入者』が容易に入り込めるようになってしまったのである。

この侵入者が『幻魔(デモン)』と呼ばれる異形の怪物(時々人型とかも)だ。



魔術師たちは基本的に自分に害が与えられない限り動かない。

それを見た魔術師の子供たちが独自に作り上げ、経験不足や練度不足を数で補う、対幻魔組織が生徒会連合の祖と言える。


で、今もこうやって廃業した魔術師から継がれた魔力持ちをスカウトし、精霊に協力を仰ぎ、異能の生徒を能力開発して、とあの手この手で戦力を整え、活動を続けているらしい。




「さて、次は能力開発ね。高槻さんは遺伝系の先天性能力だから大丈夫だろうけど、藤谷君はつい昨日魔力が覚醒したド素人だから…」


そういった会長は俺に『掌に魔力の球を作り出した状態で座禅』というなんとも禅宗の修行じみた命令をだしてきた。


昨日、楽に放出は出来たからそれをとどめるだけ…と思いきやその『球体にして留める』という部分がなかなかに難しい。

留めているように見せかけようと魔力をどんどん流して消耗する分を補うとうまく球体にならない。


――ちなみに空気中に放出された魔力は背後騒霊がせっせとかき集めて自身の復活に使おうとしている。


で、手の方に注意が行き過ぎると座禅が崩れそうになる。



「なかなか苦戦してるわね」

「まあ、魔力球を消さずに同じ大きさに保てるだけ魔力を流し続けるってのもかなり無茶な真似ですけど」



そんな外野の声を無視して俺は『昨日どうやって放出する方法を知ったのか』を思い出してみた。



………ダメだ。完全に『成り行き』とか『偶然』のレベルだ。


それから四苦八苦しながら俺はなんとか球体状(ただし大分いびつ)に抑え込み、なめらかな球体にできるように家などで練習するよう言いつけられた。


* * *


「なんか、大変なことになっちゃったね」


「そうだな。」


「それにしても、とーやの魔力、綺麗だったよ。透き通った銀色で」


「でしょー。マスターの魔力は純粋で混じりっけがないから精霊も大喜びなんだよ」


突如として現れた第三の声に俺たちが振り向くとなぜか制服っぽい服装のマナが実体化していた。


精霊は衣服とかは自分の一部を変化させているようなもんだから簡単に着替えられるとか言ってたけど…


突然の出現に楓は目を丸くさせている


「あ、えっと…あたし、マナ。元精霊の使い魔だよ」


にっこり、と笑いかけるマナにつられて楓も口元にやや笑みが浮かんでくる。


「高槻楓です。とーやとは幼馴染の」


「うん。知ってる。あたしはマスターが大体十歳くらいの頃から『そこ』にいたから」


『そこ』と言って俺の斜め上を指さすマナ。


…六年前から憑いてたのか、こいつは。


「マナ、とりあえずその『マスター』ってのは止めてくれ。人に聞かれたら何誤解されるか解らん」


「ん、りょーかい。とーや」


個人的には出来れば人前で実体化して欲しくないのが正直なところなんだけど


まあ、そこらへんは家に帰ってから相談するとしよう。


「あ、着いちゃった。それじゃ、また明日ね」


「おう」

「ばいばーい」


楓と別れ、適当に人がいなくなった瞬間を見計らってマナは再び不可視化し俺は一人で歩き始める。


大分軽くなってきた肩。

今日の修業で大分無駄に放出した魔力が最後の一押しになって少なくとも三柱ほどは野に帰った筈だ。


この精霊たちが全て復活を遂げて立ち去って行ったら俺はどう思うだろうか。

小さい頃からずっと居た『消えかけの存在』達の事を…


『今居るのが全部居なくなるころには次のが来てると思うよ』


俺の思考にマナが反応を返してきた。



「それも、そうだな」


小声で呟きポケットに手を入れて鍵を出す。


我が家に到着だ。


「ああ、マナ。」


「ん、なに?」


「姿って変えられるか?」


「できるよー」


「だったら、猫か何かなら外出る時に実体化しててもかまわないぞ」


「ん。」


その日から我が家に黒ネコが一匹追加された。


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