表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Magius!  作者: 高郷 葱惟
29/67

#7‐2

「うー」


そしてその三日後、期末試験最終日。


全ての試験を終えて生徒会室に来た俺は唸りながら机の上に突っ伏していた。


「あ゛ー」


頭痛は見事に悪化したが他の症状がそれほどでないという不思議な状況に俺はやっぱり唸るだけだ。


「誠、大丈夫?テストで大失敗したとか?」

そんな俺に声をかけてくる楓

「…いや、そっちは問題ないけどさ、なんか調子が良くないんだよ」


「お大事に。もし悪化したら遠慮なく言ってね」


「もしもの時は頼らせてもらうよ」

いつもなら『要らない』と言って機嫌を損ね、何かしらの罰則を負わされるところだが、今回ばかりは何かがおかしいという思いがあった。


「あれ?珍しいね」


「…なんか、変なんだよ」


「ふーん。今日は早めに帰ったら?」


『そうさせてもらう』そう言おうとした直前


「藤谷くん、防御符を六シート、攻撃符を十シートの依頼が来てるのだけど」


佐伯会長が俺にしかできない仕事を持ってきた。


印刷にしろ、手書きにしろ、紙に一回目の魔力を流し込む作業は俺にしかできないらしい。


符の魔力補充は他の魔術師でも可能だが新しく作るのは俺しかできないのだ。



そして、第三高校などの魔術師がいる学校は補充をして再利用してくれるが、そうでないところは湯水の如く使い捨てる。

使用済みを送り返してくれればいいのだが、彼らの場合は手加減なしで使うため、呪符その物まで魔力還元されてしまうのだ。

なので仕方なく、注文を受けたら生産して供給を繰り返している。


A3用紙一枚につき五十六枚。符の内容を印刷したコピー用紙に俺が魔力を流し込んで完成。


ただ、A3用紙一枚につき五分程度掛かる。

今回は合計十六シートだから、一時間二十分といったところか。


「了解。それじゃあ、印刷室使いますよ」


当てられている執務机からA3紙を二枚取り出す。


前に作って置いた攻撃符と防御符の元版だ。

これをコピーして処理して作っている。


「それじゃあ、お願いね」


「はい」



資料室の隣の印刷室で元版をコピー、一度生徒会室に戻り元版を保管場所に戻した後に


「さてと…」


回路を解放し魔術師に切り替える。



十センチ近い身長の減少と急激な胸囲の拡大で夏服の半袖Yシャツがピン、と張る。


少々息苦しさがあるが…


「あら?制服は切り替えないの?」


と、そこで会長から警告を貰った。


「あ、ちょっと調子悪いんで今日はこのままで済ませてください。」


事実、回路を解放したと同時に倦怠感と軽い頭痛腹痛に熱っぽさを感じるようになった。


それまでも疼いているような感覚はあったが、なんで急に悪化したんだ?



「それじゃあ、始めますか。」


紙に触れ、魔力を通す道を作って流し込む。


五分かけて一枚を満タンにしたら次の紙へ。

満タンになった紙は楓にミシン目を入れてもらって完成だ。


十六枚、全てを作り終えるころには辺りは薄暗くなってきていた。



「ラストー」


最後の一枚に最後の一本のミシン目を入れ終えた俺たちは


「あー、疲れた」

「んー!」


思い思いに伸びをしたりして体をほぐす。


俺の症状もやや悪化気味なので早めに帰りたい。


「さーてと、元に戻るとするかァ」


と立ち上がるとつー、と腿を伝わる液体の感覚。


ついでに回路の閉鎖を試みたが何故か閉じようとするのに閉じる事が出来ずに押しあけられてしまう。



「ゆーな、血!」


楓に言われて足元を見ると靴下と上履きが紅く染まっていた。


「わわっ!?」


「怪我?とにかく患部を探さないと」



と、何故かズボンに手をかけてくる


「ちょ、楓!?」


「大人しくして」


抵抗むなしくぱさり、と軽い音とともに床に落ちるズボン。


ついでに上履きと靴下も剥ぎ取られ下半身は最後の砦を残してほぼ裸に近い状態にされ、楓の視線にさらされる。



「特に傷らしい傷はないみたいだし…」


血の伝う両足を見てそう呟く楓は


「他に何か症状とかある?」


と、聞いてきた


「強いて言えば微熱と頭痛腹痛、あとなんだか魔力が暴走しているような感覚が…」


そう言ったら楓は『なんだ』とホッとした表情を見せて、俺にとって致命傷になるような一言をぶつけてきた。


「それ、生理だよ。遥ちゃんも時期が来ると魔力が暴走気味って言ってたし」


「……………ハイ?」


俺は突然に意外すぎる宣告を受けて頭が処理落ちを起こしているようだ


「もしもし、奈緒先輩。高槻です。えっとですねゆーなについてなんですけど…はい」


そんな俺の目前で佐伯会長に電話をかける楓。


「できれば紗枝先輩にも連絡を…はい、お願いします」


要件を伝え終わったのか通話終了し

「これから紗枝先輩と奈緒会長が来るからちょっと待っ「あれ、まだのこってたん………」」


ガラっ、と勢いよく開けられたドアから半歩踏み出して硬直した遥。


「えっと、なんというか、障害は多いと思うけど…」


慌てて逃げようとする遥


「ちょっと待て。事情説明するから、お願いだから引かないで―」


「ゴメン、流石にあたしは百合(そっち)の気、ないから。」


俺は遥にドン引きされ、説明と弁解に会長たちが来るまでかかってしまった。




 * * *



「まあ、あり得ない話じゃないわよ」

会長と紗枝先輩、先ほどの一悶着から参加が決定した遥への説明が終わったところで出たのが、会長のこの一言だった。


「一般に、精神は肉体に引き摺られるというしね。」


『病気や怪我の時に弱気になるのは体の不調が精神の不調を引き起こしているからだ』という例を挙げて会長は説明してくれたが…


「えっと…姉さん。それって今とどう関係があるの?」


遥は首をかしげる。

楓もやや理解しきれてない様子だ。


「つまり、体は女だから精神も女に近づいて言ってるってこと。」


「だから、なんで精神が女になるのとゆーなの生理が繋がるの?」


まあ、ある意味それは当人である俺も判らない事なのだが…


「おそらく、肉体と精神の祖語が機能を…この場合は女の子としてのだけど、止めてたみたいね。『まだ不完全』って。」


紗枝先輩が補足説明をしてくれたら


「なるほど。つまり、『女の子としての完成』したから生理というこの年代の女の子の機能が正常に動くようになったと」


「そういうこと。」

楓が正解に辿り着いた。



「女としての完成って…そんな事―――」

否定しようと思って、否定材料ではなく肯定材料が見つかってしまった。


そういえば、二週間の『唯奈』としての生活を終えた直後は男に戻っても仕草に女らしさが出てしまった時期が(二、三日だが)あった。


「その様子だと、思い当たる節があるみたいね」


会長の言葉が突き刺さる。


「…はい」

俺は否定できずに項垂れる


「…夏休み明けから、正式に女子部の生徒にした方が楽かもしれないわね。」


その会長の呟きに俺は更に深く項垂れる。



「とりあえず、元に戻るまでウチで面倒は見てあげるわ。困ってる後輩を助けるのは先輩の役割だもの」


「…お世話になります」


こうして、俺の佐伯家逗留が決まり収まるまでの一週間ほどを過ごす事になったのだった。



ちなみに、テスト返却日であり夏休み前最後の登校日である日、俺は公式記録上初めての欠席をした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ