#7‐1
教習所通い始めたとか、大学の講習があったとかで大分遅くなってしまいました。
休みになって、更新速度が低下してしまった………
ついでにクオリティ絶賛低下中。
でもイベントフラグの為に避けては通れない……
六月も末、体育祭という精神崩壊の危機を乗り越えた俺は無事『御剣唯奈の交換留学期間』を終えて元の姿…すなわち『藤谷誠』として聖奏に戻ることが出来た。
戻ることはできたのだが…二週間の間『御剣唯奈』という少女を演じていたせいで歩き方とか立ち振る舞いがだいぶ女性的な物になってしまっていた。
それに気付いたのは一人称を『私』で言いそうになった時でその時は本気で屋上から身投げしたい心情に駆られた。
楽に逝けるわけがなく、むしろ咄嗟に重力軽減と身体強化、あと受け身という防御手段をとって軽傷で済んでしまう可能性が高いのだが。
おかげで土日は思考やら仕草やらを元に戻す作業に費やされることになってしまった。
だが、月曜日。
完全に元通りに近い状態に戻った俺は内心、意気揚々と通学路を行き、教室に―――
『イギリスへ帰れ!』
「なにゆえ!?」
入った途端、クラスの連中から怨嗟の声で迎えられた。
「よし、簡単に事情を説明してやる」
珍しく景山が暴走寸前の面々を押さえて前に出てきた。
なんとなく、久しぶりに教室で会う腐れ縁のこいつが無性に懐かしく思えてしまう。
「まず、この写真を見ろ」
つきだされたのはとある人物が写った写真だった。
「この子がお前と入れ替わりで留学してきた子だ。名前を御剣唯奈という。向こうで暮らす日本人だそうだ」
ついでに言うと、遥と楓の二人も一緒に写っている。
「…はぁ」
「反応が鈍いな。これだけの美少女だぞ!?『ぴーん』とか『ピキーン』とか『キュピーン』とか、『ティン』とか…こう、スパークが走るような何か来ないのか!?」
「全く」
残念ながら、その人物が自分なのでそういう感情は一切湧かない。
だが、それは秘匿しなければならない事なので絶対に言わないが。
「何故だッ!貴様それでも健康かつ健全な男子高校生か!」
「何だよ、その人を不健康で不健全みたいな言い方は」
その時だった。
「…そういえば藤谷ってかなりかわいい幼馴染みがいたよな。」
「ああ、四月に保健室で看病されてるの。俺、見たぞ。思わず鞄を叩きつけちまった」
わずか二人の声が教室に染みわたる。
ギラリ、と人を射殺せそうな視線が刺さり、嫌な汗が出てくる。
「ひっ捕えろ!この彼女持ちに血の制裁をぉぉ!」
「「「おぉぉぉ!!」」」
前にも言った気がするが、聖奏は男子部と女子部が別れている。
流石に小学校は一緒だが、中学と高校は男女別だ。
中等部からの繰り上げ組(もちろん、入学試験ならぬ進学試験を受けて合格しないとダメだ)も高校入試組も、基本的に異性との接点が無い。
それ故、知り合いに女子が居るだけで異端、付き合っていようものなら即処刑といった風潮が、少なくともこの一年三組には存在している。
それはともかく、クラス計三十人余り(九人ほどは遅刻か欠席の様だ)が襲撃をかけてくる。
「うぉおぉ?」
いくら対幻魔で一対多数に慣れているとはいえ、得物無し、殺傷禁止、相手は狂化中では勝ち目がない。
「…お前ら、何やってるんだ?」
担任の今松先生が現れた時、俺は教室最後列に設置された磔台の十字架に鎖で固定されていた。
「ほら、とっとと片づけてホームルーム始めるぞ」
「うぃーっす。おい、そっち持て」
「んあ?二人じゃ無理だ。あと二人!」
結局四人ほどが集まってきて、急に浮遊感に襲われた。
「って、撤去の前に外してくれよ」
「よし、『いち、にのさん』でいくぞ」
「了解」
「うーっし、やるか」
連中は聞く耳持たずでそのまま磔台を横にして
「いち、にの…さん!」
俺は磔台ごと窓の外に投げ捨てられた。
せめてもの幸いは磔台は足の側の方が重くなっているので足から落下する事になることと落下地点が花壇だという事だろうか。
ごん、という鈍い衝撃を感じて俺は予測通り花壇に落着。
幸い、怪我は無いがかなり危なかった。
「とりあえず、救助待ちか…」
誰かが近くを通りかかってくれるのをただ待つ時間は割と早く終わったのだが…
「男子部って面白い人が多いみたいだねぇ」
「そうだね~」
現れた二人組は美術の授業で写生の題材を探している最中の楓と遥だったのが運のつきだった。
二人は磔にされた俺の居る花壇を写生対象にすることを決めたらしく、一限の授業が終わるまで解放してもらえなかった。
* * *
花壇の一件は俺を襲う受難の序曲に過ぎなかった。
「だはぁあ…」
男子部に戻って二週間余。
七月に入り大分暑くなりつつあるこの時期、俺は机に力なく突っ伏していた。
「おうおう、お疲れみたいだな」
「そういうお前は随分と元気だな」
俺は景山にげんなりとした表情のまま返す。
基本的に先の一週間の間におこったトラブルの八割五分はこいつが元凶だった。
「おう。ようやく完成したからテンションが天井破りだ」
確かに、疲労の色は見えるが妙にハイテンションという不思議な状態だった。
「何が完成したんだ?」
「うむ、聖奏学園写真部発行の『ミス聖奏 ver上半期』だ。聖奏学園女子部の綺麗どころ、可愛いどころを集めた写真集だ。ちなみに一冊七五〇円。」
「…女子部の連中に知れたら危ないんじゃないか?」
「写真集の写真は女子写真部の提供で、掲載する写真の選定には女子も関わってる。それに同じ事を女子部もやってるからな。お互い様の必要悪だ」
「…盗撮写真じゃないだろうな」
「倫理的にヤバい写真はないから問題はない。まぁ、生徒会には内緒でやってるけどな」
…こいつ、俺が生徒会の役員だってこと忘れてるのか?
でも
「あの会長なら気付いてそうだけどな」
後で聞いてみよう。そう思いながら言った
「ははは、共学化以来続いてきた伝統をここで途切れさせてたまるかよ」
したら、笑いながら返してくる
「それじゃ、特集本の選定作業があるからまたな」
そう言って景山は教室から出てゆく。
基本的に気さくでいい奴なんだけど、趣味やらやってる事が犯罪ギリギリもしくは犯罪というところがな。
「…そういや、明日から期末試験だけど大丈夫なのか?」
きっと忘れてるんだろうな、あのバカは。
そう思いながらも重い足取りで生徒会室に向かう。
明日から試験と言えど、術師連合の方には関係のない話なのだから。
ただ、ちょっとばかり調子がよろしくなく、軽い頭痛がしてるので『帰ったら早めに休んでおこう』とだけ決めておいた。