#6‐1
更新です。
「それじゃあ、行きますよ!」
元気のいい声で楓が宣言すると同時、その手には割と巨大な焔弾が形成され始める。
「それでは…お先に!」
篠田(俺がドタバタしてた頃に入った同級生の片割れ)が手元に魔力を集め拳銃よろしく打ち出す。
その様子は『ガンド撃ち』に似ているが全くの別物。撃ち出されているのは呪いではなく、篠田の持つ『水』の属性が乗せられた魔力弾だ。
マシンガンの如く連射される篠田の魔力弾攻撃に加え、楓の巨大な焔がただ一人、氷室先輩に襲いかかる。
がががががが…
と、堅い物に着弾する音。
「怖えぇ!本気で殺されると思ったぞ!」
あれだけの集中砲火を受けながらも無傷の氷室先輩の手には名刺サイズのカードが一枚。
「次っ!」
「いくよ、啓作!」
佐伯会長の声に合わせて梨紗先輩が刀片手に切りかかる。
ちなみにあの刀は梨紗先輩が『造った』刀ではなく、俺が『創った』物。
それも勢いよく『何か』とぶつかって刀の方が折れる。
「それじゃ、ラスト!」
『ラスト』と呼ばれて俺はゆっくりと氷室先輩に近づき背後から首に腕を回す。
防御符は何の意味も為さずに俺は氷室先輩を拘束できた。
次はスイッチを切り替えて一般人から魔術師に。
梨紗先輩の視線が痛い。
首に突き付けてる指先に魔力を集めようとしたら勢いよく吹っ飛ばされた。
そんな様子を見て、佐伯会長は満足そうに頷き、
「テストは終了。みんな、お疲れ様」
そう宣言し、氷室先輩は脱力してその場にへたり込んだ。
* * *
「だぁああ…怖えぇよお、前ら。俺に何か恨みでもあるのか!?」
生徒会室に戻った俺たちは氷室先輩にそう言われた。
「といっても、氷室先輩がやらないのなら梨紗先輩が紗枝先輩のどちらかにやってもらうしかないんですよ?」
俺たちが氷室先輩に各種攻撃を仕掛けたのは仲間割れとか、そういう類のモノではない。
先ほど、氷室先輩が持っていたカード…前々から開発を進めていた『防御符』の完成版の実戦テストの為だ。
楓の『焔』、篠田の『魔力弾』、梨紗先輩の『斬撃』。
異能、魔術、物理攻撃の各種に耐えられるか、そして少々特殊な場合の効果はどうなるのか。
それらのテストの為に魔術師ではない氷室先輩が選ばれた。
正確には、最初は梨紗先輩がやるつもりだったみたいだけど氷室先輩が『梨紗にやらせるなら俺がやる』と名乗りを上げたのだが。
「大丈夫ですよ。何かあっても夏元先輩が待機してくれていたんですから」
宥める楓。
うん。俺も何度も殺されかけて治療してもらったなぁ。
「それに俺、見ましたよ。藤谷が変身した時に顔がにやけたの」
と、篠田。
その途端に
「それ、本当?」
梨紗先輩が修羅と化した。
「こっち来なさい」
「ちょ、誤解…いでででで」
耳を引っ張られて生徒会室から出てゆく二人。
「それにしても、変な体してるな。お前」
見送り、氷室先輩の悲鳴らしき声が聞こえてきた頃に一同関心を失って雑談に入る。
最初に話題を提供したのは篠田だった。
「なりたくてなった訳じゃないんだがな」
「えっと、魔術を使う時は女の子になっちゃうんだっけ?」
それに赤城(GW開け組の女子)が食いついてきた。
「あれ?アキラちゃんは見た事無かったっけ?」
楓が不思議そうにした。
まあ、楓や遥はなった直後の裸すら全部見てるから割と『馴染みのモノ』と化してる感があるんだろう。
「うん、私と篠田は出動が掛かっても部室待機組だったから。修業中で」
答える赤城。
実際、篠田も赤城もつい数日前(あの忌々しいお見合い事件のあった週末開けだ)に実戦投入決定となったばかりだ。
必要なければ魔術師化しなかったから部室組に見せた事はまだなかった。
「そ。だから、今見せてよ」
とか言いだす赤城
「なんで態々…ッ!」
そんな事を、そう言いたかったが篠田が指をこちらに向けてきて魔力を集め始めたので慌てて魔術師化して篠田の撃ってきた魔力弾を振り払って打ち消す。
「これで一丁上がりと」
「何しやがる!」
といっても、大体理由は判っている。
俺を魔術師化させるためだけに撃ちやがったのだ、このバカは。
「うわぁ…確かにこれは殺意沸くわ」
そして魔術師になった俺を見て呟く赤城
「で、幾つなの?」
「何が」
突然尋ねられても主語が無いから俺にはよく分からないのだが…
「だから、スリーサイズとか身長とか体重とか」
「知らん。」
というか、測りたくない。
「隠す気?」
尚も追及を進めようとする赤城
「隠すも何も、測ったこと無いぞ」
そう言えば引くと思ったら、逆に火がついてしまい
「よし、今すぐ測ろう。」
「は?」
俺は思わず間抜けな声を出してしまった。
「アキラちゃん、道具が無「大丈夫。」へ?」
道具が無いからまた今度、とでも言ってくれたのであろう楓も遮られる。
遮った張本人の赤城の手にはメジャー。
「今日、家庭科が有って持ってきてるから。」
しゅるしゅる、と三〇センチほど繰り出して縄でも持つかのように構える赤城。
「じゃあ、やるしかないか」
したら楓もあっさりと赤城の側につく。
更には氷室先輩への『O・SHI・O・KI』を終えて戻って来た梨紗先輩や、佐伯会長に呼ばれて来たらしい紗枝先輩、面白そうだから混ぜてと入って来た矢吹先輩が俺の敵になる。
ほぼ、生徒会室内に味方は居ない。
「それでは…ひん剥いちゃえ!」
副会長の梨紗先輩の号令のもと、六人が飛びかかって来る。
とりあえず、篠田は地面に叩きつけて沈めたが残りに取り押さえられた俺はイロイロいじられ、もてあそばれ、測られることになった。
その結果は『身長:165cm 体重:52kg 3S:85-56-88』という数値結果と計測に加わった女子たちの大半の心に深い傷を負わせることで終わった。
「何なのよ、その出鱈目な数字は!」
「俺のせいじゃないですよ!」
そのドタバタ騒ぎはちょっと席を外していた佐伯会長が戻って来るまで続き、原因(?)となった俺に『氷室先輩が復活したら生徒会室の鍵を閉めて帰る』という罰に近い任務が与えられる原因となった。
* * *
「「なんであんな目に…」」
さっさと帰宅した他の面々に取り残された俺と氷室先輩は同時におんなじことを言った。
氷室先輩が復活をしたのは女子陣が帰った三十分後だった。
「…お前は何をされたんだ?」
げんなりとした氷室先輩が尋ねてきた。
「えっと…魔術師状態の体を色々と…」
それだけ言った時点で氷室先輩が止めてきた。
「…苦労したんだな」
ボッコボコにされた割に無傷に見えるのは手加減が上手だったからだろう。
「先輩ほどじゃないですよ」
ついでに俺は『魔術師』の時は女子用の制服を着る事を約束させられた。
「なんでウチの女衆はあんだけ強いのかね」
「まあ、元女子高って話ですからね」
取りとめもなく話ながら歩き、丁度分かれ道に到着し
『きゃぁあああああああああああ!』
「悲鳴ッ!」
俺と氷室先輩が身構える。
「藤谷、先行してくれ。」
「それじゃあ、氷室先輩、コレお願いします」
何枚かのカードをケースごと投げて渡す。
「何だコレは」
訝しむ氷室先輩
「結界符です。使い捨てですけど、位相変異結界を十分くらい張れます」
これは今日氷室先輩の復活待ちの間に作ったものだ。
「ん、任された!」
「お願いします!」
駆け出し、スイッチを切り替え、ついでに制服を『再構築』する。
この再構築をしないと『イタイ目』に遭わされる呪いをかけられた為どうしてもやらざるを得ない。
できないならまだいいのだが、『出来てしまう』からやらざるを得ない。
「…やっぱり恥ずかしい………」
スカートをたなびかせて現場へと急いだ。
背後から広がって来る結界は氷室先輩が渡した結界符を発動させたのだろう。
角を曲がり、悲鳴の元へ
辿り着いた場所ではブロック塀に追い詰められたセーラー服の女子。
聖奏の生徒だった。タイの色は臙脂、高校が紺だから中学部の生徒。
ついでに変位結界の中に居られるという時点で魔術の素養があるのかもしれない。
「ひっ…」
そしてその周囲に居るのは………腐れ死体。
どっちかと言うと動く骨格標本にも見えなくもないのも混ざっている。
確かに、アレに追いかけられたらトラウマ物だ。
少女に迫る動く死体共。
「やらせるかぁッ!」
ポケットに詰めてあった防護符を取りだし、『創った』短刀に刺して投げつける。
それが先頭の動く死体に刺さって結界が展開。
本来『防御』の為に使うモノだが密着状態で発生させたため展開された場所から横に一列が切断される。
結界の新しい使い方のアイディアを頭の隅に入れておいてそのまま『創りだした』刀を振るって死体どもを蹴散らす。
ちら、と少女の方に視線を回すと気絶して倒れている様子。
とりあえず放っておいて構わないだろう。
数の多さが気にならないほど歯ごたえのない動く死体共はあっさりと蹴散せてしまった。
蹴散らせてしまったのだが、上半身と下半身に分けられてもまだ動き、骨の数本が切断されても動こうとする。
蹴散らせたが、倒せない。
「なら、消し飛ばすまで!」
刀と投げた短剣を消し、手に発生させた魔力球で消し飛ばす。
それならば、絶対に生き残らない。
最後の一匹が消し飛んだの確認した俺は気絶している少女の顔を覗き込む。
幸い、傷もないようだし、恐怖で気絶しただけだろう。
「だからって言って、寝かせっぱなしはマズイよな。―――氷室先輩に丸投げするか。」
俺は携帯電話をポケットから引っ張り出して氷室先輩を呼びだし、説明をお願いして逃げる事にした。
が、
「…出ない」
気付いていないのか、居留守なのか電話に出ない。
「仕方ないか。―――君、大丈夫?」
後で大変な事になる予感はあるが、放置はもっと拙い事になる可能性がある。
「―――――ンん」
うっすらと目が開き始める
「…だれ?」
「顔色悪いけど、貧血?」
なるべく優しげな声で誘導を始める事にした。
突然、ハッとして
「あの、お化けは!?」
「お化け?」
何も知らない、何も見ていない
そう演じる。
「えっと、動く骨格標本とか、腐りかけの人の形をした何かとか」
「そんなの、見てないよ?」
嘘。
俺が蹴散らして消し飛ばした。
「そんな………」
「ほら、立てる?」
手を貸して立ちあがらせる。
「まっすぐ家に帰って、一晩立てば大丈夫。忘れられるから」
優しく頭を撫でてあげる。
それで落ち着いてくれ。
「ね?」
「………はい」
「帰れる?」
「大丈夫です」
「うん。それじゃあ、大丈夫みたいだね。まっすぐ帰るんだよ」
「あ、はい!」
俺は何気なく歩きだして一番最初の角を曲がって方向転換をする。
で、一つ目の路地を曲がって人気が無さそうな通りに入れたところでスイッチを切り体を元に戻す。
「で、氷室先輩は…」
携帯電話を開いてみたらメールが一通。
開いてみたら『目立ちそうだから先に行く。ケースは明日の生徒会室で返す』という内容。
「…先輩」
ああ、きっと面倒事が起こるだろうなぁ…と頭を抱えつつ俺も帰路を歩いた。