表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Magius!  作者: 高郷 葱惟
19/67

#4‐4

「ふーん。なるほどね」


リビングで緑茶を飲みながらとなった『説明』を聞き終えた和葉はまるで驚いている様子が無かった。


「あの…まったく驚かないんですね」


なので、楓も尋ねずにはいられない。


「これでも驚いてるわよ。誠が女の子になっちゃったり、繭にこもっちゃったりしてるんだもの」


和葉は楓が持っていた『少女になった誠』の写真を見ながら答える。


「でも、魔術とか言われたら普通信じないと思うんですけど…それに、マナちゃんの擬態を解除したり、ヒスイさん…精霊の張った結界を破ったり…」


『言外に一体何者?』と問う楓。


「使い魔に精霊とは随分とバラエティーに富んでるわね…まあ、私も関係者だし」


「関係者?」


聞き返す楓




「私も高校生の時、生徒会に居たからね。咲月が副会長で陽菜が会計、私が会長。」


「お母さんが?」


記憶が正しければ楓の母―高槻咲月は当時女子高だった聖奏学園の卒業生だ。


その同級生で会長となると…


「それって、全部知ってるってことですか…」

現在の奈緒のポジション。

対魔組織のトップと言う事になる。


「まあ、最近の様子はOB会経由でしか聞いてないけど、魔術とかそこらへんはね。当事者だった訳だし」


そう言われて、楓は納得するしかなかった。


擬態や不可視化の強制解除の術式は聖奏学園の生徒会フロアに展開されている訳だし、結界破りはわりとポピュラーな部類に入る術式だ(と、魔術師組が言っていた)

それに生徒会に入った当初の説明で奈緒はこう言った

『魔力は遺伝し、魔術は継承される』

子供が魔術師ならば親もごくわずかな例外を除けばほぼ全てが魔術師だということだ。


「さてと。それじゃあ、引きこもりの息子の様子をゆっくりと見させてもらいましょうか」


和葉は立ちあがると先ほどの撮影室へと向かってゆき、楓とマナがその後に続いた。



分厚い扉を開き


「へぇ、こりゃまたすさまじい量の魔力ね」


繭を見ての第一声がそれだった。


ヒスイはさっきの会話を聞いていたらしくただ黙って見守るだけだ。


「繭の材質は…糸状にした魔力にしてはしっかり編まれてるわね。…誠の魔術特性は?」


「えっと物質化、だったはず…」


マナが答えると和葉は再び唸りだす


「この糸その物は魔力から作ったとして…中身は」


繭の中では相変わらず、胎児のように丸くなって浮かぶ影が時々動く程度だ。


「うーん…楓ちゃん、この状態になって何日経った?」


「一週間ですけど…」


「私の方でも知り合いの探査系を当たってみるわ。連絡先は楓ちゃんでいいわよね」


「あ、はい。」


『探してみる』

ただ、そう言われているだけなのに、楓は物凄く安心感を覚えていた。



「誠!そんなとこに何時までも引き籠ってると、楓ちゃんを他の男の子に取られちゃうわよ!」


「ちょ、和葉おばさま!?」


突然の事に真っ赤になる楓。


「さ、行きましょ」


楓の手を引いて部屋の外に出る和葉は手で中に居る二人も呼ぶ。



ドアをしっかりと閉めた後、和葉は三人の目を見つめる。


「…三人とも、誠をお願いね」


真剣な、子供を心配する親の顔になった和葉に楓は顔の熱っぽさも一気に吹っ飛ぶ。


「はい」

「うん」

「精一杯、やらせていただきます」


三人の反応に満足したのか、和葉は顔に笑みを戻してちら、と扉の向こう側を見つめるような視線を送る。


「それじゃあ、何かあったら連絡を頂戴ね。」


背中を向けて玄関へと向かう和葉を監視に戻るヒスイ以外の二人は見送りに出る。


そしてドアに手をかけた時、


「ああ、楓ちゃん」

思い出したように言いだす

「なんですか?」


「あの朴念仁が出てきたら『心配料だ』って言ってキスの一つでもしてもらっちゃいなさい。」


「ななな…何を…」

再び真っ赤になる楓。

マナが見た限りではさっきの『取られる宣告』のときよりも赤かった。


「まったく、あの人に似て色恋沙汰(こういうの)に疎いんだから。そろそろ彼女の一人や二人紹介しに来なさいっての。ああ、あの子は基本的に『押し』に弱いから頑張ってね。それじゃ」


言うだけ言ってから、ドアを閉めて去ってゆく和葉。



「うー…」


楓は頭がごっちゃになって唸ることしかできなくなっていた。


けれども、『やってみようかな?』と頭の片隅で思った楓は急ぎ足で撮影室に安置された繭の元に向かう。


「カエデさん?」


様子を不審に思ったヒスイが呼ぶが楓は全く反応を返さず、散々深呼吸を繰り返した後


「とーや、ううん誠!散々皆を…私を心配させて…タダで済むと思ってるの!?」


防音のなされた撮影室でなければ近所迷惑になりそうな大きさの声で繭に呼びかける。


「繭から出てきたらき……き、き………」


そこでたっぷり数秒間躊躇ってから


「き、キスしてくれるまで許さないから!」


言い終わってから、自分が何をしたのか気付いた楓は再び真っ赤になって撮影室を飛び出していった。

その後、開け放たれた撮影室のドアの外からマナがびっくりした声が聞こえてきたからおそらく外に飛び出していったのだろう。

「あらあら」


…楓が飛び出していった直後、繭の中の影がもぞもぞと動き魔力の渦の渦巻く速度が上がったことに誰も気付いていなかった。


 * * *


『自分の幼馴染みの母親が第31代学生術師連合総長だった』

『自分の母親と友達(と先輩)の母親と幼馴染みの母親が同級生で学生当時親友で戦友だった』

『正気に戻ってみたら物凄く恥ずかしい事を大声で言っていたことに気付き悶々としていた』

etc. etc.


そんなこんなで気がついたら放課後を迎え藤谷家の前まで来たのは良いのだが…


楓は玄関前のところで鍵を片手にフリーズしていた。


「どうしよう…物凄く入りにくい」


昨日のあの『キ(以下略』宣言を思い出してしまい鍵を開ける事を躊躇ってしまう。



「………出直そうかな」


とりあえず、一度離れて落ち着こう。


そう思って振り返り、ふと不審な人影を見つけた。

ちょっと離れたところからこっちを窺っている。


パッと見の外見だとセーラー服を着ているように見える。

まあ、セーラー服は珍しい物ではない。なんせ聖奏が制服として採用している。

…他の市立はブレザーで睦斗学院は男子高なので市内唯一と言えるが。


つまり、あの不審人物が変装しているか、仮装して出歩くイタイ人でなければ聖奏学園の生徒と言う事になる。


楓は立ち去るフリをして角を曲がったところでこっそりと様子をうかがう。


その人物は誠の家の前で様子を窺って一度呼び鈴を押す。


が、反応が無い(鍵を持っている楓と和葉以外はマナが『関係者』であると認識しない限り反応を返さない事になっている)ので立ち去ろうと楓の隠れている側に歩きだす。


楓が『不審人物』の顔を確認できたのはこの時だった。


「遥?」


予想外な人物に思わず声に出してしまった。


その為、相手も楓に気付く。

「え?楓?」


驚く遥。


「なんで楓がこっちに?楓の家はもうチョイ学校寄りだよね」


「そういう遥こそ、逆方向じゃなかったっけ?」


互いに『ここに居る筈がない』という思いがあった。


「私は、幼馴染みの家がこの辺だから。――遥は?」


「あたしは―バイト仲間が病気してるらしいから様子見に」


そう言うが楓は遥の声色からその『仲間』に恋心を抱いているのだろう、とあっさり見抜けてしまった。

顔を赤らめれば当然だがバレるものだ。



だが、なんか嫌な予感がして『その人の家は何処か』その問を出そうとしたが


ピロロロロ


楓の携帯電話が鳴って中断となった。


携帯電話に着信した電話の相手は『藤谷誠』と書かれていた。


「遥、ちょっとゴメン。事情説明はまた今度!」


遥は駆け出す


「え?ちょ、楓?」


何が何だか分からないがただ事ではないと察した遥も後を追った


* * *


「マナちゃん!」


「あ、楓…」


楓が撮影室に飛び込んだ時、マナが誠の携帯電話を握りしめ涙目になっていた。


「ヒスイさん、何が?」


「判りません。ですが、つい先ほどから内側から光が溢れだしてきて…」


「とにかく、会長に連絡を…!」


マナから携帯電話を受け取り奈緒へ電話をかけようと電話帳を開いた時、


「か、楓?」


「遥!」


撮影室のドアが開いて恐る恐る遥が入って来た。


「カエデさん!」



ヒスイの声に振り向くと繭に割れ目が出来、そこから光が溢れ出てきていた。


「羽化が…遥っ!」


「え?きゃっ!」


楓が遥を突き飛ばし、庇うように覆いかぶさる


その直後、ヒスイが咄嗟に張った結界の中に繭から溢れだした光が充満した。






 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・










「っ、たたた…大丈夫?遥。」


暴力的なまでの光が収まり、楓は遥の上から退いた。


「うぅ、まだ目がチカチカする…何なの一体…」



「マナちゃんとヒスイさんは?」

とりあえず大丈夫な事を確認した楓は次に自分たち二人を庇ってくれたマナとヒスイを探し、二人とも一応無事そうな事を確認して、ようやく繭に目が行った。



微かな割れ目がゆっくりと繭全体に広がっていく。


「そ、そうだ!会長に連絡しないと!」


握りしめていた携帯電話を開き、電話帳にある『佐伯会長』のリストを開いて電話をかけたらその僅か五分後には新入りの一年二人を除く全員が揃った。


そして、全員が集まった事を確認したかのように、皹の入った繭が、砕けた。


繭に守られていた『ソレ』はまるで漆黒の衣を纏っているかのようだった。



「………なにあれ」

「…誠?」


砕けた繭が光の欠片となって散る中、二人はただ呟くしかできなかった。


「――回路形成(マジックサーキット)確認(チェック)………形成完了確認(オールグリーン)同調開始(アクセス)


繭から出てきた『ソレ』は立ったまま恐る恐る見守る生徒会の面々の前で『呪文』のような事を呟き始めた。

まるで生気と呼べるものが無い瞳に一同は寒気を抱く。


いや、確かにそれは呪文だったのだろう。


「―――回路分岐点(スイッチ)形成確認(チェック)。――身体状態(ヘルスチェック)万全(オールグリーン)術式(マギコード)正常稼働(オールグリーン)


ただ淡々と、呟きのようなのに、まるで世界への宣言のように響く声が紡がれる。


起動準備(ファイナライズ)……問題なし(オールグリーン)回路(サーキット)閉鎖(クローズ)


そして、最後の言葉を紡ぎ終えた『ソレ』の瞳に輝きが戻り、操り糸が切れた人形のように倒れ込んだ。


「わっ」


一番近くに居た楓が慌てて抱き支える。


『ただいま』


『ソレ』に触れた時、楓にはそう聞こえた。


だから、こう言う。


「おかえり。」


そして、愛おしそうにぎゅっと抱きしめた。


今回はどちらかと言うとインターミッション的な物でした。


むしろフラグ立ての為の回になってしまった感が…


でも、この回をやらないと話が進められないんですよ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ