#4‐1
第四話です。
後に『魔の五連休』と呼ばれることになった連休が明けた月曜日の朝
俺は致命的な事に気付いてしまった。
「…制服が、ない」
ついでに言うと、生徒手帳や携帯電話もない。
土曜日の対魔術師戦のときにきれいさっぱり吹き飛んでしまったからなのだが、すっかり忘れていた。
一応ズボンは夏服用、ワイシャツは着回し用の予備を使えばいいが上着の詰襟が無いのだ。
「困ったな…」
とりあえず、サイズの合わないスラックスとワイシャツを着ては置くが、袖も裾も余ってかなり不自然だった。
遅刻が確定する時間が刻一刻と迫る
「…仕方ない。不慮の事故で盛大に汚れたから洗ってるってことにしよう。」
結果、いい訳を考えておいて諦める事にした。
違和感だらけだろうなぁ…
そう思いながらも何かあったら会長に泣きつこうと安易に考えて俺は学校へ行くことにした。
* * *
家を出た時間がギリギリならば到着するのもギリギリだ。
俺は予鈴が鳴る直前に教室に飛び込むことになった。
「セーフ」
なんとか予鈴前に教室に辿り着いた俺だったが、俺の教室到着と同時に連休明けの朝の喧騒がぴたり、と止んだ。
視線が俺に集まり、物凄く居心地が悪い。
「な、なんだよ」
そう言いながらも『やっぱり、違和感だらけだよな』と思う。
これは確実に認識操作とかやってもらわないと。
そう会長に泣きつこうと決めた直後
『『『『『萌えの神様、ありがとうございます!』』』』』
クラスに居るほぼ全員が祈りをささげながらそう叫んだ。
「…は?」
俺としてはただ唖然とするだけだ。
『いやー、流石神様。判ってらっしゃる』
『藤谷には姉属性が合うと思ってたが、やっぱ妹も有りだな。』
『小さいと和むわぁ』
『あの制服に着られている感がたまらん』
『ビバ、ロリ属性持ち男の娘』
ざわめきだすクラスメイトたち。
内容が物凄く不穏だ。
というか、どんな神か知らないが、そんなロクでもなさそうな神はさっさと滅んでしまえばいいと思う。
「おーい、お前ら。欲望ダダ漏れな声が廊下まで響いてるぞ。藤谷、お前も早く席につけ」
担任の今松教諭(35歳、男性、独身の数学教師だ)が現れた。
「あ、はい」
さっきのクラスの連中もそうだったが、先生もなんの違和感もなく俺と認識しているらしい。
『声もイイ…』
『罵られたい』
『いや、そこはやっぱり見た目からして「お兄ちゃん」だろう』
『同意はするが、お前がやるな』
『気持ち悪い』
『地獄へ落ちろ』
『ひでぇ』
そんなに俺は小さいのか?
ともかく、お前ら全員地獄へ落ちればいいんだ。
そんな黒い事考えながら俺は自分の席に着く。
「それじゃ、出席を取るぞ。赤居」
「うぃっす」
「朝牧」
「はいッス」
「おい、景山。どうなってるんだ?」
出欠確認中に俺は比較的席が近い、中学からの友人(?)である景山に声をかけた。
こいつは外面はスポーツ少年にしか見えないが中学からずっと写真部のカメラ小僧。被写体に問題が少々有るが腕は確かなヤツだ。
が、
「うむ。ベストポジションだ。これなら…む、どうした?」
返事の代わりに何やら不謹慎というか、不穏な声が帰って来た。
「いや、なんでもない」
こいつに聞いてもきっと精神的にダメージを受けるような答えしか返って来そうにないので俺は状況把握を諦めた
「次、藤谷」
「はい」
『はわぁ………』
…だからなんだよその余韻に浸るみたいな声は
結局、俺が制服の上着(詰襟)を着ていないことも背が縮んだことも特に問題に上がることなく授業が始まった。
…それにしても、何故に今日は音読やら口頭回答に当てられる回数が多いんだ?
* * *
「だはぁああ…」
放課後、俺は逃げるようにして生徒会室に行き、自分のデスクに突っ伏した。
本当は昼休みの時点で行くつもりだったのだが、これといって召集もかかってなかった(というか、かかってても連絡手段がない)し、クラスの連中に拘束されていた為断念した。
くぅぅ…
そういえば、昼飯も食わせてもらえなかった事を思い出す
「………今、食うか」
会長ほか先輩方や楓はまだ来ていない。
さっきまで梨紗先輩がいたが呼び出しされて入れ違いで出て行ってしまった。
つまり、俺一人なわけである。
久々の一人という環境はなんとも居心地がよくて
「………平和だなぁ」
まったく休めなかった連休を思い出し、そんな言葉をつぶやいていた。