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Magius!  作者: 高郷 葱惟
14/67

#3‐6

これで『魔の五連休』はあと一日残ってますけど終わりです。

残る一日は『魔の五連休 事後処理編』ってところでしょうかね。

「まったく、無茶苦茶ね。」


学校に戻って一番最初の声が会長のそれだった。


生徒会室の壁に貼られた地図には銀色に光る点がかなりの数ある。


それは俺が配置して廻った監視術式の反応なのだろう。


「まあ、全部に配置できたのは有り難いわね。…後は動きを見せるまで待機、ね。」


「他の学校の面々も俺が監視術式の配置が出来た時点で近場の拠点に引き上げて休憩中だそうです」


拠点というのは学校だったり、公園だったりするのだが…



「ところで、夜まで拘束しちゃって構わないんですか?」


俺はふと疑問に思ったことを聞いてみた


「大丈夫よ。その為の『生徒会活動』だもの」


「なるほど」


生徒会での活動で突然の呼び出しがあった、厄介な件なのでヒマがかかった。という流れなのだ。


「それに、生徒会役員になる魔術師系生徒の親も基本的には元学生術師連合関係者よ。」


だから、学生術師連合は成り立っているという訳なのか。


「もとより関係者って事ですか」


「そういうことよ。…さて、この騒ぎの為のダミーイベントの企画も作っておかないと」



そう言いながら執務机に戻る会長を俺は苦笑いして見送った。


 * * *


事態が動いたのは時計が午後八時を指した頃だった。


突然地図上にあった『監視用』の術式の反応が消えたのだ。


それもいくつも同時に。


青マルエリアが盛大に消えているがそれ以外にも数か所、消えている。


「ここまで分散して消えるとはね…各校で担当域の確認を。フォローは聖奏と睦斗学院で行うわ。連絡を怠らないで」


『判ったわ。』

『中々周到ね』

『了解した』

『第一、第二、第五へは出動をかけたぞ。』


一気にあわただしくなる室内。


そんな中で楓がただ一人、地図を睨んでいた。


「どうした?」


「………なんか引っかかるんだよね」


「んにゃ?どれどれ」

「何処がだ?」

マナと俺も地図を見る。



消えているのは睦斗市全体のうち睦斗中央駅のある中央、住宅地になっている北部から東北部、繁華街が広がる西部


「…南東部が空白地帯になってるな」

空白地帯といっても監視の術式が消されていないだけだ。


「………乗せられたみたいね」


背後から会長が言った。


「乗せられたって…」


「信乃、佐織、藤堂君、惣一、各地点の確認が終わったら監視役以外の動ける人数を南東側へ回して。ウチらで探すけど、確実に人手不足よ。氷室君は梨紗と藤谷くん、楓ちゃんの三人と先行して。凛は大規模結界の用意をしておいて。氷室君が戻ってきたら現場へ。ひかりも、ちょっと覚悟お願い。」



その直後、南東側の監視点が円形に消えた。


「来たわ、一刻を争うわよ!」


「行くぞ!梨紗、藤谷、高槻!」


生徒会室を駆け出す氷室先輩について俺たちは駆け出し、屋上からコンの背中に乗って監視が消された地点の中心へと急いだ。


 * * *


「先輩、あそこです!」


俺がコンの背中から指さした地点は中心からは少し離れた公園だった。


「あそこに何が有るんだ!?」


「大昔に、一度空いた穴が有る筈なんです。俺も、資料を見てなかったらただの『大きな魔力溜まり』としか思わなかったと思います」


つまり、特大の魔力溜まりと思って内壁に穴を開け魔力を取りだそうとしたら外壁に「穴が開く」危険性のある場所。


俺も詳しいことを理解している訳ではないが、とりあえず『触れるな危険』なのは確かだ。



「………何も無いぞ?」


少し高度を落したが何もなくて訝しむ氷室先輩。


「認識阻害か、あるいは結界の一種か…俺、飛び込んでみます」

思い付く『理由』を挙げてみる。

佐伯会長ならばもっと的確に多くの種類を出してくれるだろうが、俺の知識ではそんなものだ。


「とーや!?」


「会長が言ってたろ。『一刻を争う』ってさ。」


それで『むぅ…』と唸る楓。


頭では納得しているが、感情が納得していない。そんな表情だ


まあ、わりと直情型だからなぁ…


「大丈夫だ。任せとけ」


そう言ったら楓は泣きそうな顔をこっちに向け、瞬時に表情を切り替えて


「すー、はー」


大きく深呼吸、そののちに巨大な火球を発生させて『目標地点』に叩きつけた。


が、途中で飛散する火球。


「結界か…」


「まだまだッ!」


続いて二発目、三発目を撃ち込む楓。


「氷室先輩、降りますから高度の維持、お願いします」


「おい!」


氷室先輩の制止を振り切って俺はコンの背中から飛び降りる。


今飛んでいる場所は地上十数メートル。

普通ならただじゃ済まないが魔術師には『その程度』の距離の落下を軟着陸にすることは可能だ。


術式集に魔力を流し、軟着陸。


魔力で形成した刀を結界につきたてる。



「結界ってのは、精密な術式だ。だから、力技の干渉には、弱い」


例外は矢吹先輩のような『異能』による結界だが、それでも破壊する方法が無いわけではないらしい。


俺はつきたてた刀から魔力を流し込み、術式に過負荷を与えてほころびを作る。


そのほころびに魔力が入り込み、術式に深刻なダメージを与えてゆく。



パキン


そんな、アクリルやプラスチックが割れるような安っぽい音を立てて結界が壊れた。

それと同時、見覚えのある結界が辺り一面を覆う。

どうやら、結界の破壊と同時に矢吹先輩か誰か(みかた)が新しく張り直したようだ。


「ッ!」


結界の中では、既に公園の砂に描かれた魔方陣がまばゆい輝きを放っていた。


その中心に居るスーツ姿の男は結界の破壊に驚くが術式の阻止は不可能だろうという余裕か、笑みを浮かべている。


むしょうに腹が立つ。


思い切り地面を蹴って刀を振り被る。


「ッ!?」


驚愕に歪む、魔術師の顔。


容赦なく叩きこんだ一撃は目測通り腹を強打し魔方陣の外へと吹き飛ばす。


地面を転がる魔術師の男はそのまま起きあ上がってこなかった。



…気絶しているのだろうか。


だとすればなんて軟弱な………




その時、魔方陣が輝きを失うどころか異常な輝き方をしていることに気がついた。



原因を探してみると、すぐに判った。


最初に踏み込んだ時と、吹っ飛ばされた魔術師が転がった時。

その二回で精密に作られていた魔方陣を完全に壊してしまったようだ。


つまり


「暴走かよ…」


制御者を失い、従うべき術式を失った魔力が、暴発しようとしているのだ。


逃げるべきか、数瞬の迷いのうちに周囲に壁が再生してきた。


「ッ!」


壁が出来上がる直前にあの魔術師が吐血しながら起き上っていた。


「くそ…」


完全に壁に覆われた状態で俺は悪態をつく。


地脈から吸い上げられた魔力が渦巻くこの場所では精密な魔力の運用はできない。


俺が使う『魔力の物質化』だって、『イメージという型を壊さない程度』に注ぐ魔力を手加減しないと成立しないものだ。



足元からまきあがる魔力の奔流がまるで風のように感じる。


「…そうだ!」


その時に思いだした。


俺には沢山の精霊の残滓が取りついている。


そいつらに魔力を吸収させれば?


だが、その為には俺の体を通る必要がある。




「………大丈夫だ。約束もした。大丈夫だ」


持ってくれよ。


そう祈りながら俺は大気中の魔力を吸い上げて自分の魔力にかぶせて使う術式を起動させた。



「グッ…」


みるみるまに巨大化する魔力球。

それと同時に幾柱もの精霊が力を取り戻して元の姿へと戻ってゆく。



「こんちくしょう、負けて、やるかよ!」


それを最後に、俺の意識は銀白の光に包まれた。


 * * *



「とーやぁッ!」


楓は悲鳴のような声をあげて、光の暴風が渦巻く結界の中に居る幼馴染みを呼ぶ。


結界のすぐ傍らには口元に血がついたスーツ姿の男…今回の元凶となった魔術師の姿。



『あんな場所で、自分の逃げ場をなくすような真似をするとーやじゃない。だとすれば?』


その答えを楓は言葉ではなく手に巨大な火球で出す。


魔術の事はまったく判らないけど、最後の悪あがきをしたんだろう。


そう思った楓はニヤケ顔で魔力が中を蹂躙する結界を見る魔術師にむかって巨大な火球を叩きつけようとした。



叩きつけようとして、梨紗に止められた。


「梨紗先輩!なんで止めるんですか」


楓は自分が涙目になっていることに気付かないまま声をあげる。


制御が甘くなった火球は勢いを失って消える。


「それ、直撃させたら人間は跡形もないわ。たとえ魔術師でも、致命傷は避けられない。『それ』をやって藤谷くんは喜ぶのかしらね」


「…っ」


楓は息を呑んだ


「それに、アイツは『大丈夫だ』って言ったんだろ?信じてやるのが筋だと思うがな。コン、やってしまえ」


ふぎゅる、とコンに踏まれて止めを刺された魔術師はその場にぐったりと倒れ込む。


だが、『致命的な一撃』ではないのである程度時間が立てば復活するだろう。


その後で、術師連合による拷問が待っているのだが。



「大丈夫だよ。マスターの接点(ライン)は切れてない。」


マナがそう言いながら魔術師の頭を踏みつける。


普段『とーや』と呼ぶマナがあえて『マスター』という単語を使ったのは『魔術師と使い魔』という関係が維持されていることを語る為だった。


それが一応なりと無事であることを証明している。



「とーや………」



『大丈夫』っていったんだから、信じてるんだから帰って来て。


祈らずにはいられない楓だった。


そして、結界の中を満たしていた魔力の奔流が散ると魔力の漏出を防いでいた結界が役割を終えたと言わんばかりに消滅する。


その中にあるのは小さな半円の結界。


半透明なそれからは中に人が横たわっている様子がシルエットで見て取れた。



下手人の拘束、護送を執行部に任せた魔術師たちはその半透明の結界の解除を試みていた。


だが、堅牢なそれは中々に解除や破壊が出来ず、ただ補助系術師のプライドに傷をつけてゆくだけだ。


手詰まりになって一斉攻撃でもしかけてみようか、なんて話が上がったころ、楓がふらふらと結界に近づいた。



「ねぇ、とーや。いつまでサボってるつもり?はやく出てきてよ」


ポツリポツリ、と呟き始める。


「…早く出てきて、皆を安心させてよ、とーやっ!」


だん!と楓の握りこぶしが結界の表面を叩く。



その時だった。



ぴし、と音がしてその場に居る全員が結界の方を見る。


よくよく見ると結界にヒビが入っていた。



ヒビがだんだんと広がると周囲からもやれ『英雄の御帰還だ』とか『ヒーローインタビューの用意しとけ』とか、『女子を泣かせるとはけしからん。袋叩きの用意だ』とかの声がし始める。



カシャン、と硝子の砕け散るような音をたてて結界が割れ、その場に居た全員が目を疑い、開いた口が閉じられなくなった。


な、長かった………

前編15,190文字+後編8,251文字=合計23,441文字


#1が14,000位、#2が11,000位だから単純に倍近い文字数…



伏線と趣味を混ぜたのがいけなかったのかなぁ…



あと、イツノマニPV1000トッパシテタンダロ…

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