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Magius!  作者: 高郷 葱惟
13/67

#3‐5

[五月六日 GW4日目]

『いい?明後日!明後日に突然いなくなった埋め合わせをしてもらうからね!』


そんな留守電を聞いたのは四日目の朝のことだった。



一日中動き回りながら、食事は夕飯一回(料理する気力が底をついていたからカップ麺で妥協した)なんていう不健康な生活に俺は

『今日はもう一日何が有っても動くものか!』


と懲りずに、『二度寝三度寝当たり前、怠惰上等』という憧れ(?)の堕落生活を今日こそ…



そう決意し、二度寝を決行しようとした数分後、携帯電話にメールが届いた。



「このパターンは………」


ここまでの三日間、朝すぐに連絡があった時というと全て『用事があるからすぐ動け』という連絡だった。


『二度あることは三度ある』


そのことわざが頭をよぎる。



『無視してしまえ』という気持ちも罪悪感に負けて俺は携帯電話を開く。



『差出人:聖奏学園生徒会 タイトル:緊急招集』


無視しなくてよかった。


本気でそう思った。




メールの内容を見ると集合時間と俺宛の伝言。


「九時に学校集合か。」


まだ二時間ほどあるが、伝言によると『睦斗警察でここ数日の事件ファイルの写しを貰って来い』という指示が出ている。

「二度寝はマズイな。これは」


クローゼットにかけてある制服を出しておきマナを起こす。



生徒会アドレスから来た連絡で『緊急』となると心当たりはただ一つ。


「『裏』の事件、か」


まったく、休む暇のない連休だ。


そう、何度目か判らない溜め息をつきつつ俺は支度を急いだ。


 * * *


「休み中に悪いわね」


『緊急事態、なんでしょ?』

『なら、仕方ないわよ』


生徒会室には聖奏生徒会の面々以外にも、第六高校の吉川会長、第四高校の有沢会長、第三高校の藤堂会長、それに睦斗学院の藤澤会長が画像通信(インターネットを利用している)で集まっていた。


「早速だけど、本題に入らせてもらうわ。…睦斗市に魔術師が侵入したわ。目的はおそらく魔法へ至る為の『儀式魔術』の実行。我々はこれの阻止に当たります。」


佐伯会長の断固とした態度に俺たちは息を呑む。


『すまんが、質問だ。何故儀式を行わせてはならないんだ?それに何故わざわざ片田舎である睦斗市(ここ)でやる必要があるんだ?』


そんな中でこの場に居る唯一の『魔術師関係者』ではない藤澤会長が疑問の声をあげた。


「…それじゃあ、説明するわ。先ず、概念として『霊地』って言うものについて。」


佐伯会長が何やらペンで線が数本書かれたこの地方の地図をカメラに向けた。


「この赤い線と青い線、どっちも地脈っていう『力』の流れているラインなんだけど、丁度この交点に睦斗市があるの。」


ペン先で指す地点には確かに『睦斗市』という文字。


「こうやって『地脈が交差している場所』は魔力や霊力っていった『力』が集まり易いのよ。だから、睦斗市には化け物の出現率も高いし精霊がいる率も高いの。…こういう場所を『霊地』って言うんだけど…」


佐伯会長は地図のページを変え、日本地図を開く。

そこには『赤い点』が沢山あった。


「当然、ここ以外にも沢山あるわ。日光とか出雲とか、京都や東京もね。当然、日本以外にも世界中にある。」


そんな中でただ一つだけある『黒い点』を佐伯会長は指す。


「そんな霊地の中で唯一つ、他にない特徴を持った霊地があるの。」


『それは?』


睦斗(ここ)。ここは地殻エネルギーが潤沢にあり、なおかつ地脈の交差点。更に百年くらい前の地震で起こった断層で力が『溜まり易い』の。どう?大量の魔力を使う儀式をやるには持ってこいでしょ。まあ、そうポンポンバカでかい魔力を使う儀式をされると霊地に悪影響を与えちゃうし、『魔術の秘匿』が出来ないから取り締まる『管理組織』がある訳だけど…」


ただし、それは魔術師に限らず『陰陽師』だったり『神主』だったり『法師』だったりと色々だが。

それを知った時俺は『事実は小説より奇なり』という言葉が本当だと改めて思わされた。


ちなみに睦斗市に関しては俺たち『学生術師連合』とOB・OG会が管理に当たっている。


…と言っても、俺が関わることになったのは今回が初めてだが。


『で、その特徴とやらは何なんだ?』


「世界の壁が薄いの。『脆い』と言い換えてもいいかもしれないわね」


『世界の壁!?』


突拍子もない話で藤澤会長が裏返りかけた声をあげる。


「そう。その外側に何が有って、壁が壊れると何が起こるかは『やってみないと判らない』けど、『取り返しがつかないことになる』のは確かよ。」


ごくり、と息を呑む音。


「昔、睦斗市で儀式を行った『魔術師』が居たんだけど、その時は『異次元の存在』と思われる怪物が大量に流入してきて大惨事になりかけたわ。」


『!』


「それは戦後すぐだったから被害はそれほど多くなかった。けどそれ以来このあたりでは『幻魔』と呼ばれる怪物が現れるようになったわ。だから術師連合が出来て、儀式をやろうとする術師を拷問レベルの袋叩きに遭わせたり怪物の処理をするようになったんだけど」



『そうだったのか………』


「判ってもらえたようね。事の重大さが。」


『ああ。だが、どうするんだ?』


「今から各校に指定するポイントに監視を配置してもらうわ。各地点に必ず魔術師か精霊が一人は居て、単独行動ではない事が必須条件。」


『…つまり、術師と武装生徒の混成部隊ってことか』


『交代要員の確保もしないといけないわね』


考えるように顎に手を添える会長方


「術師連合OB会にも要請を出して人を集めます。それと並行して聖奏(ウチ)で関係各位への事情説明と情報収集。判り次第遊撃戦力に連絡を回すわ」


『『『『了解』』』』


「それでは、この場は解散ね。担当してもらう指定ポイントは会長宛のメールで送るわ。執行部に関しては一括して藤澤会長に送ります。班構成、よろしく。あと監視担当の責任者は担当地区の生徒会長に一任します。執行部は対魔術師戦のスキルを得る為の実戦訓練だと思ってください」


『ああ』

『任されたわ』

『了解』

『不本意だが、了解した。次からは足手纏いと言わせないつもりだ』


それぞれで言って通信が切れる。



ふう、と一息ついた佐伯会長は席を立ち、


「凛と梨紗で市役所を初めとする関係各位に連絡」


「はい」「了解」


「氷室君は各校へメールで指定ポイントを送って。」


「うぃっす」


「藤谷くんと楓ちゃんはここ一週間の事件事故から『魔術に関わりのありそうな件』をピックアップして地図上に記入(マッピング)。」


「了解です」「はい」


「さあ、怖い物知らずの術師(バカ)を懲らしめに行くわよ」



会長の声を受けて氷室先輩はパソコンに向かい、矢吹先輩と梨紗先輩は荷物をまとめて出かける支度を始める。

俺と楓は会長に渡された地図と今朝受け取って来た資料をデスクに広げ作業を始める準備をした。


 * * *


「うーん、これは…」


「見事に散らばってるね」


二人で魔術に関わりのありそうな事件―たとえば俺が遭遇したウィステリアでの『犯人が錯乱していた』など―の発生場所をピックアップしてみたが市街全体に散らばってしまった。

事件全体は黒い中抜きの丸、魔術関連はその中を赤く塗りつぶしたのだが、塗りつぶされた○は到る所にあり共通点など見出すことはできなかった。



「ここから共通点を見出すのは一苦労…」


俺は調書のコピーを見て『もうひとつマッピングできる要素』を見つけた。


「楓、事件事故の犯人の現住所をマッピングしてみよう」


「え?」


「手掛かりになるかもしれない」


マッピング作業中、ふと『またか』と思ったことを思い出した。


それは犯人や事故を起こした人物の現住所。


もしかすると、そこから何か見つかるかもしれない…


そう思って青い点を書き込み始めたら、見事に『ある数か所』に集中した。

いくつか例外的に飛んでいるのもあるが、十分に無視できる『誤差』だ


「会長!」


「何か判ったの?」


会長が俺と楓の間から地図を覗きこむ。


「この黒ぶち赤マルと青マルは?」


「黒ぶちが事件全体、黒ぶちの赤マルが魔術関連と疑われる件、青マルは原因となった人の現住所です」


楓が説明すると『なるほどね』と呟く会長。


「二人でこのポイントを回って、周辺にある『地脈の澱み』を片っ端から『監視の目』を配置して来て」


会長がA7版のノートを投げてくる。

開くと中にはびっしりとルーン文字と何やらアルファベットやらギリシャ文字やら、よく分からない文字で式が書かれていた。


「それの1ページ目が探査、8ページ目が監視用、9ページ目が認識阻害で次は結界。基本は探査符と同じよ。」

それは『プログラム式』と呼ばれるルーンをベースにした『魔力を流すことで誰でも使える魔術』の方式の術式集だった。


「了解しました。」


ちら、と楓の方に視線をやると既に席を立ち鞄を用意している



「緊急連絡は私の携帯電話に。部室の電話を使うよりも確実よ」


「それじゃ、連絡しないで済むことを願いますよ」



「頑張って来いよ」


「それじゃ、いってきます」


地図は楓の鞄へ、術式集は俺の制服の内ポケットへ仕舞い出発した。


 * * *


「これで終わりだね。」


出発から一時間、地図上で青マルの集中している地区の『魔力溜まり』全てに認識阻害をかけた監視術式が設置し終わった。


「ああ………」


俺はなんとなくだが『気持ち悪さ』が付きまとっていた。


「どうしたの、とーや」


「いや、なんだか『狭すぎる』気がしてな」


「狭すぎる?」


そう、青マル集中エリア付近といってもそれほど広い範囲では無い。


「まるで『このあたりで実験をやる』と言わんばかりだろ?」


俺は思い立って携帯電話を取り出し佐伯会長に電話をかける。


『どうしたの、何か問題が?』


「いえ、ちょっと気になったことが有って」


『気になったこと?』


「青マルエリアが狭すぎるんですよ。だから他の地区の魔力溜まりにも監視を配置しようと思います。良いですよね?」


『まあ、維持に使う魔力が持てば…だけど』


「それじゃあ、『念の為』に廻ります。楓はどうします?」


『今のところ、本部は問題なし。楓ちゃんの判断に任せるわ』


「了解」


電話を切ってポケットに戻すと楓が寄って来る



「どうだって?」


「こっちに任せるってさ。楓はどうする?学校に戻るか?」


「行くよ」


「わかった。それじゃ市内巡りだ」



それから市内全部の『魔力溜まり』をめぐり監視術式を仕掛けてゆく。


全てに配置が終わったのはもう日が暮れそうな六時近くのことだった。


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