第26話 衝撃の告白が天使たちを襲う!!
よろしくお願いします。
今日も何とか一日乗り切って、俺はセピアと肩を並べて駅への道を歩いていた。
バーガンディーの襲撃を受けて重篤な容体だったセピアであったが、何とか回復して今では会社に復帰していた。
それにしてもうちの会社にも有休なんて制度あったんだな。
「そういや、最近、会社の業務が上手く回るようになったような気がするんだけど、セピアは裏で何かしてるってことはないよな?」
「ああ、気が付きましたか? ちょっと役員や上司連中の精神にちょちょいと干渉しておいたんです」
「そんなことやってたの!?」
「従業員の多くが黒の心臓持ちで思わず、えっ?ってなりましたからね。もちろん先輩ほどの力を宿した心臓はありませんでしたが」
なるほど、ブラック企業をホワイトにするなんて天使ちゃんマジ天使。
いや、発想が少し怖い気もするが……。
「あ、あまりやり過ぎないようにな?」
「はい! すみません」
セピアがテヘペロといった表情をすると、俺の胸が高鳴るのを感じる。
俺は不覚にもドキッとさせられていた。
いかん。セピアを意識しているみたいだ。
顔が熱い。
夜でなければ、紅潮した顔をセピアに見られてしまうかも知れないな。
俺は周囲が薄暗いことに感謝した。
その時、セピアが真剣な声色で俺にささやいた。
「先輩。鬼です。しかもかなり……多い!」
「何だって!?」
俺の言葉にセピアが執行官形態に移る。
そして左腕のギミックから小さなディスプレイが飛び出した。
そこにはレーダーのような画面と赤い点々が疎らに表示されている。
セピアがレーダーを確認する。
俺の視界にも赤色の点が飛び込んでくる。
凄まじい数だ。20体近くいるんじゃないだろうか?
「救援を呼びます。先輩はここで待機していてください」
「セピアは大丈夫なのか? すごい数だぞ?」
俺は立ち上がると脇腹の調子を確かめる。
若干の痛みはあれど何とか動けそうだ。
「先輩は回復と、鬼の攻撃をかわすことだけを考えてください」
「了解」
セピアがそう言って飛び立つと、あっという間に見えなくなってしまった。
俺はと言うとレーダーの赤い点の場所を思い出していた。
あれは俺たちを包囲するかのように展開していた。
とてもじゃないが逃げ切れない。
それにしても、今回の襲撃には違和感を覚える。
いつものように散発的ではなく組織的なのだ。
俺はとりあえず、脇道に入って回復に専念する事にした。
しばらく爆音が鳴り響き、空が光輝いた。
霊的エネルギーも感じるので、セピアが戦っているのがよく分かる。
くそ!
狙われてるのは俺なのに、ただ護られているだけってのが気に食わない。
そんなことを考えていると、背後から気配がした。
暗い闇の中から現れたのは、羅刹が2体であった。
俺はすぐに反対方向へと向かう。
大通りに戻ると、今度は左右から羅刹と修羅がやってくる。
鬼のいない方向へとダッシュで移動する。
その時、後ろから大きな爆発音が響いた。
何事かとそちらに目をやると1体の修羅が手をこちらに向けている。
その手の平には黒い霊的エネルギーがその大きさを増していく。
「勘弁してくれよ……おい」
バランスボールくらいの大きさはあるだろうか。
修羅が黒子力弾を俺に向けて放つ。
それはかなりのスピードで俺に迫ってきた。
俺は慌てて体を捻って左側へと身を投げ出す。
黒子力弾は一陣の風となって俺の横を通り抜け、さっきまで俺がいた辺りで爆発すると、爆風と破壊を撒き散らしてエネルギーの余波が荒れ狂う。
ヘッドスライディングのような体勢から立ち上がると、目の前の壁の上から新手の鬼が顔を出す。
四面楚歌。
もう囲まれてしまっている。
「覚悟を決めるか……」
俺は刀を出してゆっくりと構えると、周囲の鬼を牽制しつつ、全方向に意識を向ける。そしてタイミングを見て飛び出そうかとした瞬間、空から何かが落ちてきた。
「なッ……!?」
目の前に迫っていた鬼の体が突如、綺麗に左右真っ二つになったのだ。
何が起こった!?
呆気にとられた俺が目を白黒させている内に鬼の体が塵になっていく。
「もう、お兄ちゃん、感謝してよねッ!」
聞き覚えのある声だ。それにこの姿は――
「ルージュか!?」
「ピンポーン。お兄ちゃんは黙って見てて」
ルージュがこちらに振り向きつつ、キメ顔でそう言った。
背中には黒光りする4枚の翼。
更に暗闇の中に凛とした声が木霊する。
「【冥界に眠りし暗黒の龍よ、暗黒の魂よ、暗黒の力を我らに示せッ! 黒龍咆哮】」
今度は俺の近くにいた修羅が黒い奔流に飲み込まれ消滅する。
声の方へ目をやるとそこには、ルージュの上司、スカーレットが6枚の黒い翼を見せつけるようになびかせながらドヤ顔をしていた。
魔術を放ったのはスカーレットのようだ。
彼女は腕を組みながら、気持ちのいい笑顔を俺に向けて言った。
「魔人になる気になったかい? 阿久聖君」
※ ※ ※
ルージュとスカーレットが参戦した後は一方的な戦いとなった。
2人の魔神は鬼たちを圧倒し次々と葬っていく。
どこからともなく、次から次へと湧いてくる鬼であったが、2人によって殲滅されその数を減らしていく。
最初の数よりも増えてるんじゃないか?
離れたところにいるはずのセピアの元にも多くの鬼がいるはずなのだ。
俺がここにいないセピアの事を心配していると、いつの間にか横に来ていたルージュがぶーたれたような声を上げた。
「あ、お兄ちゃん、あの天使のこと考えてるでしょ?」
頭の中を見透かされて面食らった俺だったが素直にそれを認める。
「ん? ああ、セピア1人だからな」
「なによう。助けに来た時くらい感謝してくれたって……」
「ああ、ルージュ達のお陰で助かった。ありがとう」
「んあッ!?」
ルージュは少し間抜けな声を上げて固まった。
俺も助けてくれた相手に冷淡な言葉を投げかけるほど人間堕ちちゃいない。
なんやかんやと世話を焼いてくれるルージュに対して俺は既に好感を抱いていた。
その時、遠くから光り輝く翼を持った天使がこちらへ向かって飛んでくるのが見えた。
1人ではない。
7人ほどいるようだ。
そして凄い速度で接近すると、俺の傍に降り立つ天使たち。
「先輩! 無事でしたか!」
開口一番そう言い放ったセピアは俺に駆け寄ると相好を崩した。
「ああ、ルージュたちに助けられた。俺1人だったら死んでたよ」
セピアはギンッとルージュの方に目を向けたものの文句は言わなかった。
残りの6人の天使は、バーミリオン以外は知らない天使だ。
バーミリオンは手を挙げて「よッ」と俺に一声かけると、スカーレットの方を向いてガンを飛ばし始めた。
「あのーまだ、バグが残ってるんで後にしてもらってもいいですか?」
セピアが睨みあう2人にそう声をかける。
俺も同感だ。
まだ10体ほどの鬼がこちらの様子を窺っている。
「でも、こんな組織だった動きは初めてですね」
「てか、そちらの天使たちは何者なんだ?」
「バグ殲滅部隊の面々です。近くにいるのが分かったので来てもらいました」
「おしゃべりはそれ位にしたら? 来るわよ」
ルージュが少しイラだったような声で俺とセピアに告げる。
とは言え、天使7人と魔神2人の力の前には鬼が多少増えたところでお話にもならない。鬼たちは10分とかからず、全て黒い塵に変えられてしまった。
鬼がいなくなって俺がホッと胸をなでおろしたのも束の間、今度は天使と魔神の睨み合いが始まった。
こいつらめんどくせぇ……。
まぁ仕方ないんだろうけどさ。
とにかく終わったんだし早く帰ろうぜ……。
焦れた俺が、口を開きかけるとバグ殲滅部隊の天使たちが何やら話し始めた。
「しかし、こんな大規模な群れが地上に現れるなんて初めてだな」
「ああ、黒の心臓を狙うバグは増える一方だ」
天使達にとっては軽い世間話のつもりだったのだろう。
そう素朴な疑問を口にした時、突如としてスカーレットが笑い出した。
愉快そうに。滑稽な者を見るかのような視線を天使に向けて。
「ははッ……お前ら本当に何も知らないんだな……」
「なッ、どういう意味だッ!」
「はぁ……せっかくの機会だ。純真真っ直ぐな天使様に教えてやろう」
スカーレットはひとしきり笑い終えると、腕を組んだまま尊大な態度で話し始めた。
「バグ共は間違いなく、人間、そしてこの阿久聖君の黒の心臓を狙っている。それは分かるな?」
「舐めるなよ魔神風情が。バグの目的が黒の心臓だと言うことくらい知っている。黒の心臓を持つ人間を護るために組織されたのが我々なのだからな!」
バグ殲滅部隊の天使の内の1人が大きな声で怒鳴りつける。
「その黒の心臓だが何故、神の現身たる人間に宿ったんだろうな?」
「そんなことは我らには関係ない。我々は人間を護ると言う任務を全うするだけだ」
「チッ……そう言うのを思考の放棄だと……まぁいい。……その任務だが、黒の心臓持ちの人間は今や天文学的なまでに増えている。それに対してその人間を護る天使の数は少なすぎると思わないか?」
「何が言いたい……」
天使たちは皆一様に怪訝な表情を作り、口々に魔神へ罵詈雑言を投げかけ始めた。
セピアとバーミリオンだけは黙ってスカーレットの話を聞いている。
何か思うところがあるのだろうか?
セピアは熾天使のフォグブルーが言っていた話を思い出しているのかも知れない。
「話を変えよう。バグはその核に漆黒結晶とよばれる黒い魂の結晶を宿している」
「舐めるなと言ったはずだ! そんなことは我々だって知っているッ!」
「ではこれはどうだ? その結晶は人間の黒の心臓を喰った鬼の体内で濃縮されることでより純度が増すことは知っているか?」
「濃縮だと……?」
「生物濃縮と言う言葉を聞いたことくらいはあるだろう?」
スカーレットは小馬鹿にしたような口調で天使たちを煽り続ける。
最初の勢いはどこへやら、天使たちは段々と口数が減っていく。
「心当たりはないか? 漆黒結晶の取り扱いについて……」
「……」
誰も何も答えない。
天使たちからは困惑の色が見え隠れしている。
それでもスカーレットは止まらない。
「お前ら、バグ殲滅部隊や神器回収部隊の他にも部隊があるのは知っているだろう?」
「当たり前だッ!」
「その中に秘密の部隊があってな……。その部隊名を〈黒の夢〉と言う」
天使たちは初耳なのだろう、お互いに顔を見合わせて何やら言葉を交わしている。
セピアとバーミリオンの表情も訝し気なものへと変わっていた。
「そいつらは一体何をやっているか知っているか?」
「知る訳がないだろう。それに秘密の組織など聞いたことがない」
「フッ……それはそうだな。知っている訳がないよな。そりゃ秘密部隊なんだから当然だよな」
勿体ぶった話し方を続けるスカーレットに焦れたであろう天使の1人が彼女へ向けて怒鳴りつける。
「貴様ッ……さっきから一体何が言いたいのだッ!」
「そいつらの任務さ」
「任務だと……?」
「そう。とは言ってもお前らと似たようなものだ。回収しているんだよ。高純度の漆黒結晶……そして強い力を持つ黒の心臓をな」
「……? 漆黒結晶と黒の心臓の回収だと……? それがどうしたと言うのだ?」
天使たちはまるで意味が理解できないと言った表情をしている。
バーミリオンはスカーレットを睨みつけると苛立ちの混じった声で言った。
「漆黒結晶はバグ殲滅部隊や我々、神器回収部隊でも回収している。バグと戦闘になった場合にだがな……」
「ああ、せっかくの漆黒結晶だ。破壊してしまうのは勿体ないからな……。当然の話だろうさ」
「勿体ないだと……?」
確か熾天使のフォグブルーが研究・解析のために回収しろと言っていたな。回収するからには何か使い道があるんだろう。
「私が言いたいのは、漆黒結晶と黒の心臓の使い道さね」
「使い道だと? そんなことは貴様ら魔神には関係のないことだろう」
だから解析班が調査を行っているんだろ?
そう思いながら俺は感じていた。
ああ、違うのか、と。
スカーレットは知っているのだ。
本当の使い道を。
天使たちが理解しているのかは分からないが、セピアとバーミリオンはスカーレットが何を言いたいか、薄々気が付いてるみたいだな。
今までと表情が違う。
「まぁ聞け。回収された漆黒結晶は、その性質の調査や解析に使われている……と言ってもそれは表向きの理由だがな」
「ッ!?」
天使たちに動揺が走る。
明らかに狼狽している者すらいるほどだ。
ようやくスカーレットの言いたいことが見えてきたのだろう。
「回収された漆黒結晶をな……喰ってる奴らがいるのさ」
「はぁ!? 漆黒結晶は黒子力の結晶なんだぞッ? 天使が喰っているとでも言うつもりかッ! 何故わざわざ喰らう必要があるッ!?」
「フッ……何故か? お前ら心の準備は出来たか?」
「なんだと……?」
「お前ら心の準備は出来たか?と言っている」
最早、誰も何も答えない。
その沈黙を肯定と捉えたのか、スカーレットはその端整な顔を歪めてその口を開いた。
「では教えてやろう。天使が何故、漆黒結晶を回収しているか? それは漆黒結晶が神や天使にとって最高の快楽物質にあたるからだ」」
「ッ!?」
絶句する天使の面々を置き去りにして、スカーレットはゆっくりと焦らすように言葉を続ける。
彼女もまた喰っているのかも知れない。
天使たちの負の感情を。
「鬼から人間を護る部隊を作った理由はな……人間が神の子でありそれを保護すると言う体裁を取り繕うためだ。神が漆黒結晶を集める真の目的は……それを喰ってトリップするためなんだよ」
天使が息を飲む音が聞える。
スカーレットが一呼吸置いて再び口を開く。
「理解したか? つまりお前らの神はドラッグの常用者って訳さ」
「馬鹿な! そんな馬鹿な話があってたまるか!」
「神が真に絶対的存在ならばバグの如き存在が許されると思うのか?」
「ッ!?」
「人間は神の子などではないッ! 人間は餌、バグは捕食者で、地球は養殖場なのだ」
「黙れ黙れ黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
今まで黙って聞いていたバーミリオンは剣を抜き放つと、スカーレットに飛びかかってその頭上に思い切り振り下ろす。
その一撃を持っていた黒い剣で軽々と受け止め、スカーレットはなおも口撃を続ける。
「帰って上位の天使にでも聞いてみたらどうだ? 案外、仲間にいれてくれるかも知れないぞ? 常用者の仲間にな」
ますます挑発的な物言いを続けるスカーレットの天使たちへと向ける視線には、侮蔑と嫌悪の色がありありと浮かび上がっていた。
お読み頂きありがとうございました。
引き続きお付き合い下さいませ。




