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DRUG TREATMENT~神魔大戦・聖ナル決断ノ刻~  作者: 波 七海


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24/27

第24話 隔絶した圧倒的なまでの差にドン引きなんだが

よろしくお願いします。

 平然と佇むバーガンディー。

 闇の結界に護られた橘刹那。


 バーガンディーが橘刹那を護ったのか。


 ここで橘刹那を倒しきれなかったのは痛い。

 最上級魔神と言う存在がどれ程のものなのか知らない俺でも現状がどれほど絶望的なのかは分かる。俺を軽くあしらった魔人を眷属に持つ者だ。その強さは計り知れないだろう。



「もう終わりか? ではこちらも反撃しようか」



 バーガンディーがにこやかな笑みを浮かべながら声高に宣言する。

 そして絶望の詠唱が俺の耳に届いた。


 天使たちは詠唱時の無防備な隙を狙ってバーガンディーに殺到する。

 それと同時にバーミリオンは俺とセピアの下へ降り立った。

 執行官形態《エクスキューショナーモード》のフェイルガードで覆われているため表情こそ分からないが、悲鳴に近い声でバーミリオンが叫ぶ。



「そいつには手を出すなッ! 退けッ!」




 そして無慈悲な言葉が紡《つむ》がれた。




 バーガンディーが詠《よ》む。


「【魔神《デヴィル》の中の魔神《デヴィル》に申し上げる。地獄《ハデス》を統《す》べる全ての王よ、冥界の宰相よ、全能たる堕天使よ、必要なのは其《そ》、捧げるのは我らが黒子力《ダルク》。是を代償に禍々凶々(まがまがきょうきょう)、異界極天《いかいごくてん》、煉獄蛇蝎《れんごくだかつ》……】」




バーミリオンが詠む。


「【星々の熱量と質量が生み出す力ここにあり、超新星《スーパーノヴァ》の爆発さえも抑え込む我らが神《マザー》よ、全能たらしめるその叡智と光子《こうし》の残響を呼び出せ……】」




セピアが詠む。


「【破邪《はじゃ》の秘法あり、究極の護神《ごしん》ここにあり、天にまします神《マザー》の御業《みわざ》あり、猶猶《なおなお》、惑星《ほし》の下位神よ、あまねく光子《こうし》、揺蕩《たゆた》う金色《こんじき》、極界《きょくてん》の臨界《りんかい》を超越し……】」




 天使たちはバーミリオンの言葉に従わず、各々《おのおの》違った得物を持って詠《よ》みたる魔神《デヴィル》に襲い掛かる。

 しかし、相手はは最上級魔神である。

 悉く攻撃が当たっているにもかかわらず、欠片《かけら》程の痛痒《つうよう》すら与えていないように見える。天使たちが狼狽しているのがここからでも理解できた。


 圧倒的ッ!


 まさに圧倒的ッ! 


 バーガンディーがゆらりと揺らめく。

 その瞬間、2人の天使がその胸を手で貫かれていた。

 失速した鳥のようにゆっくりと落ちていく天使たち。

 その体が光粒子《ルークアロン》となって消滅していく。

 残りの3人もあまりにも隔絶した力の差を理解したらしい。


 しかし遅かった。


 あまりに遅すぎた。


 詠唱を続けながら、その漆黒の魔神《デヴィル》は軽々(かるがる)と天使たちを葬り去った。


 まるで群がる蠅を叩き落とすように。




 そして――




 バーガンディー、バーミリオン、セピア――

 3人の術が完成した。



「【六天魔撃《ナンバーシックス》】」

「【神曲狂奏《ダンデリオン》】」

「【神々極々(マザー・ツー)】」



 闇の六芒星がセピア色の空に出現した。

 それが回転しながら闇の奔流を吐き出す。


 漆黒の闇の奔流がまるでこの世の全てを飲み込んだかのように荒れ狂う。

 しかし闇が全てを支配する事はなかった。

 闇の中に仄かな光が種火のように灯った。

 セピアとバーミリオンが使用した神術は攻撃用ではなく、大規模防御神術だったのだ。


 俺は光子《こうし》の力場《りきば》に護られて闇の奔流から逃れた。


 大地が悲鳴をあげるかのような地鳴りが黒の心臓(ブロークン)を揺るがす。


 耳をつんざくような残響。

 やがて闇は塵のように儚くも消えてゆく。

 俺たちは凶悪なまでの黒子力《ダルク》から辛くも生き残ったのであった。



「なん……だと……?」



 そこには驚愕の表情をしたバーガンディーが立っていた。

 隣の橘刹那も信じられないものを見るかのような目で俺たちを凝視している。

 一時は硬直したかのように動かなかったバーガンディーであったが、程なく正気を取り戻したのか両手を広げて大げさに哄笑する。



「ハハッ! フハハハハハハッ! やるなッ! 手加減しているとは言え、たかが能天使《パワー》と天使如きが俺の極大魔術を防ぎきるとはッ!」



 手加減したのは、あいつの目的は俺を喰う事だからだろう。


 バーガンディーは周囲に何も無くなったまっさらな大地に降り立つと、こちらに向かって静かに歩き出した。

 セピアとバーミリオンの息は荒い。

 動けない俺とセピアを傍目《はため》にバーミリオンが飛び出す。


 直接攻撃を仕掛けるつもりかッ!



「ハッハァッ! 破れかぶれと言うヤツか? 面白いッ!」



 バーガンディーの馬鹿にしたような哄笑《こうしょう》が更に大きくなる。

 そこにバーミリオンの渾身《こんしん》の一撃が魔神《デヴィル》の顔面を捉えた。彼女は更にその武装化された凶悪なまでにメカメカしい腕で連続で殴り続ける。



「クハハハハハッ! 面白い! 面白いぞッ! 貴様!」



 狂ってやがる……。

 一方的に殴られながらも余裕の態度は全く崩れない。


 その攻撃がどれほど続いただろうか?

 不意にバーガンディーが握手を求めるかのようにそっと手をつきだした。

 流石にバーミリオンも反応するが、その右手はあっさりとバーガンディーに捕えられていた。



「捕まえたな」


「くそがッ!」



 バーミリオンが吠える。



「【極天画撃《ミリオン・ロー》】」



 かなりの光子力《ルメス》を乗せた左手による一撃がバーガンディーに迫る。


 ハンマーで金属を殴りつけたかのような甲高くも重い音が周囲に響き渡る。


 バーガンディーは己の右手で振り抜いてあっさりとその一撃を弾き飛ばす。

 恐らく渾身《こんしん》の一撃だったのだろう、それを軽く弾かれて、バーミリオンの動揺の色が濃くなった。

 表情は見えないが、そこにあるのは絶望か。



「本物の拳を見せてやる」



 バーガンディーがそう言い放つとのの右手が唸《うな》る。



「【黒天殴殺《ガルドリアン》】」



 グシャッと鈍い音が辺りに響く。

 あまりに速い魔神《デヴィル》の殴打によってバーミリオンは簡単に吹っ飛ばされる。彼女は地面に何度も叩きつけられてようやく止まった。



「脆いな」



 そう言うと、こちらに顔を向ける。

 その顔は柔和な笑みが張り付いていた。

 笑顔で人を殴り殺せるタイプ――人外ならば普通なのか。


 一歩、また一歩と俺の方へ向かってくる。

 そこへセピアの声が響いた。



「バーミリオン様!」



 声につられて彼女の方に顔を向けると胸のプレートを完全に破壊されながらも何とか立ち上がろうとするバーミリオンの姿があった。



「驚いたな。能天使《パワー》如きがアレを喰らってまだ立ち上がるとは」



 バーミリオンはよろよろと覚束ない足取りでこちらに向かって歩き出す。

 だがバーガンディーは相手にしない。

 彼女がもう何もできないと判断したのだろう。

 こちらに向き直り再び歩き出し、ゆっくりと近づいてくる。


 橘刹那の方はダメージで動けないようだが、実力の底が知れないバーガンディーが俺の黒の心臓(ブロークン)を喰おうとやってくる。


 こんなヤツに勝てるか――


 俺が死を覚悟したその時、地面に魔術陣が描かれ、その空間に闇が生まれた。


 ここにきて新手の魔神《デヴィル》かよッ!


 横目で魔術陣を確認した俺は、バーガンディーたちに視線を戻す。

 しかし何故か、橘刹那は悔しそうな表情でそれを見つめている。

 肝心のバーガンディーはと言うと、その魔術陣を見て……動揺している?


 その顔には焦りの色が見え隠れしていた。

 俺の方をギンと睨みつけると、飛びかかってきた。

 その右手は暗黒に染まっている。

 あんな攻撃じゃ俺の防御シールドなんて簡単にブチ抜かれてしまうだろう。


 勘でとっさに右側に体を投げ出す俺。

 バーガンディーは凄まじい反応速度で向きを変えると、俺に向かって右手を突き出す。


 ――避けきれない!


 その時、俺の左手からセピアが飛び出した。

 俺とバーガンディーとの間に割り込む形で。

 金属がひしゃげたような不快な音が耳に届いた。



「ガハッ」



 俺の目に飛び込んできたのは、腹の辺りをバーガンディーの右手に貫かれたセピアの姿だった。



「セピアァァァァァ!」



 俺は思わず大声で叫んでいた。

 そこへバーミリオンが飛んできて一気に間合いを詰めると、その右ストレートが魔神《デヴィル》バーガンディーの顔面を捉える。

 もう大した力もないと思って油断していたのか、バーミリオンの一撃を彼は防がなかった。流石に無傷と言う訳にもいかなかったようで、たまらず仰《の》け反《ぞ》るバーガンディー。恐らく神術を使って光子力《ルメス》を直接叩き込んだのだろう。


 しかしバーガンディーは倒れない。

 一歩足を引いただけでその場に踏みとどまる。


 対して俺は、まるで力の抜けた抜け殻のように膝から崩れ落ちるセピアをすんでのところで抱きとめる。

 フェイスガードをしていない彼女の頬をペチペチと叩きながら俺は名前を叫び続けた。彼女の腹に空いた穴からは光粒子《ルークアロン》がふわふわと舞っていて幻想的な雰囲気を醸し出している。



「バーミリオン! 超回復は間に合わないのかッ?」


「はぁ……はぁ……私の光子力《ルメス》を分ける……キミはどいていろ」



 光子力《ルメス》を上手く扱えない俺ではセピアは助けられない。

 俺は大人しく引き下がると、攻撃の手を止めた魔神《デヴィル》たちの様子を窺った。


 そこには知らない人物、いや魔神《デヴィル》が出現していた。

 バーガンディーと同じ背中に煌めく12枚の黒い翼。

 それはバーガンディーと同格の存在であることを物語っている。


 その魔神《デヴィル》は、チラリと俺の方を見てから口を開く。

 黒髪ロングの端整な顔には吸い込まれそうな深い漆黒の瞳が印象的だ。



「バーガンディー。地獄《ハデス》の盟約……忘れたか?」


「……ふん。忘れてなどいない」



 一瞬、悔しそうな表情がバーガンディーに浮かぶ。



「ならば、この件は私が預かるぞ?」


「チッ、遊び過ぎたか……勝手にしろ」



 バーガンディーは橘刹那に目をやってコクリと頷くと、魔術陣を展開して虚空に消えた。そして橘刹那もコツコツと足音を残してどこかへと去って行く。


 2人が退場したのを見届けて、その魔神《デヴィル》は俺に話し掛ける。



「さて、阿久聖くん。スカーレットから報告は聞いているよ。そろそろ魔人《まじん》になる気になったかな?」


「……セピアを傷つけたお前たちに加勢しろと言うのか」



 思わず敵対的な目を向けると、いつの間にかスカーレットが近くへ来ていた。

 傍にはルージュも一緒だ。



「ローシェンナ様……」



 ローシェンナと呼ばれたその魔神《デヴィル》はそれをまったく意に介さずに俺に向かって言葉を続ける。



「阿久聖くん。君の黒の心臓(ブロークン)から溢れ出る黒子力《ダルク》の量は銀河を覆い尽くすほどのものだ。君がもし魔人《まじん》になれば、鬼だけでなく神格の高い天使すら造作もなく滅ぼせるだろう」



 そんな事を言われても俺の答えは決まっている。



「悪いが俺は魔人《まじん》になる気はない。セピアに助けてもらった恩もあるからな」


「そうか……。君の気が変わることを願っているよ」



 もっとしつこく勧誘されるかと思っていたが、拍子抜けするほど簡単に彼女は諦めたようだ。彼女はスカーレットとルージュに何やら告げると魔術陣を展開していずこかへ消えた。


 ようやく浴び続けていた圧力《プレッシャー》から解放されたせいなのか、どっと疲れが押し寄せてくる。

 俺はバーミリオンにセピアの状況を確認するために彼女たちの方へ歩み寄った。



「セピアはどうですか?」


「神核《しんかく》を貫かれていたら滅んでいたかも知れないが、幸いにもそれていたようだ」


「じゃあ、無事なんですね!」


「ああ、少し回復までに時間がかかるだろうがね」



 彼女はセピアをお姫様だっこすると、神術陣を展開して姿を消した。

 後には光粒子《ルークアロン》が漂うのみ。

 俺はぼんやりとそれを眺めていたが、ふと我に返ると大きなため息をついた。

 セピアにはまた助けられてしまった。

 最早返しきれない程の恩だ。


 今は彼女の回復を祈ろう。


 いつの間にか世界が色を取り戻している。

 日常の喧騒もまた戻って来ていた。



「あーどこだここは」



 俺は、自分の家《うち》に帰るべく、家の方向へと歩き始める。

 多分、あっちの方だろうと当たりをつけて。

 後ろからそろそろとルージュが着いてくる。



「な、なによ。あたしの部屋でもあるんだからね!」



 ルージュはそう叫ぶと、俺の手を取ってふわりと空中に浮かぶ。

 そしてさっさと家《うち》がある方向へと移動を開始した。


 俺はルージュに手を握られながら己《おのれ》の無力さを痛感していた。

お読み頂きありがとうございました。

引き続きお付き合い下さいませ。

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