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DRUG TREATMENT~神魔大戦・聖ナル決断ノ刻~  作者: 波 七海


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10/11

第10話 天使のお偉いさんが何だかヤンキーっぽいんだが?

よろしくお願いします。

 今日は久々に21時前に会社を出る事ができた。

 セピアと並んで帰り道を歩いていると、不意に彼女が声をかけてくる。



「先輩、ちょっと時間いいですか?」


「ん? 何?」


「私の上司が近くにいるので、会ってもらいたいと言うか……」


「ああ、天使も上下関係あるんだな。別に構わないけど」



 それを聞いた俺としては何だか複雑で、少しばかりげっそりしながら答える。

 セピアは俺の返事を聞くと、どこかに電話をかけ始めた。

 当然、上司を呼んでいるんだろう。

 と言うか連絡手段がスマホなのかよと内心ツッコミを入れる。


 先日寄ったファミレスに入ると、空いているボックス席に案内される。

 すぐに到着すると言うのでドリンクバーだけ頼むと、コーヒーを入れて一息つく。


 セピアはと言うと、またメロンソーダにしたようだ。

 グラス一杯に注いで席に戻ると、一気にそれを呷《あお》る。

 全くもって良い飲みっぷりだ。


 セピアが何度、メロンソーダのお代わりに席を立った頃だろうか?

 俺たちの席に近づく影があった。

 どうやら女性のようだ。

 近づいてきた女性は金髪に黒いジャージ姿で右耳にシルバーのピアスをしていた。

 美人なのに、くたびれたジャージ姿なので色々台無しである。

 セピアは顔を上げると、手を挙げてその女性を呼んだ。


 ってか丸っきり田舎のヤンキーやんけ。


 女性はセピアに手を振って応えると、迷わずに彼女の隣に腰かける。

 そして俺の顔をまじまじと見つめて口を開いた。



「初めまして。阿久聖クン。私はバーミリオンと言う。セピアの上位天使だよ」



 バーミリオンの言葉に俺は軽い会釈で応える。



「近くで見ると、本当にすごいね。全身に黒粒子《ダークアロン》が漲《みなぎ》っているように感じる」


「黒粒子《ダークアロン》?」


「ああ、霊体を構成する極小の粒子だよ。我々天使の持つ力とは正反対のものだけどね」


「人間は皆持っているんですか?」


「いや、人間は神に祝福された存在だからね。本来なら光粒子《ルークアロン》を持っていて、その身に光子力《ルメス》を宿しているはずなんだ。しかし最近、黒の心臓(ブロークン)を持っている人間が増えてきてね。我々も憂慮しているところなんだよ。神器《セイクリッド・アームズ》の事は聞いたかな?」


「はい。彼女から聞きました。私の魂に宿っているって」



 俺がセピアの方をチラリと見ると、そこに彼女はいなかった。

 慌てて店内を見渡すと、コーヒーカップを持ってドリンクバーの方からこちらにやってくるのが見えた。


 どうやらバーミリオンのためにドリンクを取りに行っていたようだ。

 流石は、部下である。

 どこの世界も上下関係は厳しいらしい。



「今、神器《セイクリッド・アームズ》が世界中に散逸していてね。それを回収するのが我々の役目って訳。それを宿すキミが黒の心臓(ブロークン)持ちだとは思いもよらなかったけどね。キミの黒子力《ダルク》が膨大なのもそのせいなんだろう」


「黒子力《ダルク》?」


「ああ、光子力《ルメス》の対極に当たる霊的エネルギーのことだよ」



 バーミリオンはセピアが持って来たコーヒーを口にしてほぅっと息を吐く。



「それにしても、このコーヒーって飲み物は実にいいね。苦くて体に悪そうな色がまた良い。コーヒーは人間が発明した至高の飲み物だと思うよ」



 ファミレスのドリンクバーのコーヒーをここまで褒めるなんて安上がりな天使様だと内心思いつつ、俺は苦笑いで返す。



「今、神器《セイクリッド・アームズ》を取り出す能力を持つ天使を手配しているから、まぁしばらく待っててくれるかな?」



 さて本題の時間だ。

 俺は当然の疑問をぶつける事にした。



「それは別にいいんですが、私はこれからもあの鬼のような生物に襲われ続けるんでしょうか?」



 彼女は俺の言葉に少し考えた素振りを見せた後、納得したかのようにうなずくと話始めた。


「鬼? ああ、バグたちのことだね。ヤツらは黒の心臓(ブロークン)を狙ってくるんだ。これからも襲われる可能性は大きいだろうね」


「ふむ。それじゃあ、私から神器《セイクリッド・アームズ》を回収したとしてあなた方はそれからどうするんでしょうか?」


「神器《セイクリッド・アームズ》を回収したら、我々はまた別の神器《セイクリッド・アームズ》を探し始めるだろうね」


「もし回収できたとしても私の黒の心臓(ブロークン)は残るんですよね? それでは鬼に襲われ続けるって事なんじゃないんですか?」


「……」



 やっぱりそうか。

 俺の言葉はどうやら核心をついたようだ。

 バーミリオンは閉口《へいこう》して場に沈黙が訪れる。

 セピアもどこか気まずそうに顔を背けている。



「鋭いね。確かに我々がいなくなったらキミは鬼に喰われてしまうだろうね」


「別に死ぬのは構わないんですが、できれば喰われて死ぬのだけは勘弁して欲しいところです」



 俺の言葉に彼女はハハッと乾いた笑声を上げると、俺の目をじっと見つめる。



「正論だね。実は、我々天使は人間と契約する事で力を与えることができるんだ。天使の力を与えられた人間は神人《しんじん》と言われ、天使の力を行使できるようになる」


「後は1人で戦い抜けと?」


「何もないよりはいいだろう? 天界《ヘヴン》はずっと1人の人間にくっついていられるほど人手が余っている訳じゃないからね」



 俺が余程嫌そうな顔をしていたのか、バーミリオンは明るい口調で付け加える。



「まぁ地球(エデン)にはバグ殲滅部隊もいる。そこまで心配する必要はないよ」



 バグ殲滅部隊ねぇ……。

 以前、セピアが死ぬまで傍《そば》にいると言っていたが、アレは神器《セイクリッド・アームズ》のためであって、決して黒の心臓(ブロークン)を持つ俺を護るためじゃないんだな。


 何故だか少しガッカリしている自分がいて多少驚いた。



「他に何か聞きたいことはあるかい?」



 彼女の言葉に俺が腕組みをして考える素振りを見せると、セピアが待ってましたとばかりに口を開いた。



「実は、彼の近くに魔神《デヴィル》が現れました。神器《セイクリッド・アームズ》を狙っていると思われます」



 ああ、確か今朝、魔神《デヴィル》って言葉を聞いたな。

 そんな事を思い出すと同時に、何故かルージュの笑顔が脳裏を過《よぎ》る。



「ふーん。魔神《デヴィル》がねぇ……。阿久クン、魔神《デヴィル》の言葉に惑わされないようにね。キミも人間辞めたくないでしょ?」



 神人《しんじん》になるのだって人間辞めるってことだろうが。

 俺は一応頷くと、彼女に更なる疑問をぶつける。



「魔神《デヴィル》って一体どんな存在なんですか?」


「魔神《デヴィル》は神《マザー》に叛逆《はんぎゃく》した存在だよ。この世界を蝕《むしば》む癌のようなものさ。陰でこそこそと世界の理《ことわり》を乱そうとしている。ヤツらは天使の仇敵《きゅうてき》と言ってもいい」



 バーミリオンがその端整な顔立ちを歪ませて魔神《デヴィル》に対する怒りを吐露する。

 せっかくの美人が台無しである。

 まぁ、ショタショタのジャージを着ている時点で残念美人なんだが。


 しかし魔神《デヴィル》はそれほどまでに忌み嫌うべき存在なのだろうか?

 昔の事など何も知らないが、彼女の魔神《デヴィル》に対する物言いは激しいものだ。


 言葉の端々からそれが感じられる。

 それ程までに神……天使と魔神《デヴィル》は凄惨《せいさん》な歴史を刻んできたのか?



「鬼の襲撃は何とかならないんでしょうか?」


「セピアにはキミの傍《そば》を離れないように言ってあるし、もしも苦戦するようなら我々も出るから安心したまえ。それに近くに魔神《デヴィル》がいるのなら私の出番もあるだろうからね」



 しばらくは天使が俺を護ってくれると。

 そして俺の中から神器《セイクリッド・アームズ》が取り出されれば、天使は去るが天使の加護を得て神人《しんじん》にしてもらえる訳か。

 んで後は勝手に頑張れ、と。



「黒の心臓(ブロークン)って一体何なんでしょう?」


「漠然とした質問だね。まぁ確かに謎だよね。神の現身《うつしみ》たる人間が堕ちるなんて天使で言う堕天《フォールダウン》に似た現象なのかも知れない」



 そりゃ何も分からないも同然だからな。

 バーミリオンはさっきから淡々と話し続けているが、その言葉からは所詮《しょせん》、他人事と言った感じしか受けない。


 ちょっとイラつくな。



「一応、漆黒結晶《アテル・クリスト》や黒の心臓(ブロークン)については、天使の解析班が研究しているそうだよ。もっとも分からない事だらけでちっとも進んでいないって噂だけどね」



 漆黒結晶《アテル・クリスト》?

 そういや前の襲撃の時、セピアが破壊したって言ってたな。

 推測するに鬼たちの心臓、つまり核《コア》ってところだろう。


 結局、まだまだ分からないことだらけだ。

 そろそろ天使だけじゃなく魔神《デヴィル》からの話も聞いてみたいもんだな。


 あまり納得できる話でもなかったが、とりあえず今後の生き方くらいは分かった。取り敢えずは、俺の中に眠る神器《セイクリッド・アームズ》が取り出されるまで天使に護ってもらえるってのは確定なんだよな。


 この世に未練などはない。

 死んだら死んだで、『ああ、その時が来たのだ』と思うことだろうさ。

 ケセラセラ、なるようになる。


 その後もセピアとバーミリオンととりとめのない話をして今夜の集《つど》いは終了した。


 ファミレスから出ると、バーミリオンはふらりとどこかへと姿を消し、俺はセピアと帰路についたのであった。


 さて、お次はルージュの番だ。

お読み頂きありがとうございました。

引き続きお付き合い下さいませ。

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