日記
2021年5月3日
日記、のようなものを書くことにした。
その日のことではないけど、毎日書けば日記だろう。
幾つか思い出した事がある。
やっぱり、僕も心の底では自分のした事を認めていないのかも知れない。
あの日、休むために行った橋の下の薄暗い河川敷で、輝が家族を殺したナイフとみんなの遺品を僕に突きつけた後、僕は思い出した。ややこしいけど、思い出したことを思い出したんだ。自分が家族を殺した事を。
それで、自分に吐き気が、眩暈がして、怒りとか悲しみがぐちゃぐちゃに掻き混ぜられたみたいになって。
その不安定な感情に任せて、輝に輝のした事、僕の見ていた事を乱暴に言い聞かせたんだ。
記憶が曖昧だから具体的には思い出せないけど、他にも輝に色々言った筈。
そしたら、輝は震えながら僕に訊いたんだ。
私の何がいけなかったのか、って。
僕が知っててずっと黙ってたのか、って。
僕が答えられないでいたら、警察が来たんだ。
呼んだのは君か、って。
偶然にしてはタイミングが良すぎたから、思い出せないだけで僕が混乱している間に自分で呼んだんだと思う。
僕は警察に、輝は関係ないって言って自分だけ連れて行ってもらった。
そこからはもう、みんなが知ってる通りだ。
2018年3月25日の世空町家族殺害事件。
あの日から三年経った今。
看守さんにもらった紙とペンでこの文章を書いているけど、未だになぜ自分が家族を殺したのかわからない。
幸せだった。家族と一緒に過ごした日々は僕にとってかけがえのない宝物だった。
それなのに何故、だったんだろう。
今更だけど、今日その事を思い出したのは髪の伸びた彼女が刑務所に来たからだ。
4日、5日、6日は所内での日常が書かれている。
5月7日
今日で、輝が刑務所に来て4日になる。
看守さんが一通の手紙を届けてくれた。
輝が僕に書いたものらしい。
僕はそれを読んで、つい一部破ってしまった。
僕が一番信じたくなかったものを突きつけられたからだ。
いや、封をした記憶を無理に引き摺り出されたんだ。
僕はできた子供じゃなかった。
お世辞にも勉強ができるとは到底言えないし、家事もできない。
ただ、無駄に勘がよくて気持ち悪がられてたみたいだ。
僕は虐待を受けていた。
父、母はわかるが弟にさえも。
透はできのいい弟だった。
性格以外は。
抗い方なんてたくさんあった。
だけど、どれも怖かった。
それほどまでに僕は弱い人間だった。
そんな人間が最後に取った手段。
自分を守るための手段。
自分が救われるための手段。
それが殺しだったわけだ。
今思えば間違っている。
読んですぐには冷静でいられなかった。
当然だ。信じられる訳がない。
ただ、理解ができた。
僕は変わってしまったのだとつくづく思う。
あの日、輝が僕の話を聞いてるときはあんな感じだったのだろうか。
いや、悪いことはしてない。
あの日、僕が彼女について行ったのはそれが目的だったのだから。
そうだ、手紙を返そう。
あの日の彼女の質問に答えなければ。




