10:その頃、ウルはというと
とりあえずここで一区切りです
今日もアルトゥル様と別れる前に頭を撫でてもらいました。
これ、大好きです。幸せな気持ちでポワポワしながら、お仕事へ向かいました。
お気に入りのベージュのワンピースが風に揺れています。
肩にはアルトゥル様に買ってもらった『シスターの聖なる武器』――大きなメイス。
よーし、今日も頑張ろ。
***
冒険者ギルドに入ると、受付のお姉さんが笑顔で迎えてくれました。
私の事を覚えてくれていて、優しくしてくれるんです。
「ウルちゃん、おはよう」
「おはようございます!」
お姉さんは『いつものように』カウンターの下から大きな袋を取り出した。
今日は山の入り口にある薬草を採ってきて、と言っていました。
戦闘依頼を何度も勧められましたけど、
危ないから全部お断りしました。アルトゥル様との約束ですから。
そうしたら、たくさん報酬をもらえる依頼を教えてくれるようになったんです。
採取依頼をずっと続けていると、ギルドカードの色が何度も変わって。
それに、薬草を納品する時も待たなくてもよくなりました。
きっと、すべてアルトゥル様のおかげです。
アルトゥル様は神様ですから。私の知らないところから、私をお手伝いしてくれてるんです。
「いっぱい採ってきます!」
「頑張ってきてね」
私は元気よくギルドを飛び出しました。
***
アルトゥル様と一緒に薬草を摘んだ『森』を超えて、遠くに見える『山』まで向かいます。
走りながら、アルトゥル様の言葉を思い出すと、やる気がどんどん湧いてきます。
『ウル、これは神の試練ってやつだ。一人でも依頼をできるか?』
『受けるのは採取依頼だけにしてくれ』
『俺はウルと一緒に晩ご飯を食べたいんだ』
でも、私の足だとすぐに『山まで着いてしまう』ので、思い出すのはここまでです。
***
山の入口へ到着しました。
すると、採取依頼にあった薬草はすぐに見つかりました。
ギルドのお姉さんから渡された見本と同じ葉を探し、丁寧に摘み取っていきます。
根を傷つけない。葉の状態を確認する。全部アルトゥル様が教えてくれたことです。
「ふふっ」
気づけば鼻歌まで出ていました。
袋が一つ。二つ。三つ。どんどん埋まっていきます。
アルトゥル様、喜んでくれるでしょうか。
そう考えるだけで、嬉しくてたまらなくなります。
***
その時でした。
ヒュオオオオオオオッ!!
突然、凄まじい突風が吹き荒れたのです。
「きゃっ!?」
思わずワンピースの裾を押さえて空を見上げると、
そこにはとても大きな影がありました。
緑色の鱗。大きな翼。鋭い牙。
山の上をフワフワと飛ぶ、すごく大きな魔物でした。
「おっきい……」
影から逃げるように、
冒険者の人たちが悲鳴を上げながら、こっちに逃げ出していきます。
「飛竜だぁぁぁ!!」
「なんでこんな場所にいるんだ!?」
「逃げろ!!」
一斉に逃げ出す冒険者さんたち。
飛竜が翼をバサバサとするたびに、強い風が吹きつけます。
危ないのは分かりました。だから私も逃げようとしたんです。
でも――飛竜はこちらへ向かってきていました。
***
どうしましょう。避けなきゃいけません。
でも。近くには採取した薬草袋がたくさんあります。
ここで私が避けたら、全部散らばって飛んでいってしまいそうです。
アルトゥル様のために集めた薬草が。
アルトゥル様のお金が。
アルトゥル様との晩ご飯が。
頭の中をぐるぐる回ります。
その間にも、飛竜がだんだん近づいてきます。
大きすぎる影に、お日様が隠れて辺りが真っ暗になります。
怖い。本当はとっても怖いです。
胸がドキドキします。
でも。アルトゥル様のためなら、私はなんだってできます!
私は精一杯、力を込めてメイスを大きく振り上げました。
「――あっちいってぇぇぇぇぇぇっ!!」
その瞬間。
隠れていたはずのお日様が、すごく光って眩しくなりました。
思わず目を瞑ります。
キィィィン、と固いもの同士がぶつかり合って、
森全体が悲鳴を上げるような、ものすごい音が響き渡りました。
***
眩しくなくなったので目を開けると、
メイスに当たった飛竜は、こっちに来る以上のものすごい速さで、町の方へ『飛んでいきました』
「ふぅ……」
薬草を詰めた袋はあっちこっちに転がってしまいましたけど、中身は大丈夫そうです。
それに町のほうならアルトゥル様がいるし、
強い冒険者の人たちもたくさんいるので安心ですね。
「さあ、アルトゥル様のために、もっともっとたくさん薬草を採るぞー!」




