⑧ ミケーネ王子
「なんだ、なんだ。騒がしいな。」
そこへ件のミケーネが、朝の散歩から帰って来た。
「おお、サン・ジェルマン殿ではないか?どうしたのかな急に…と、いうか、どうやってここまで…?」
助かった。彼さえ来てくれれば…。伯爵はホッとした。
「いや、実は先日、並行宇宙の壁を超える、マシンの開発に成功しまして、そのご挨拶にと…ただそのせいで、ちょっとしたサプライズを、台無しにしてしまったみたいで…済みません。」
「う〜ん?今日は何かの記念日だったかな?」
「何をおっしゃいますか。今日は、王子様のお誕生日ではありませんか。」
その場に居た、側近らしき者が言う。
「ボクの誕生日?それなら、来月だぞ?」
「あっ。」
「あ、じゃあないんだよ。さあ分かったら、みんな解散、解散!」
王子に言われて、御付きの者たちは、皆三々五々去って行った。
「お騒がせして済まないね、伯爵。どうぞこちらの応接室へ。」
王子に誘われ、サン・ジェルマンはついて行った。
応接室のソファーに座って向き合うと、ミケーネから話を切り出した。
「最近では、めったに敵の襲撃も無いから、みんな平和ボケしてしまって、申し訳ない。」
「いえ、いえ。ニンゲンのように、いつまでも自衛のためと称して、軍事力を増強し続けるより、遥かに精神衛生上、健康的で良いかと。」
「そうかい。そう言ってもらえると有り難いな。ところで、とうとう、そのチカラを手に入れてしまったのだな。ではアナタの名も、我々の持つ要注意人物リストに、載せなければならなくなったな。」
「…と、おっしゃいますと?」
「それは以前、申し上げた通り、並行宇宙を自由に旅する理論と手段は、我々猫族と犬族だけの、門外不出のモノだったからだよ…ああ、さては、アノ時だな?」
「…はい。実はアナタの船の修理を手伝った時に、イロイロ見て覚えました。そういう経緯もあったので、黙っている事も、フェアではないと思い、こうして報告に参った次第です。」
「うむ。筋を通すのは、良い心がけだな。だがアレは、たった一度、回路の仕組みをチラ見したぐらいで、盗めるような技術でもない。常日頃から、キミなりに研鑽を積み重ねて来たのだろうな。」
「はあ、まあ、日々ソレだけが、楽しみなもので。」
「良いぞ。ソレの使用を許す。ただし…。」
「…決して他の者たちに…特にニンゲンに、その秘密を渡してはならない、ですね?」
「よし、よし。良く分かっているではないか。それでこそ、伝説のサン・ジェルマン伯爵の名に相応しい。」
「…あのお、その"伝説の"っていう枕詞、良く言われるんですが、私本人としては、全く自覚が無く…。」
「…それは、いずれ分かる。」
そう言うとミケーネは、ニヤリと笑って見せた。




