④ 正和の彼
昭和の延長の時間軸の、地下駐車場に戻って来たサン・ジェルマンは、早速次の座標入力で、亜空間分を補正した。
「…コレでよし、と。」
次は、"正和の時間軸"の自分に会うのだ。
そして、例の件(第6 巻 参照)について、アドバイスをしてやるのだ。
彼は口髭とメガネを使って、簡単な変装をすると、並行宇宙移動装置の、スイッチを入れた。
次の瞬間、黒いビートルは、目的の時空に出た。
時刻は夜だ。
彼は、とあるバーの前に、クルマを横づけすると、周りに気を配りながら、ユックリと店の中に入って行った。
居た、居た。
この時空のサン・ジェルマンが、カウンターバーで酒を飲んでいる。もう既に酔っているようだ。
随分ガタイが良い。昭和の自分より、鍛えているようだ。多分、武闘派なんだろうな。などと、彼は想像した。
"昭和の"サン・ジェルマンは、その"正和の"自分に、後ろから近づいて声をかけた。
「兄さん、一杯奢らせてくれ。」
「おお、ありがとよ。でもアンタ誰だ?この辺りじゃあ、見ない顔だな?」
「…そんなハズは無いけどね?」
昭和の彼は、少し笑ってしまった。
そして正和の彼の隣に座ると、こんな話をした。
「いいかい?よく聞いてくれ。近い内に、アンタはユキコという名の女に出会う。そいつは、アンタよりも不思議な術を使う、変なオンナだ。でも、悪い事は言わないから、ソイツを何としても口説き落として、必ず結婚しろ。因みに指輪のサイズは…。」
「…あー、待て待て。ちょっと待て。イキナリ座って、ナニ訳の分からん事をまくし立ててんだ?アンタ、一体何者だ?」
「私は…何者でもないよ。」
「名乗りもしねえヤツの話には、乗れねぇなあ。大体、このオレが、ソイツと結婚したら、どうなるってんだ?」
「…幸せに…なれる。」
「うわっはっはっ…。」
正和のソイツは、大声で豪快に笑った。
「キライじゃないぜ、そういうジョーク。でも、他所でやってくれ。こう見えても、オレは忙しいんだ。」
「他所の並行世界では、全部ダメなんだ。そこには全て、別の相手が居る。」
「お前さん、今、妙な事を抜かしたな?まさかお前もタイムトラベラーなのか?」
昭和の彼は、もう面倒くさくなった。
そして、その場で、付け髭とメガネを取って見せた。
「どうだい。コレなら、信用するかい?」
ところが、ソレを見ても、酔っているはずの正和の彼は、極めて冷静だった。
「おお、オレの顔じゃあねえか?良く出来てるなあ…何のサプライズだ、コレは?」
そう言いながら、昭和の彼の顔の皮膚を引っ張る。
「いてて、痛いよ。兄弟!」
「うええっ!?ほ、本物じゃねえか?」
「そうだよ。私は、他の世界線からやって来た、キミ自身だよ。どうだい、話を信じる気になったかい?」
「わ、分かった。ソイツと結婚すればイイんだな?」
「ああそうだ。そしてその後も、イロイロと不思議な体験をするだろうが、冷静に対処してくれ。」
「…よく分からんが、そうするよ。」
「話は以上だ。それじゃあ、お幸せに!」
言いたい事は伝えたので、目を白黒させている正和の自分を放置して、サン・ジェルマンは、その場を後にしたのだった。




