⑲ 村田京子
二人はエレベーターで、地下駐車場に戻って来た。
5台並んだビートルのうち、京子は迷わず黒い1台を指差した。
「コレでしょ?新型は。」
「はい。」どこか諦め顔の伯爵。
「…どうせもう、私より先に、誰かナビシートに乗せたのよねえ?」
「はあ、どうしても、緊急でしたので…。」
「一応、昨日私に報告した事は、褒めてあげるわ。」
「…はあ。」
「今日は、これから、埋め合わせをしてくれるのよね?」
「ええ、それはもちろん…。」
会話しながら、クルマに乗り込んだ二人。
「さあ、どこへ連れて行ってもらおうかなあ…コレ、並行宇宙…つまり異世界にも行けるそうじゃない?」
「ええ、まあ…。」
「猫王子の世界とか…犬王の世界とか…雪女の世界もあるのかしら?」
「超時空雪女会議なら、たまたま乱入してしまった事も有りますけど…。」
「なに、それ?面白そうじゃない。行きましょうよ。
」
「いやあ…そんなにウェルカムな感じでは有りませんでしたが…。」
「雪女の末裔の私が、挨拶しに来ました…というテイで良くない?」
「…どうしても、希望しますか?」
「うん、せっかくだもの。タダのタイムトラベルじゃない旅をしたいわ。」
「解りました。」
サン・ジェルマンは、先日の、雪女会議の登録座標を出した。そして、あの瞬間から30分後にずらして、目的地を設定する。
「それでは、行きますよ?」
伯爵はそう言うと、装置のスイッチを入れた。
次の瞬間、やはり当たり前に、会議場のど真ん中にビートルは出現した。
ちょうど会議が終了して、みんな帰り支度をしているところだった。
「なんだ。また来たのか?サン・ジェルマンとやら。」
スネグーラチカに言われた。
「ああ、度々済みません。今度はウチの妻が、皆さんにご挨拶をしたいという事で…。」
「じゃあ、後はユキメに任せる。もうこの会議は、今日の部は解散だからな。頼むぞユキメ。」
「え〜。私にもイロイロと都合が有るのに…少しだけですよ?」
「お手間を取らせて申し訳ないです。じゃあ、京子さん、御挨拶して。」
「あ、ああ、初めまして。私は村田京子と申します。祖母からは、隔世遺伝で、雪女のチカラを、代々受け継いで来たと聞いております。」
「こんにちは。私はユキメ。日本の雪女よ。だから多分、アナタの遠い先祖に当たるわね。私の姉妹の誰かが、北関東でニンゲンと暮らしたせいで、アナタの直接の先祖が生まれたのよ。」
「そう…なんですね?」
「そう。それから代々ニンゲンとの暮らしに染まり、ニンゲンと同じモノを食べ、掌の指の数が5本になり、チカラが薄れる事になったの。だからアナタも、ニンゲンの精気を吸ったりしないでしょ?」
「…はい。確かにそうです。」
「アナタが私に訊きたかった事は、こんな感じじゃなかった?」
「そう…ですね。」
長年の疑問を、一気に説明されて、何だか京子は拍子抜けしてしまった。




