⑰ 別の世界線へ
笑っている場合ではなかった。
そうと決まれば、急がなくては。
「犬王様。その件に関連して、一つお願いが有ります。」
サン・ジェルマンは言った。
「なんじゃ、申してみよ。」
「実は、犬王様の船に装備されている、トラクタービームを使っていただきたいのです。」
「なんで貴殿は、そのような事を知っておるのだ?」
「猫王子の船を修理した時に、似たようなメカニズムを見かけたので、犬王様の船にも、きっと同じ技術があるだろうと…。」
「…カマをかけたな?」
「はい。その通りです。」
「相変わらず食えない男だな、貴殿は。」
「はあ、申し訳有りません。」
特に悪びれる事も無く、真顔で謝る伯爵。
「いいだろう。貴殿の腹案を申してみよ。」
そこでサン・ジェルマンは、今から始める作戦の内容を、犬王と由理子に説明した。
「委細承知した。では、由理子よ。伯爵殿の作戦通りやるとしようか。早速、頼むぞ。」
「了解です。アヌビス君。」
まず由理子が、精神波でネッシーに語りかけ、水面まで出て来るように頼んだ。
その間に、サン・ジェルマンと犬王で、燭台に良く似た形の、4機の物体転送装置を、ネス湖の中央付近を囲うような、大きな正方形の各頂点の位置に配置した。
やがて水面に、巨大な生物の、背中らしきモノが現れた。特徴的な三つのコブが見える。頭から尾の先まで、30m程あるだろうか?間違い無い。アレがネッシーだろう。
助手席から由理子が頷いて見せる。
それを見て、大きな正方形の中央上空から、アヌビスの船がトラクタービームを発射した。
それが水面から、ネッシーを引き揚げ始めた。
段々彼女の全貌が露わになる。
ビームは、対象物の重量3トンまで対応可能との事だった。多分、大丈夫だろう。
ネッシーの姿は、爬虫類のソレではなかった。
どちらかと言えば、魚類…いや、鱗が無く、肌はツルツルだから…そう、まるで巨大な肺魚かウナギのようであった。
ただし、胸ビレや腹ビレが、まるで前足・後ろ足のように、しっかりとしたサイズなのである。
確かに地球上で、他に類を見ない生物だ。やはり太古の時代からの、生き残りなのだろう。
サン・ジェルマンはそう思った。
ネッシーのカラダが、充分空中に持ち上がった。そのタイミングを見計らって、伯爵が犬王の船の直上で、ビートルの並行宇宙移動装置と、4機の物体転送装置の、両方の起動スイッチを、同時に入れたのである。




