⑮ ロッホ・ネス・モンスター
翌日、約束通りやって来た由理子とともに、サン・ジェルマン伯爵は、地下駐車場に降りて行った。
するとそこには、5台のワーゲンビートル・タイプワンが、行儀良く並んで停められていた。
「じゃあ、由理子さん、早速行きましょうか?どうぞ助手席へ。」
伯爵はドアを開けて彼女をエスコートした。
こういうクラッシックな気遣いが、オンナ心に刺さるのである。
「ああ、ありがとう伯爵。あら?この子は黒いのね?」
「ええ、コレは、とって置きの装備を備えた、新型の5号機なんですよ。実はナビシートのゲストは、アナタが初めてなのです。」
「まあ、素敵!…でも私、京子さんに叱られないかしら?」
「大丈夫ですよ。コレも仕事…大事な研究の一環ですから。」
彼はシレッとした顔でそう言うと、自分も直ぐに運転席に収まった。
「さて、座標の入力をしましょう。」
並行宇宙No.xxxxxx
西暦1992年5月31日
時刻10時00分
北緯57度18分
西経04度27分
伯爵は、以上のように、コントロールパネルに入力すると、クルマを発進させたのだった。
到着した場所は、霧の濃い山間部の、とある湖の上空だった。
「…ここですよね…って、えっ!?」
サン・ジェルマンが助手席を見ると、由理子が、静かに涙を流して泣いていた。
「どうしました。どこか具合でも、悪くなったのですか?痛いところが有るんですですか?」
彼の問いに、由理子は泣きながら答えた。
「違うの。現場に来たとたん、SOSの内容がハッキリしたの。」
「…それは…どんな?」
「環境の変化のせいで、自分以外、みんな死んでしまったって…。今はもう一人ぼっちで、食べ物もみつからないし、体調も良くないって…。」
「…やはり、そうでしたか。」
「伯爵は、以前から何か知っていたの?」
「いや、いや。由理子さん、ココは有名ですから…。」
「えっ?」
「ここは…ネス湖ですよ。そして恐らく、アナタのテレパシーの相手は"ネッシー"…それは所謂、未確認生物、つまりUMAの中でも、世界一有名なお方だ。」
「ネッシー…そう言えば子どもの頃、そんな名前を良く聞いたような…。」
「その正体は、未だ不明とされています…この世界線ではね。」
「あら?ナニか含みの有る言い方をするのね?」
「ええ、まあ。私の知っている、とある並行世界では、ネス湖でみんな元気にやってますよ。」




