⑭ 真田由理子
真田由理子はテレパスである。
そのチカラは主に、ニンゲンよりも他の生き物たちに有効に働く。ソレ故、彼女は自らを"真の博愛主義者"と称している。
そして今、彼女の頭の中に、強烈に送られてくるSOS信号が有った。
時に西暦1992年5月30日の土曜日。
時刻は9時30分をまわった頃。
彼女は22歳になっていた。
強烈なテレパシー波に、頭の中をガンガン鳴らされた彼女は、テレビ塔の亜空間レストランを訪れて、サン・ジェルマン伯爵に助けを求めた。
「伯爵、何だか頭がガンガンするんです。」
今日も、赤いウィッグを着けたメイド服の彼女が、涙目で訴えた。
「ソレはいけませんねえ。良いお医者様を紹介しましょうか?」
伯爵は、今日も渋いグレーのジャケットを羽織っている。
「いや、そうじゃなくて…。」
由理子は、言葉が足りなかった分を、更に詳しく説明する。
「…なるほど。ソレは心配ですね。何処かでナニかが命の危機に瀕して居ると。」
「そうなんです。」
「場所は?何とか分かりませんか?」
「う〜ん、アタマの中にはボンヤリ浮かんでるんですけど…多分、外国かも。地図とか有ります?」
「ああ、それならそこに…。」
彼はバーカウンターを指差した。
その奥の壁には、おあつらえ向きに、アンティークな世界地図が掲示されていた。
二人は早速、その地図の前まで移動した。
セピア色に彩色された、メルカトル図法のソレを見ながら、由理子が精神を集中させる。
「…う〜ん、この辺…ココだわ!」
と言いながら、彼女は地図の或る一点を指差した。
「ああ、そこは…。」
何とも古典的な伝説に彩られた場所に、伯爵は、しばし言葉を失った。そして…。
「やはり、この世界線にも、まだ実在していたんですね…。」と言ったのだ。
「?」由理子には何の事だか分からない。
「…分かりました。一緒に行きましょうか。」
「ホントに?ありがとう、伯爵!」
由理子は、宮崎駿監督の映画"カリオストロの 城"の、クラリスのようなキラキラした瞳で見つめながら、両手で伯爵の手を取り、お礼を言った。
「ただし、恐らく相手は大型生物なので、それなりの機材が必要です。明日までには準備するので…よろしいですか?」
「ええ、もちろんです。じゃあ、明日また、ここに来ますね?」
彼女はそう言うと、ほとんどスキップしながら、喜んで帰って行ったのだった。
「私も楽しみにしていますよ。」
去って行く彼女の後ろ姿を見ながら、伯爵は呟いた。




