① 並行宇宙への挑戦
コレは、かつて隕石にぶつかって壊れた、ミケーネの宇宙船を、サン・ジェルマンが直した時期から、ほんの少し時が過ぎた頃の話である。(第19巻 参照)
宇宙船の修理中、手伝っていた彼には、何となく推察出来てしまった事が有る。それは、並行宇宙を移動する技術と、その仕組みだ。
その技術は、犬族と猫族のみに知られたモノであり、門外不出のモノであった。
特に好戦的で、征服欲の強い、ハダカ猿族たるニンゲンには、教えてはならない、とされているモノなのである。
だからこそ、直接ミケーネ王子に訊いて、教えてもらう訳にもいかず、彼は仕方無く、コッソリ盗み見るような、真似をしたのである。
仕組みが分かれば、実験してみたくなるのが、マッドサイエンティスト…じゃなかった、天才物理学者としての、サガというモノである。
そして、その実験台になるのは、もちろん自分自身だ。何故なら、そんな面白い事…じゃなかった、危険な事に、他人を巻き込む訳にはいかないからなのである。
そんな訳で今日は、いよいよ並行宇宙へ旅する、実験の初回の日となった。
彼は、黒い車体のワーゲンビートルの中に、組み上げた装置を設置して、推定したデータを入力した。
そして、ワクワクしながら、スタートボタンを押したのだった。
さて、一方ココは、とある亜空間。
所謂、時空と時空の狭間だ。
場所的には、惑星ガイア…つまり地球の、北極点の近くだった。
折しも、今ココで、ちょっとした、とある種族のサミットが行なわれていた。
そのメンバーは、以下の通りである。
日本からユキメ。
ロシアからスネグーラチカ。
北欧からフロスト・メイデン。
中国からシュアンニュ。
フランスからダム・ブランシュ。
北米からウィンディゴ・ブライド。
アンデス地方からラ・ムヘール・デ・イエロ。
そう、それは、"超時空雪女会議"であった。
因みに、本日の議題は、現代における、各国の雪女の末裔の状況について、であった。
各人の報告も終盤に差し掛かったころ、、彼女たちが座っていた、円卓の中央の空間に、異変が起こったのである。
そこに、ジワジワと黒いカゲが現れ、最後には、四隅にタイヤの付いた、大きな黒い塊として、その姿を確定したのだ。
それは、サン・ジェルマンが乗った、並行宇宙移動マシンの黒いビートルだった。
彼の失敗の原因は、出発地点を、亜空間の影響下にある、テレビ塔の地下駐車場にしたことだった。
「ああ、すいません。場違いなところに、出てしまいました。どうやら出発地点のせいで座標がズレて…ココは多分、私的な亜空間ですよね?すぐにお暇致しますので…。」
運転席から出て来た彼は、取り敢えずその場に居たみんなに、ヘブライ語で謝罪した。
これまでの経験から、この言語が異世界共通語らしいと、見当を付けていたのだ。
だから彼は常々、"昔々、神がお怒りになって、世界の人々から、共通の言語を奪った"という伝説は、あながち作り話では無いのかもしれない、と思っていた…仮に、この世に神が居れば、だが。




