表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/70

第二話 学院、襲撃戦(前編)



 夕空が赤く染まり、学院の影が長く伸びていた。

 その静寂を引き裂くように、突風が吹いた。

 風ではない。

 “風が消えた後に起こる”空気の歪みだった。


「伏せて!!」

 ユラが叫び、ミオの肩を掴んで地面に押し倒す。


 次の瞬間、黒い影が空気を噛み砕きながら降りる。


「祈れぬ少女よォ……。」


 狼のような巨影。

 眼は闇のように濁り、口の奥には風の渦が見える。


 ――風断ちのオルグ。


「来たか……!」

 カガリが拳を握る。

 祈りの風を拳にまとわせようとするが――


「お、おかしい……風が……集まらねえ!」


「言ったろ。」アスハが冷静に言う。

「こいつは“風そのものを食う”。風技は無効。」


「じゃあどうやって戦えってんだよ!」


「知らん。だが――」

 アスハがミオを見る。

「狙いはあの少女だ。」


「え……?」

 ミオは震えながら後ずさる。



◆1 ナナシ、未完成の人型で降臨


 空が白く輝いた。

 風が戻り、空気が震える。


 ナナシが現れた。


 白い髪が風にゆれ、光る瞳は怒りと悲しみを帯びていた。

 その身体はまだ不安定で、輪郭が時々風に溶ける。


『ミオに触らないで。』


 柔らかい声なのに、空気を震わせる圧があった。


 オルグが低く唸る。


「……風の神かァ。弱ってるクセに……人型とは笑わせる。」


『弱ってないわ。ただ……少し、寂しいだけ。』


「はァ?」


 ナナシの風が、瞬く間に形を変えた。

 風の羽衣が広がり、彼女は一歩踏み込む。


 風が“消えない”。

 オルグが驚いて後ずさる。


「な……なぜ風が消えねェ!!」


『リツが……私の風に“名前”をつけてくれたから。

 名前のある風は、消えないの。』


 ナナシが両腕を広げ、風を放つ。

 白い光となり、オルグの巨体を弾き飛ばした。


 轟音。

 地面がえぐれ、砂煙が舞い上がる。


「す、すげぇ……!」

 カガリの目が輝く。

「やっぱ神様ってすげぇ!」



◆2 ミオを狙う理由


 しかしオルグはすぐ立ち上がり、吠えた。


「貴様らの祈り……全て、王の邪魔!

 あの少女を渡セェェェ!!」


 ミオは震え、ユラの背に隠れる。


「どうして……私なんて……」


 アスハが冷たく答えた。


「“祈れない”のではない。

 君の祈りは“完全な空白”。

 それは神にも風にも読めない。

 ――古代神族が最も恐れ、最も欲する祈りだ。」


「ど、どういうこと……?」

 ユラが問う。


「空白は“可能性”。

 ミオの祈りは、世界のどんな祈りにも変換できる。

 ゆえに古代神族は――新世界の鍵だと考えている。」


 その言葉に、ナナシの目が細められた。


『絶対に渡さない。ミオは私たちの……生徒よ。』



◆3 オルグの本気


 オルグが空気を噛み砕き、巨大な影をまとった。


「風断ち・獣顎じゅうがく……喰らエェ!!」


 口から放たれた黒い渦が、学院を狙って迫る。


「やべぇ!!」

 カガリが叫ぶ。


「ナナシさん、避けて!!」


『……避けない。』


 ナナシは風の盾を展開する。

 しかし――盾はふるふると揺れ、今にも崩れそうだった。


「ナナシ! 無理するな!!」

 ユラが叫ぶ。


『……ごめんね。まだ身体が安定しないの。

 でも……守りたいの。』


 黒渦が迫る。

 ナナシは必死に風を踏ん張った。


「くっ……!」


 白い輪郭がゆがむ。

 風が乱れ、ナナシの身体が一瞬“崩れかける”。



◆4 ミオの力、覚醒の兆し


「ナナシさん!!」

 ミオが叫んだその瞬間。


 空気が静止した。


 風でも炎でもない。

 ただ“空白”が生まれた。


 オルグの黒渦が――止まった。


「……は?」

 カガリが声を失う。


 アスハの目が鋭く光る。

「これが……“空白祈り”……!」


 ミオは震えながら、自分の手を見つめた。


「な、何……これ……」


 ナナシが微笑んだ。


『ミオ……あなたの祈り、ちゃんと届いてる。

 “空白”は、風を止めるんじゃない。

 風を“書き換える”力よ。』


「書き……換える……?」


『ええ。

 あなたの祈りは、どんな風にも、どんな願いにも変われる。

 無色で、透明で、強い……。』


 ミオの祈りが、黒渦を消し去る。


 空気が震え、オルグが後ずさった。


「バ……バカな……!

 祈れぬ少女が……風を……!?

 王が狙う理由……これか……!!」



◆5 アスハの“正体”の片鱗


 そのときアスハが歩み出た。

 黒渦の残滓を手に取ると、眉をひそめる。


「……古代神族の祈り構造、変わってないな。」


「アスハくん?」

 ユラが声をかける。


 アスハは振り返らず呟いた。

「こいつの祈りは“支配型”……俺の転生前と同じだ。」


「えっ!? 転生前って……!」


「……話す必要はない。」


 アスハの周りの空気が冷たく震えた。

 オルグだけが怯えた目で叫ぶ。


「お前……まさか……“あの血”……!」


 アスハが睨む。


「黙れ。今は生徒だ。」


 オルグは一度震え、しかし牙を剥く。


「ならば貴様から喰らう!!」



◆6 学院の風が鳴く


 オルグが跳躍し、アスハに噛みつこうとした瞬間。


 学院の風鈴が鳴った。


 ――鳴るはずのない音。

 だが確かに聞こえる、祈りの“返礼”。


 空から光が降った。


「……シロ?」

 ナナシがつぶやく。


 白室βから声が届く。


『状況は把握した。

 リツが向かってる。

 ――ナナシ。踏ん張れよ。』


 ナナシは微笑む。


『もちろん。私の生徒を……取らせない。』


 風が、学院の屋上から渦を巻いて降りてきた。


 リツが登場する。


「お待たせしました。

 ――さて、授業の続きをしましょう。」


 オルグが吠える。


「貴様……祈りを“測る人間”かァァァ!!」


「ええ。」

 リツが指を鳴らした。


「あなたの祈り波……解析済みです。」


 風がリツの周囲で回転し、

 新しい祈り術式が光る。


祈りコード:“風縛ふうばく・逆流”


 オルグの巨体が風で縛られ、地面へ叩きつけられる。


「な……何ィィィ!!?」


「これは“あなたが食べた風”を逆に吐き戻す術です。

 科学は便利ですよ。」


 リツが笑う。



◆ 学院襲撃戦、開幕


 三獣士の気配が次々迫る。

 学院は完全に戦場になった。


 ナナシは不安定な身体で風を展開し、

 ミオは震えながらも“空白”を使い始め、

 アスハは正体を隠しつつ戦闘態勢に入り、

 ユラとカガリは仲間を守るため動く。


 リツは静かに宣言する。


「――風祈学院は、誰にも渡しません。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ