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第一話 風祈学院、揺れる朝



 春。

 空の色は淡い青。

 風祈学院〈ふうきがくいん〉の鐘が、朝の風に混じって響いた。


 丘の上に建つ白い校舎では、風が吹くたびに窓が震え、

 子ども達の笑い声と祈りの音がこぼれ出る。


 ――共祈時代ともいのりじだい

 第二部から十数年、世界の“祈り”は大きく変化した。

 祈れば風が返してくれる。

 神界の声も、わずかに聞ける人が増えた。


 だが――その新時代は、同時に“歪み”も生んでいた。



◆1 新年度、学院長リツ


 リツ(31)は学院長室の窓を開け、風を吸い込んだ。


「……今日の風は、落ち着かないですね。」


 風がざわめき、ページを勝手にめくる。

 その風に、淡い声が混ざった。


『落ち着かないのは……あなたでしょう?』


 振り向くと、窓辺に“人に近い風”が座っていた。

 白い髪、淡い光。

 まだ触ると崩れるが、表情は確かに“人”だった。


「ナナシ。今日は無理しなくていいんですよ。」


『学院の新入生、楽しみにしてるの。

リツがどんな顔するのか……特にね。』


「ボクの顔ですか? いつも通りですよ?」


『それが“心配”なの。あなたすぐ危険なものに近づくから。』


 風が頬に触れた。

 ナナシは少し寂しそうに、それでも微笑んだ。



◆2 祈れない少女・ミオ


 校庭の中央。

 新年度の挨拶を終え、学生たちが散ってゆく。


 その隅で、一人の少女が立ち尽くしていた。


 黒髪を三つ編みにし、制服の袖をぎゅっと握る。

 祈りの授業で使う風笛が、彼女の手で震えていた。


「……祈れない。どうしよう。」


 名前は ミオ(15)。

 “祈りゼロ”の珍しい体質で、風が全く反応しない。


 そこへ、明るい少女が走ってきた。


「ミオちゃん! 今日から同じクラスだよ!」

 風祈学院の人気者、ユラ(16)だ。


「ほら、風笛吹いてみよ? 大丈夫、私が助けるから!」


「……吹けないよ。みんなみたいに風が返してくれない。」


「じゃあ練習しよっ! 私、聞きすぎるぐらい風の声聞こえるんだから!」


 そう言って笑うユラ。

 ミオは戸惑いながらも、その明るさに救われるように頷いた。



◆3 武闘祈導師・カガリ


 学院の裏庭で、ド派手な音が響いた。


 ドゴォォォォォン!!


 建物の壁に大穴が開く。


 煙の中から出てきたのは、

 赤い髪を逆立て、拳に風を巻きつけた少年だった。


「よっしゃ! 風撃ふうげき・弐式、成功!」

 拳を突き上げる。


 名は カガリ(17)。

 “祈りを戦闘に使う”武闘派学生。


「カガリ先輩! また壊してる!!」


「直す直す! 風で吹き飛ばすから!!」


「それ直すんじゃなくて壊すんですよ!!」


 ユラが呆れて叫ぶ。

 ミオはビクッと肩を震わせた。


「……怖いよ、ユラちゃん。」


「大丈夫! あの人は優しいけど頭だけちょっとダメなの!」


「言い方!!」

 カガリが突っ込む。



◆4 無表情の転校生・アスハ


 鐘の音。

 教室の前に、一人の少年が立っていた。


「今日から編入する。アスハだ。」


 黒髪、無表情、空気が冷たい。

 だがリツと目が合った瞬間、アスハの表情が、わずかに揺れた。


 (……この男、神界の匂いがする。)


 彼は誰にも話さず窓際に座った。


 ミオは隣の席に座り、小さく挨拶する。


「あ、あの……よろしくお願いします。」


「……ああ。」


 アスハは目を閉じた。

 心の中で風が囁く。


『あの少女……祈り波が“空白”だ。珍しい。』


 アスハは興味を覚え、ミオを観察するように見つめた。



◆5 “風断ち”の三獣士


 その頃、学院の外。

 遠い古代神域で、影が蠢いていた。


 ルカダスの前に、三体の異形の影が跪く。


・オルグ


“風を噛み砕く獣”

→ 祈り風を封じる能力。


・シャーレ


“祈りを嘲笑う蛇”

→ 優しさ・希望など「弱い祈り」を飲み込み、反転させる。


・ヴァイル


“魂を射抜く鷹”

→ 転生前の記憶を暴露する。


 ルカダスは指を鳴らした。


「行け。今の世界は、祈りが肥大しすぎた。」


「はっ。」


「祈りの中心、学院を壊せ。

 ――まずは“祈れぬ少女”を攫え。」


 三獣士が闇に溶けた。



◆6 学院、揺れる


 夕暮れ。

 授業が終わり、ミオは帰り道で風笛を見つめていた。


「……どうして私だけ、風が返してくれないの。」


「返さないんじゃない。」

 横から低い声がした。


 アスハが歩み寄る。


「君の祈りは“空白”。

 だから風は迷うだけだ。」


「空白……?」


「だが、その空白――古代神族が欲しがる。」


 ミオが驚きの声を上げるよりも早く。


 突風が吹き荒れた。


 草木が逆方向へしなる。

 風が一瞬で“消えた”。


「なに……これ……風が消え――」


「伏せて!!」


 ユラの悲鳴。

 空から黒い獣が降りてくる。


 ――風断ちの牙、オルグ。


「見ィつけたぞ……祈れぬ少女よォ。」


「ミオ逃げて!!」


 カガリが拳を構える。


「風撃・参――」


「無理だ。」

 アスハが腕で止めた。

「こいつは“風そのものを食う”。風技は効かない。」


 オルグが低く笑う。


「弱き祈りの子よ……貰っていく……」


 その瞬間――

 世界の風が一瞬だけ止まり、

 空気が裂けた。


 ナナシの声が響く。


『……ミオに触らないで。』


 風が白く光り、戦いの幕が上がった。


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