-`1章 私って何だろう-
春の日差し、視界が眩むほどにまぶしい明かりが輝いている。
ピンクと緑と黄の混ざったような下地の中に白や、赤、橙などの色が混ざってうごめく。
耳を澄まさなくても、聞こえてくる大きな声、あちらこちらでざわめく、人、人、人。
そんな日差しの中、椅子に座り焦点が合わない目で恨めしそうに見ている。
それが私だ。
通報をされない程度の表情で、何を見るわけでもなくただひたすらにうごめくものに目を動かす。
「暑いな....」とぼやく私を誰も気に留めない、いや留めている人はいる紺色と金の紋章を付けた人影が
ちらちら様子をうかがっているようだ。
どうも、居心地が悪い。
何をしたわけでもなく、ただ目が死んでいるというだけの一般人だ。
そうだ、私は何も悪くない。ただ前を見ているだけの納税者だ。とても清らかな国民だと思う。
だが、「そう、お前は何も悪くない!ただ座って春の陽気に充てられているだけだ」と弁護をしてくれる
人物はいない。プラスチックの乾いた音で、ぼこっと唄うペットボトルが一本。
そろそろ、お暇しようか。近づく紺色の人影を避けるようにふらっと浮くように人ごみに流れていく。
黒の波の中に、明るい色が混じる海を陰気くさい、黒が揺蕩っている。
流れに逆らい、ただ上へ上へと向かう。
顔をしかめながら、波を分けただ出口を目指す。
途方もない、見えない出口を。
息も絶え絶えに、歩き疲れて少し震える足に手をつき、カギを開ける。
「ただいま...」
どこにも宛先のない声を白い壁は包み込む。
換気扇の音だけがむなしく響くアパートに帰ってきた。
窓を開ければ、まだ聞こえる大きな声たち。
きっと私も...いや、ないだろう。自分が想像できないな。
からからと音を立てる換気扇はひたすら役割を果たす。ならば私の人生も換気してくれ。
ただ陰をまき散らすこの空気を。
温もりと冷気を含む風がひときわ強く部屋に流れ込む。
君が私の換気扇か、すべての人に等しく吹くだろう換気扇に向かって抗う。
人工的に瞬く光が少しずつ増えてくる。それに伴い、一等まぶしい光が空にまばらに映る。
さぁ、瞬け。君たちを遮る有象無象に見せつけてやれ。本当の瞬きを。
ひっそりと部屋の中央で水蒸気を上げる器に満たされた、油が浮く水分を準備する。
黄色のちぢれた小麦粉を浸して、私は吸い込む。
いつかのぬくもりに満ちた食卓を思い出し、いつからこんな私になったのだろう。
水分の一滴まで、飲み込みながら私は私を振り返る。
星たちよ、導いてくれ。
人の主観にとらえられ、形をこねくり出された星たちよ。