-プロローグ-
すっかり町が発展し、夜への恐れをなくしてしまった我々はまだ空に光る瞬きを目にすることを許されている。
陽の光と人工の光が我々をいくら照らそうが我々は決して離れることのできない瞬きに恋い焦がれるのだ。
いつか、見えなくなる日まで
もう、どれだけ忘れていただろう
白い靄が夜空をかけ、星雲のように世界へ放たれる。
水分を吸い、吐き出すたびにマフラーが湿る。
「あぁ、いつの間にこんなところまで...」
独り言のようにも、誰かに語り掛けるようにも絞り出されたその声は
闇の中へ消える。
外灯すらない、山の中車の消えかけたランプが細やかな明滅を繰り返す。
このランプが消えるとき、何が起こるのだろう。
私は息絶えるのだろうか、肺の中に刺すような痛みを伴う冷気が内側から冷やしていくの感じながら
それでも必死に息を吸い、吐き出す。
今私は生きている。どれだけ拒もうとそれだけは紛れもない事実だ。
何かわからない、鳥の声も遠くでうなる鉄の馬も、それぞれの温度をもって私の周りを埋め尽くす。
星の光を見つめながら、しけた煙草をそっと運ぶ。
体を温めるこの吐息が、ゆっくりと私を奪う。
確実にそして、ゆっくりと
もうどうでもいい、ただ怖いとは思う。
そんな中でも息を絶やせないこの体は、ゆっくりと時間を食らう。
この世界を照らす太陽ではなく、私は星に照らされる。
夜の闇を恐れず、陽の光を恐れる。
私はきっと生まれる種族を間違ったのだ。
そうに違いない、きっとそうだ。
自分を納得させようと、手に持った光を放つ薄い長方形を耳に当て、私はただ一言
「もうかえるよ。」
それを言い終わると、もうすでに息絶えた長方形をポケットへ入れ
馬に乗り込む。
果てしなく温めてくれるが一瞬で冷たくする、鉄の馬へと。
「星を追いかけよう」
うなり声をあげ、進んでいく馬に身をゆだねて。
青い看板に沿って、私は夜を追いかける。