第二章
◇◇◇
7月25日(金曜日)
夏希に告白して付き合うようになった次の日。
今日は終業式だ。
明日からは夏休みが始まる。
俺はまだ夏希がやりたいことが何か聞いていなかった。
教室に入ると、もう夏希は着席していた。
「おはよう」
「おはよう、秋斗」
挨拶が被ってしまった。
お互いにまだ気恥ずかしさがあるのかぎこちない感じになった。
でも夏希が何をしたいのか話さないといけない。
「あのさ、夏希がやりたいことを教えてくれないか?」
俺は夏希に直接聞くことにした。
夏希はまだ考えているようだった。
「とりあえず今思い浮かんでいるものだけでも教えてほしい。せっかくだから夏希がやりたいことをなるべく叶えたいんだ」
夏希は鞄から何かを取り出して広げた。
ルーズリーフに何かが書いてあった。
「あのさ、これ書いてきたんだ」
夏希が照れくさそうに手渡してきた。
俺は書かれている内容を見てみる。
★やりたいことリスト★
1.秋斗と放課後、一緒に帰る
2.秋斗と夏祭りに行く
3.秋斗と花火をする
4.秋斗と海に行く
5.秋斗と遊園地に行く
6.秋斗と水族館に行く
7.秋斗と映画館に行く
8.秋斗のお家に遊びに行く
9.秋斗と向日葵公園に行く
10.秋斗と×××××する
俺の想像以上にやりたいことを書いてくれていた。
それに全部に秋斗とと書いてあるのは素直に嬉しい。
思わず顔がニヤけてしまう。
「秋斗、なんかニヤけてて気持ち悪い〜」
夏希は俺がなんでそうなっているかわかっていて揶揄ってきた。
その悪戯な表情さえ可愛いと思えた。
最後の項目は黒く塗りつぶされていて、わからなかった。
でも世界が滅亡するかもしれない、7月31日までには全て出来そうだなと思った。
「早速今日出来そうなことがあるな。
放課後、一緒に帰るのは出来ると思う」
昨日はお互い、テンパっていて、別々に帰宅することになったんだよな。
「あと、一番最後の塗りつぶしてるのは何て書いてたんだ?」
気になったので聞いてみたが、夏希は顔を思いっきり赤くさせていた。
「いやぁ、それは、まだ秘密で。あははっ……」
夏希の反応で俺もなんとなく想像してしまった。
まぁどのみち分かることだ。
今は気にしないようにしよう。
「放課後が楽しみだな」
そういうと夏希は嬉しそうにしていた。
「やった」と呟いていた。
俺もそんな夏希の笑顔をみてまた嬉しいと思った。
放課後がいっそう待ち遠しくなった。
◇◇◇
私は朝起きたら、まずやりたいことをルーズリーフに書いていた。
何がやりたいのかを昨夜考えてる途中で寝てしまった。
まだ脳内のフォルダには思い浮かんだものが残っていた。
「これでよしっ!!」
独りごちてから改めて書いた内容を見てみた。
自分で見ても顔が熱くなるほど恥ずかしい。
秋斗が見たらきっとニヤつくだろうななんて想像した。
いつもの癖でなんとなく学校にも早く来てしまった。
朝練にも参加しちゃダメだなんてと、昨日までは思っていたけど。
今日は早く秋斗に会いたい気持ちが溢れてる。
あれっ!?
私ってこんなに秋斗のことを意識してたの!?
自分の新しい思いに気付かされた。
いつも見ている景色がなんだか違って見える。
それは私自身の環境に変化があったからなのか、恋愛をすることに積極的になってるからなのか、わからない。
でも昨日までと確実に違うのは、気持ちが憂鬱ではなくなった。
むしろ晴れやかになった気がする。
教室に入ると秋斗はまだ来ていなかった。
秋斗が来たらなんて言おう、そんなことを思いながら席に着いた。
教室に人が入るたびに目線を追ってしまう。
秋斗はまだだろうか。
秋斗が来た。
「おはよう、秋斗」
「おはよう」
挨拶が被っちゃった。
秋斗が来たのが嬉しくてタイミングが早くなってしまった。
なんだか照れてしまう。
秋斗が私がやりたいことを教えてほしいと聞いてきた。
私は秋斗に今朝書いてきたルーズリーフを見せた。
秋斗はニヤついた。
想像通りの反応で可愛いなと思った。
それから、早速今日の帰りに一緒に帰ることになった。
楽しみだな。
秋斗が一番最後に書いてあることについて聞いてきた。
「いやぁ、それは、まだ秘密で。あははっ……」
うん。
まだ、口に言うのは恥ずかしいかも。
「放課後が楽しみだな」
秋斗の言葉に今度は私がニヤけてしまった。
秋斗は気にしてないみたいだけど。
放課後が本当に待ち遠しい。
◇◇◇
終業式が終わり、明日から夏休みと告げられた教室内の空気は開放感に満ちていた。
皆が夏休みの過ごし方について、談笑していた。
俺と夏希も例に漏れずそれぞれクラスメイトたちと話していた。
俺と夏希はお互いに目立ちたくない性分なので、付き合っていることは誰にも知られたくないため学校内で一緒に帰る所を見られるのは避けることにした。
そのため学校外で待ち合わせることにした。
夏希は先に女子生徒と下駄箱の方へ向かっていた。
俺も後から夏希と待ち合わせている場所へ向かった。
学校から歩いて5分ほどにある公園。
けれど裏側なので人通りは少ない。
俺と夏希はそこで合流することになっていた。
「暑い中待たせてごめんっ!!」
俺は先に待っていた夏希に詫びた。
「大丈夫だよ、暑いのは慣れてるから。
それに秘密の待ち合わせみたいで、ドキドキしてた」
小麦色が似合う夏希が髪を揺らしながら爽やかに微笑んだ。
暑いはずなのに冷たい風が吹いたような心地よい涼しさを感じた。
「それじゃあ、帰ろうか?」
「そういえば、私たちってお互いの家知らないよね?秋斗の家はどこにあるの?」
夏希が今まで気にしたことなかったけど、私秋斗のことあんまり知らないかもと呟いていた。
「俺の家はここから徒歩で20分くらいかな。
家から近い高校選んだってのもあるし」
「そうなんだぁ。私は電車通学なんだよね。
私も自宅から学校まで20分なんだよね。
電車10分、徒歩10分って感じかな」
「なんか近いのか遠いのかわからないな」
「だよねー」
「せっかくなら、俺んちに行くか?」
「えっ!?いいの!?」
「俺、一人っ子で両親共働きだからさ。基本家には誰もいないんだよな」
「へぇ、そうなんだ……。秋斗って意外と大胆なんだね」
夏希がなぜか急にモジモジしながら髪を弄っていた。
「あっ……」
俺も夏希の反応を見て自分の発言の意味を理解した。
「違うよ。そんなつもりじゃないから……。
いや別にしたくないとかそういう意味じゃなくて……。まだ早いだろ……。わかんないけど……」
多分俺はテンパっていて必死に弁明しようとした。決して変な意味はないと。
「アハッ……。アハハハッ……」
夏希が大笑いしていた。
こんなに声を出して腹を抱えて笑っている夏希を初めて見た。
「ごめんねー。なんでだろうね……。秋斗ってなんか揶揄いがいがあるんだよね。ついつい冗談を言いたくなっちゃうの」
「なんだよ、それ。冗談にしては、夏希だってモジモジしてたじゃん」
「うっ……。それはさ、私だって、年頃なんだからさ、その、想像くらいはしちゃうじゃない?」
俺たちは二人して顔を茹でたタコみたいに真っ赤に染め上げていた。
初々しいにもほどがあるのかもしれない。
でも、何もかも初めての経験なので仕方ない。
色んなことをこれから経験していくんだ。
自分たちのペースでゆっくり進んで行けばいい。
「それで、お家には迎えてくれるの?」
また夏希が悪戯に微笑みながら言った。
「あぁっ。何もしないから安心してくれ」
俺もそれに張り合う様に微笑んだ。
俺たちは家に向かった。
「お邪魔しまーす。てか広いねー」
玄関を踏み越えた夏希が早速、探索している。
「別に普通の一軒家だろ」
「いや、うちはさ、集合住宅だから、広く感じるのさー。それに二階建てだし。羨ましいよ」
「俺の部屋2階だから。案内するよ」
俺は夏希を自分の部屋に案内した。
「おぉ、これが男子の部屋か」
またしても夏希はキョロキョロと部屋中を見回していた。
「あんまり覗くなよ。というか別に普通の奴よりは物は少ない方だと思うけど」
「他の人のを見たことないから、わからないよ。
でも何となく秋斗の部屋って感じがする」
夏希がなるほどとなぜか納得していた。
「お茶とかお菓子持ってくるから、待ってて。
あと物色するなよ」
「はーい」
あの返事は絶対何かする返事だな。
まぁ別に何もないと思うけど。
部屋に戻ると夏希が何か大きな本を開いていた。
それ以外に物色した形跡は無さそうだ。
「おーい。何見てるんだ?」
「おっ、秋斗。これって秋斗だよね?」
夏希が開いていたものはアルバムだった。
「そうだけど」
そういえば置き場所がないからと自分の部屋に幼少期のアルバムを置いていたのを忘れていた。
「可愛いー。女の子みたい。確かに秋斗って中性的な感じだもんね」
確かに両親のどちからといえば母親似ではあるが。
ペラペラとアルバムをめくり終えた夏希が呟いた。
「やっぱり、アルバムっていいよねぇ。見るだけでたくさんの切り取られた思い出が蘇ってきてさ」
そう言われると確かにそうだ。だから両親はアルバムを作成したのだろうか。
もしずっといられる未来があるのなら、夏希との思い出も形に残しておきたいとそう思った。
それから俺たちは明日以降に何をするか決めた。
予定はこうなった。
7月26日(土曜日) 夏祭りに行く、花火をする。
7月27日(日曜日) 海に行く。
7月28日(月曜日) 遊園地に行く。
7月29日(火曜日) 水族館に行く。
7月30日(水曜日) 映画館に行く。
7月31日(木曜日) 向日葵公園に行く。
夏希がやりたいことをやり尽くす。
俺たちの夏休みが始まる。