種明かし
納屋には農具や家具の一部が置かれていて、一見するとただの物置にしか見えない。しかし見る者が見れば、地面の土が一度掘り起こされ、再び埋められた不自然さが残っていることに気づく。
当然、忍び込んだ鈴蘭もまた、ひと目でその不自然な盛り土を看破したのである。
地面の中には、烏破たちが手に入れた武器を隠していたのだ。
”武器”——…、
すなわち銃火器であった。
鉄砲7挺と竹製の筒に入れた火薬が20個あった。
当時の火薬は”黒色火薬”と言って湿気に弱かった。故に、竹売りとして潜伏していた熊牙が用意した竹筒に入れ、納屋のさらに地面の中に埋め隠し、丁寧に保管していたのだ。
実はこの”黒色火薬”には、湿気に弱いことともう一つ特性がある。
それが、非常に引火性が高いことだった。
鈴蘭は埋められた火縄銃の1つに細工を施していたのである。
つまり、被衣を引っ張ると引き金が引かれるようにほつれた糸を結んでいたのだ。
雨が降るという誤算はあったものの、結果はご覧の通り上々。
納屋は吹き飛び、古屋の屋根を半壊させ、烏破の男たちの動揺を誘えた。
この隙を逃さず氷雨は前方にいる、柿麿と箏爪に迫り、鈴蘭は後方にいる、熊牙と手長を強襲する。
氷雨は薬箱の棒として隠していた刀を抜き、柿麿の首を狙いにかかる。
しかし、すんでのところで箏爪が割って入った。
(素手でで…? いや爪でか。)
箏爪の尖った爪が刃を受け止めていたのである。
一方で鈴蘭は、熊牙の心臓にクナイを突き刺す。
「熊牙ぁ!!」
と同時に心配した手長に向けて含み針を飛ばした。
「ッてぇ〜な、このクソガキがァ!!」
しかし、刺されたはずの熊牙は物ともせず、鈴蘭を古屋の外まで吹き飛ばす。肥えた脂肪の下には、かなり鍛えられた分厚い筋肉の鎧がまとわれていたのだ。
(…ホント、熊みたいな奴。)
鈴蘭は受け身を取りながら手長を見ると、難なく2本の含み針を指で挟み取っている。
(コイツも…さすがに、一筋縄じゃ行かないか。)
ここで、氷雨が燃え盛る炎を背に皮肉を込めて言い放った。
「だから忠告したでしょう。全てを失います、と。」
怒りに震える柿麿が、ようやく口を開いた。
「お前ら…聞きてぇことは山ほどあるが、なぜ無傷で生きておるのだ!!」
「ふふ…言うはずがないでしょう。…と言いたいところですが、冥土の土産です。特別に教えて差し上げましょう。私の秘奥の1つ、”仏慈胞膏”です。」
氷雨が生み出した9つの秘薬——。
その1つの”陽の膏”『仏慈胞膏』。
塗れば瞬時に殺菌、止血効果、痛みを和らげる効果が同時に作用し、劇的に治癒効果を上げる魔法のような秘薬だ。
「ただし、硬膏として利用すれば副次効果があるのです。それが、銃弾をも弾く硬さになることですよ。」
「莫迦な…、甲冑をも貫く威力だぞ!?」
「甲冑如きと私の秘奥を比べられるのはいささか心外ですね。」
「気をつけろ、柿麿!! 銃弾が通らぬと言うことは、彼奴らには生半可な攻撃は効かぬと言うことじゃ。」
一方で、手長はずっと引っかかっていた。
(…なぜ、あの場所が割れた? それに一体いつ細工した?3日前からここは持ち回りで警戒していた。まさか、それ以前にすでに潜入されて…? いやその可能性はない。柿麿様が、訪れた日以降に、この女たちがあそこに忍び込む理由などないはず…。この3日間、ここを通ったのは、あの土いじりをしていた爺さんだけだったし——…)
そこで、手長はハタと気づいた。
(土いじり…!!)
「まさか貴様、あの時の爺ィか!?」
鈴蘭がニヤリと笑う。
「今更気づいたって遅いのよ。ま、事前に策を練ってたのはアンタたちだけじゃなかったってこと。」
手長は、素直に驚愕した。変装技術も、細工を施した忍びとしての技術も、誰よりも間近で見たにも関わらず気づけなかったからだ。
「敵に回すとこれほど厄介とは…。」
鈴蘭の変装は実に単純な仕掛けだった。
和紙に氷雨が編み出した独自の軟膏を塗り、シワと肌感を再現。さらに、独自の喉を枯らす液薬でしゃがれ声を作った。片腕は、独自に作った木の義肢をはめ込み、その上から先の和紙を貼り付け、腕を再現していた。鈴蘭の場合、片腕を失っているという潜入感から、両腕がある人物に変装すると、周りに見抜かれた危険が極端に減るのだ。
しかしこの変装には、弱点がある。
それは触られれば、肌ではなく和紙の感覚があるので、すぐに見破られてしまうこと。鈴蘭は、この弱点を補うべく、あえて人との距離を一定以上近づけさせないように仕向けていた。これは幼少より仕込まれた忍びの素質というよりも、持って生まれた生来の気質によるものだと言える。
「さて、お互い種明かしも終わりましたね。」
「…確かに、事前の策はお前たちの方が一枚上手であったな。」
怒り心頭といった柿麿だったが、ここは素直に氷雨たちを賞賛した。
「雨とはいえ、この火の手…。城下町の物見櫓にも遅かれ早かれ気づかれるでしょう。お互い尻に火がついた状態ですゆえ、早めに決着を付けさせてもらいます。」
実は、氷雨にとってもこの時点で4人とも生き残っているのは誤算だった。数で劣る氷雨たちが、力量確かな相手を確実に葬るためにはやはり”虚”を衝くことが重要だった。
それゆえに、まず『仏慈胞膏』を使い、一度目の隙を生み出した。
ここで鉄砲使いの男たちを無力化する。
そして、それでも戦闘が避けられなくなった場合の切り札として、二度目の納屋を爆発させることで、今度は烏破の数を減らす算段だった。
しかし、それでも彼らは生き残っている。
(…実力勝負でやるしかない。)
「お前らは必ずここで殺す!!」
6つの影が踊るように夜闇を舞った。




