舌切雀
むかし、むかし、おじいさんとおばあさんがいました。
二人の間には子供がいませんでした。そのさみしさか、おじいさんは一匹の雀をたいそう可愛がっていました。そんなおじいさんをみるとおばあさんは子供を産めなかった自分が責められているようで悲しくなってしまうのでした。雀に何の罪もないとわかっていても、おばあさんは雀につらく当たるのでした。
おじいさんが家にいない、ある日、事件は起こりました。おばあさんはおじいさんにこざっぱりとした糊のきいた着物を着せようと糊を作っていたのですが、あろうことか、その糊を雀が食べてしまったのです。ご飯粒で糊を作っていたのです。この頃の米は大変、貴重なものでした。
腹をたてたおばあさんは雀の舌をはさみでちょん切ってしまいました。そのまま、雀は逃げてしまいましたが、家に帰ってきたおじいさんはことの顛末をきいて呆れました。
「なんと、むごいことを・・」
おじいさんは雀を探しに出かけました。
「おじいさん、私はここです」
雀に招かれて、おじいさんは、雀の宿で大変な歓待を受けました。普段は食べたことのないごちそう、雀のにぎやかな踊り。楽しんでいたおじいさんですが、ふと、自分の着ている着物をみました。糊のきいた着物です。いつも、貧しいながらも心を込めて作ってくれている食事、せまいながらも片付いた家。
そんなことを考えているとおじいさんはおばあさへの愛おしさがこみあげてくるのでした。
確かに舌を切るというのはやりすぎだ。だが、おばあさんはそのことを隠そうとしなかった。そういう女なのだ。しみじみ、おじいさんは思いました。
おじいさんが帰るというと雀がいいました。
「大きいつづらと小さいつづら、どちらか、おみやげに持って帰ってください」
「いや、わしは、なにもいらん。どうかおばあさんのやったことを許してやってほしい」
「わかりました。私もおばあさんのことを考えていませんでした。長年、お世話になったお礼にどうか、おばあさんにこのかんざしと着物を持って帰ってください」
「ありがとう」
おばあさんは雀にしたことを後悔していました。
「おじいさんは、もう帰ってこないかもしれない」
そう思っていたところにおじいさんは帰ってきました。
「ばあさんや、この着物とかんざしがを雀がくれた。お前によく似合う」
おじいさんはおばあさんの髪にかんざしをさそうとしました。
「そんな派手なもの、年寄の私には似合いません」
おばあさんはそっぽをむいてしまいました。
「そんなことはない。お前は今も昔もきれいだ」
おばあさんはそっぽをむいたままでしたが、うれしそうなのがわかりました。
そうだ。この女は若い頃からこういう女だった。
「これからも二人、仲良く暮らしていこうではないか」
おじいさんはおばあさんにかんざしをさしてやりました。
その後、おじいさんとおばあさんはいたわりあいながら、余生を楽しく幸せにくらしました。
おわり